映画を観て音楽を聴いて解説と感想を書くブログ

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映画「ハウス・オブ・グッチ」ネタバレ考察&解説 リドリー・スコットらしくビジュアルセンスは最高!ただ脚本の骨格は、残念ながらベタなメロドラマ!

「ハウス・オブ・グッチ」を観た。

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ノンフィクション小説「ハウス・オブ・グッチ」を原作に、世界的なファッションブランド「GUCCI(グッチ)」の創業者一族の崩壊を描いた、サスペンスドラマ。監督は「エイリアン」「ブレードランナー」「グラディエーター」といった名作を数々送り出し、近作でも「最後の決闘裁判」という傑作を作り上げたリドリー・スコット。出演は「アリー/スター誕生」のレディー・ガガ、「ブラック・クランズマン」のアダム・ドライバー、「スカーフェイス」のアル・パチーノ、「戦慄の絆」のジェレミー・アイアンズ、「ブレードランナー 2049」のジャレッド・レトなど、超豪華キャストだ。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。


監督:リドリー・スコット

出演:レディー・ガガアダム・ドライバーアル・パチーノジェレミー・アイアンズジャレッド・レト

日本公開:2022年

 

あらすじ

貧しい家庭出身ながら野心的なパトリツィア・レッジャーニは、とあるパーティーで世界的ファッションブランド「グッチ」創業者の孫であるマウリツィオ・グッチと出会う。互いに惹かれ合うようになった二人は、周囲の反対を押し切って結婚。やがて、セレブとしての暮らしを満喫する彼女は一族間の確執をあおり、グッチ家での自分の地位を高め「グッチ」ブランドを支配しようとする。そんなパトリツィアに嫌気が差したマウリツィオが離婚を決意したことで、危機感を抱いた彼女は殺人計画を立てる。

 

 

パンフレット

価格880円、表1表4込みで全28p構成。

正方形オールカラー。ページ構成などのデザイン性が高く、クオリティ良し。レディー・ガガを含むキャスト陣のインタビュー、リドリー・スコット監督のインタビュー、映画評論家の斉藤博昭氏、映画ジャーナリストの猿渡由紀氏のレビュー、プロダクションノートなどが掲載されている。

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感想&解説

先日、クリント・イーストウッドの新作を観たばかりだが、リドリー・スコット監督も84歳とは思えない現役ぶりを見せているクリエイターだろう。2021年10月に「最後の決闘裁判」という傑作を公開したばかりなのに、2022年早々に最新作「ザ・ハウス・オブ・グッチ」が日本でも公開された訳で、その多作さには驚かされる。どうやら本作は2021年2月から5月の間の43日間という、ハリウッド大作にしては短期間で撮影され、同年11月にはワールドプレミアが行われたというから、スピーディな映画制作だったようだ。ただしリドリー・スコットが原作の権利を取得したのが2000年代初頭ということで、レディー・ガガの出演が決まりスコット自らの監督が決定するまでは、長い期間この企画は停滞していたらしい。それだけ本作の主演キャスティングは重要だったということだろう。

それにしてもリドリー・スコット作品は、いつもビジュアルが素晴らしい。特に本作は一流ファッションブランドがテーマの映画という事もあり、イタリアのロケーションからキャスト陣の衣装、ベンツやフェラーリといった登場する車や屋敷の調度品まで、画面に映るすべての要素が洗練されていて美しい。実際に「GUCCI」が提供したアイテムも多数登場するということで、ファッション業界にそれほど詳しくない自分でも、スーツやスカーフやサングラスのひとつひとつのデザインを観ているだけで、楽しく時間が過ぎる。特にジェレミー・アイアンズ演じるロドルフォ・グッチと、アル・パチーノ演じるアルド・グッチのコーディネートや色味の違いには、それぞれの性格が表現されていて面白いし、ジャレッド・レトが演じた”パオロ・グッチ”は、ほとんど”変装レベル”の特殊メイクで役作りに挑んでおり、これもひとつのアート表現として楽しめる。正直、本作のジャレッド・レトは事前にキャスティングを知らないと誰だか解らないほどだ。


