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映画「モンタナの目撃者」ネタバレ感想&解説 小ぶりで地味な作品ながらも、独特のトーンが魅力の良作!

「モンタナの目撃者」を観た。

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アンジェリーナ・ジョリーが11年ぶりにアクション映画の主演を務め、山火事と暗殺者という両方の脅威から少年を守る森林消防隊員の戦いを描いたサバイバルアクション。監督/脚本は「ボーダーライン」の脚本や「ウインド・リバー」といった作品で、ファンから絶大な信頼を得ているテイラー・シェリダン。本作はシェリダンのオリジナル脚本ではなく、マイケル・コリータの小説が原作となっている。共演には「マッドマックス/怒りのデス・ロード」のニコラス・ホルト、「シング・ストリート未来へのうた」のエイダン・ギレン、「フォードvsフェラーリ」のジョン・バーンサル、そして今回見事な演技を見せた子役のフィン・リトルなど。今回もネタバレありで感想を書きたい。


監督:テイラー・シェリダン

出演:アンジェリーナ・ジョリーニコラス・ホルトエイダン・ギレン、フィン・リトル

日本公開:2021年

 

あらすじ

過去に悲惨な事件を目撃したことで、心に大きなトラウマを抱える森林消防隊員ハンナは、ある日の勤務中、目の前で父親を暗殺者に殺された少年コナーと出会う。コナーは父親が命懸けで守り抜いた秘密を握る唯一の生存者であるため、暗殺者に追われる身となっていた。コナーを守り抜くことを決意するハンナだったが、2人の行く手に大規模な山林火災が立ちはだかる。

 

パンフレット

価格850円、表1表4込みで全28p構成。

横型オールカラー、紙質とデザインのクオリティが高い。テイラー・シェリダン監督やアンジェリーナ・ジョリーをはじめ各キャストのインタビュー、ライターの辰巳JUNK氏、映画評論家の北小路隆志氏、牛津厚信氏のコラムやプロダクションノートなどが掲載されている。

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感想&解説

CGを多用した完全な新作なのに、まるで70年代作品のような”クラシック感”さえ感じさせる、テイラー・シェリダン監督らしい映画だったと思う。雪山を舞台にした2017年「ウインド・リバー」も、かなり”限定的な空間”を舞台としていたが、本作「モンタナの目撃者」も基本的には山中だけの追跡劇でありながら、アクションとサスペンスで楽しませてくれる良作だった。ただ「アンジェリーナ・ジョリー主演」というインパクトとは裏腹に、作風はかなり地味で、2000年代初頭の「トゥームレイダー」シリーズや、2008年「ウォンテッド」のようないわゆる”大作アクション映画”を期待すると、残念な作品に映るだろう。むしろ本作においてアンジーのアクションシーン自体はあまりなく、一緒に逃亡する少年との交流シーンが大半を占める。しかも過去の森林火災で、3人の子供の命を救えなかったというトラウマを抱えている設定のため、特に前半はウジウジと悩みがちな主人公像になっており、彼女のパブリックイメージとはかなり違う。アンジーも46歳ということもあり「Mr.&Mrs.スミス」の頃から、演じたい役も変化しているということだろう。

ただ本作には、主人公以外にも魅力的なキャラクターが多く登場する。特に暗殺者役のエイダン・ギレン演じるジャックとニコラス・ホルト演じるパトリックの二人組が、”極悪”キャラで最高だ。普段は完璧な殺し屋なのに、今回は「予算削減&人数削減」という暗殺組織の現実的な理由のため、二人だけで仕事をこなさないといけなくなり、その為に失敗を重ねてパニックに陥っていくという面白い役だ。冒頭の”ガスの点検”を口実にして屋敷の中に侵入し、次のカットではもう家から血の付いたシャツで出てきて、そのまま振り向きもせずに屋敷を爆破するシーンのクールさと「暴力シーンを省略することによる暴力性」は、監督の技量もさることながら、このキャラクターの登場シーンとして光っている。そして、この二人をもっとも追い詰めるキャラクターとして、メディア・センゴアという黒人女優が演じる、妊婦の「アリソン」というキャラクターがまた最高なのだ。


実際、映画を観終わったあと印象に残っているのは、主人公のハンナよりもこのアリソンだろう。夫婦でサバイバル教室を営んでいる妊婦という設定もあるが、暗殺者に脅されて火鉢を顔面に押し付けられそうになる絶体絶命シーンから一変、バナーを使ってエイダン・ギレンを火だるまにしつつ銃撃を華麗にかわし、その後、拉致された夫をライフル片手に馬で颯爽と救いに行く場面は、まるで彼女が主人公のようだ。さらに暗殺者と向き合った状態で、どちらが先にリロードできるか?を競うシーンでの銃を扱う手つきなど、間違いなく彼女が本作のMVPだろう。そして、彼女の夫イーサン役を「ウインド・リバー」にも出演していたジョン・バーンサルが演じているが、妻を心底愛している夫を好演していて素晴らしい。「ウインド・リバー」でも、警備員の同僚たちから恋人を守るため、最終的には殺されてしまう男を印象的に演じていたが、ジョン・バーンサルテイラー・シェリダンの"お気に入り役者"なのだろう。