また本作を語るうえではもちろん、主演のレディー・ガガの存在を抜きでは語れない。2018年ブラッドリー・クーパー監督の「アリー/スター誕生」では「アカデミー主演女優賞」にノミネートされた他、主題歌では「最優秀歌曲賞」を受賞し、天が二物を与えまくった才能を見せつけていた。そして今回は歌ではなく、演技のみで”パトリツィア・レッジアーニ”という、最終的には夫の殺害を目論む女性の30年間を演じているが、「グッチ」という権力に溺れていく姿を見事に演じ切っており、受賞は逃したが「第79回ゴールデングローブ賞」の「主演女優賞」にもノミネートされていた程だ。本人は3種類の動物を意識して演技したと語っており、若いころのパトリツィアは猫、その後はキツネ、そして終盤はヒョウをイメージしたらしい。なるほどこれは納得である。


そして本作もう一人の貢献者は、アダム・ドライバーだろう。冒頭の朴訥な青年が恋に落ち、それから変貌していく妻によって徐々に純粋さが失われ、遂にはパトリツィアに離婚を切り出すことで最後には殺されてしまう御曹司を、あの特徴的な髪型とメガネで飄々と演じている。「最後の決闘裁判」から二作続けてのリドリー作品の起用という事で、監督からも”カメレオン俳優”だと称賛されているが、「スター・ウォーズ」シリーズのJ・J・エイブラムスは言うに及ばず、ノア・バームバックジム・ジャームッシュマーティン・スコセッシスティーブン・ソダーバーグスパイク・リーと名立たる監督から次々と指名を受け、次の新作はレオス・カラックスのミュージカル作品「アネット」らしい。本作「ハウス・オブ・グッチ」もレディー・ガガアダム・ドライバーの共演が、大きな魅力になっているのは間違いないだろう。この俳優の娯楽作からアート寄りまでの幅広い作品選びのセンスは、本当に素晴らしいと思う。

 


という事でビジュアル良し、キャスティング良し、編集の切れ味良し、ジャージ・マイケルやドナ・サマーからオペラまでの音楽の使い方もセンス最高という事で、映画として傑作になりそうだが、残念ながらそうならないのが映画の難しいところだ。本作においては、脚本の出来がよろしくない。もちろん実話ベースのストーリーだし原作ありきの脚本なのだろうが、ストーリーの推進があまりに弱いと思う。特に「GUCCI」創業者の孫であるマウリツィオが、妻であるパトリツィアを含む4名に殺害されたという史実を知ってから映画を観ると、特になんの捻りも驚きもないまま映画はエンディングを迎えることになる。また上映時間も157分と長めのため、正直冗長に感じるシーンも多い。正直劇中で登場する「クリムト」の絵画のように、美術館に展示してある”芸術品”を眺めるような作品になっており、ストーリーの骨格だけ取り出せばあまりによくある”メロドラマ”なのだ。


また各キャラクターの性格も、人物の中身がそのまま外見とセリフ回しに反映されていて”単色”だ。バカなキャラクターはそのまま最後までバカだし、悪に染まったキャラクターは最後まで”その色”のままだ。上映時間の割には、感情の変化や機微といった”内面”を掘り下げる描写がほとんど無いために、登場人物が次に取る行動がシンプルすぎて平坦なのである。レディー・ガガアダム・ドライバーのセックスシーンも、突然コメディのような演出でスベッていたと思うし、ラストのセリフであるパトリツィアの「グッチ夫人と呼びなさい」は、あまりに本作のメインテーマである”権力に溺れた女”をストレートに表現しすぎていて、野暮ったい。やはり脚本がイマイチなのだと思うが、逆を言えば非常にシンプルな内容なので、その分スクリーンに映る美しい映像に集中できるとも言える。


繰り返しになるが、”映像作品”としては一級品の映画だ。イタリアが舞台の作品で登場するイタリア人を、ほぼアメリカ人俳優が英語で演じているのは、ハリウッド映画のお約束なので気にしないとして、豪華キャスティングが織り成す演技アンサンブルは間違いなく見応えがあるし、まるで歌舞伎役者のように派手で面白い。劇中に”トム・フォード”が登場するが、ファッションに造詣の深い方なら特に、映画内に登場するヴィンテージアイテムなどを観るのも楽しい体験だろう。ただ残念ながら映画としては、超豪華な2時間37分のメロドラマといった範疇を出ておらず、リドリー・スコット監督の「プロメテウス」「悪の法則」「オデッセイ」「最後の決闘裁判」といった、2010年代の傑作群には正直及ばない完成度だったと思う。個人的には期待値が高かった為、やや残念な作品であった。

6.0点(10点満点)