ネタバレになるが、ストーリーの概要はシンプルだ。闇世界の男たちにとって公開されたくない秘密を握った会計士とその息子コナーが、モンタナの山奥にいる友人イーサンに助けてもらうために逃走する。それを暗殺者たちが追うという序盤の展開から、会計士が殺され、その情報がコナーへと手紙で伝えられていたため、今度は息子が命を狙われることになる中盤の展開。そして偶然にコナーと出会った森林消防隊員のハンナが彼を守り、暗殺者たちが放った山火事からも逃げつつ、少年を無事に下山させるまでを描いた作品である。ただ「現代劇」でありながらも、まるで時間が止まったような世界観なのが面白い。そもそも会計士は、メディアに公表したい情報を「SNSで拡散する」とか、「データ化してクラウドにあげる」といったネットの手段を一切とらず、息子に「手書きの手紙」で託す。ここから解るように、本作においての「手紙の内容」は、あくまでキャラクターたちが奪い合う”マクガフィン”であり、本作の中で詳細が語られることはない。テイラー・シェリダン監督にとってはどうでもよい設定で、もっと語りたいことがあるという事だろう。


本作はテイラー・シェリダン流の「少年が男として成長する物語」で、ベースは「西部劇」なのだと思う。物語に直接関係のない、序盤のコナーが馬を触り交流するシーンは、それを暗示している気がする。また本作のコナー少年は、典型的な「守るべき子供」として描かれていないのも特徴で、ハンナも「母親」として彼に接していない。本来コナーは父母を亡くしているため、通常の映画としてはこういうシチュエーションで芽生えるはずの、”親子感”がもっと演出されると思うのだが、本作ではこれが極めて薄い。そのため独特なトーンを生んでいるのだ。例えば、アンジェリーナ・ジョリーが着替えをするシーンが不自然に挟み込まれるのだが、ここで彼女は少年に「後ろを向いて」と指示する。これに対してコナーは「気にしないよ」と答えるのだが、そもそもここでアンジーの着替えシーンを入れる必然性もないし、二人の”異性感”だけが浮き上がってくる妙な場面だ。こういったシーンを意図的に入れることで、巧妙に二人の”親子感”を遠ざけている気がする。


終盤、火が燃え盛る森の中へ逃げたハンナとコナー。そして、ニコラス・ホルト演じる暗殺者と対決することを選んだハンナは、コナーに先に進むと見つけることができる川の位置を教え、そこに潜って隠れるようにと指示する。だが銃を構えて襲い掛かる暗殺者に抵抗され、絶対絶命のピンチのハンナを避難したと思っていたコナーが現れて救うという展開になる。ここからハンナとコナーは連携して暗殺者を倒し、川の中で山火事が収まるのを待つ。そしてラストシーン、コナーは「これからの生活、どうしたらいい?」とハンナに聞く。ここでまた不自然に、アンジーの微妙な表情のアップが長く映され、「一緒に考えましょ」というセリフで映画は終わるのだ。


この一連のシーンも不思議で、無事に救助されたことを喜び合うセリフでも成立するし、苦難を乗り越えた”親子”として、これから一緒に暮らしていくという場面にしても、全く違和感はない。なのにこの演出では、まるで恋愛映画において、女性が駆け引きしながらも「実はもう気持ちは決まっている」という場面にすら見える。コナーが男として成長した為、最後にハンナが受け入れたという、年齢を越えた"男女のシーン"に感じるのである。もちろんこれはひとつの解釈で、監督の意図ではないかもしれないが、ハンナは過去のトラウマを乗り越え、コナーは男として成長したことで、それぞれが”親子ではない”新しい家族を見つけたという場面に見えるのだ。コナーの年齢をもっと上げても下げても、この映画はまったく違う雰囲気になった気がして、この絶妙な年齢設定が本作のひとつの味になっていると感じた。


テイラー・シェリダン監督らしい古風で骨太な作品だったが、前作「ウインド・リバー」に比べるとやや地味な小品だったとは思う。アンジェリーナ・ジョリーは傷だらけでボロボロになりつつ、過去の華麗なイメージを払拭するような熱演だったが、妊婦役のメディア・センゴアやコナーを演じたフィン・リトルの印象が強すぎて、本作ではやや割を食ったかもしれない。また、ジョン・バーンサルが演じるイーサンがラストで死ぬ展開も後味が悪いため、本作に関してはハッピーエンド展開でも良かった気がする。正直、いつものテイラー・シェリダン脚本が持つ”多面性”は薄く、いつまでも頭に残り続けるような作品ではないが、上映時間の間は退屈しない面白いサスペンスだった。次は"脚本家"としてのテイラー・シェリダンが手掛ける作品がぜひ観たい。

6.5点(10点満点)