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映画「シン・ウルトラマン」ネタバレ考察&解説 庵野秀明の"ウルトラマン愛"がダダ漏れ!ただ小ぢんまりとした"ファンムービー"的な作品!

「シン・ウルトラマン」を観た。

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日本を代表する特撮ヒーローの代表作「ウルトラマン」を、「シン・ゴジラ」の庵野秀明樋口真嗣のタッグで新たにリブート映画化。庵野秀明は総監修/企画/脚本、樋口真嗣は監督というポジションでクレジットされている。主人公である神永新二&ウルトラマン斎藤工、その相棒となる浅見弘子を長澤まさみが演じ、その他の出演は西島秀俊Hey! Say! JUMPの有岡大貴、早見あかり田中哲司ら。今回のウルトラマンのデザインは、「ウルトラQ」「ウルトラマン」などの美術監督として多大な功績を残した成田亨が担当している。「シン・エヴァンゲリオン」が大ヒットした庵野秀明の最新作としても、あのウルトラマンの現代的アプローチ作としても注目度の高い本作。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。


監督:樋口真嗣

出演:斎藤工長澤まさみ西島秀俊、有岡大貴、早見あかり山本耕史

日本公開:2022年

 

あらすじ

「禍威獣(カイジュウ)」と呼ばれる謎の巨大生物が次々と現れ、その存在が日常になった日本。通常兵器が通じない禍威獣に対応するため、政府はスペシャリストを集めて「禍威獣特設対策室専従班」=通称「禍特対(カトクタイ)」を設立。班長の田村君男、作戦立案担当官の神永新二ら「禍特対」のメンバーが日々任務にあたっていた。そんなある時、大気圏外から銀色の巨人が突如出現。巨人対策のため禍特対には新たに分析官の浅見弘子が配属され、神永とバディを組むことになる。

 

 

感想&解説

子供のころに初代ウルトラマンを再放送で観ていた年代で、バルタン星人やゼットンゴモラのソフビ人形を親に買ってもらっていたのが懐かしい。とはいえ”コアファン”ではまったくないのだが、「シン・ゴジラ」に続いて、庵野秀明樋口真嗣のタッグで「ウルトラマン」のリブートをやるという事で楽しみにしていた本作。結果、完全に庵野秀明のクリエイターとしてのエゴ全開で作られた、”ウルトラマン愛”ダダ漏れの映画だったと思う。これは「空想特撮映画」と書かれたタイトルからも感じるし、有名な話だが、庵野秀明大阪芸術大学時代にインディー版ウルトラマン映画を制作していて、「特撮でもっとも好きな作品はウルトラマン」だと公言しているくらいなので、作品からは並々ならぬ愛情を感じる。正直、樋口真嗣氏が監督としてクレジットされているが、実際はかなり「総監修/企画/脚本」である庵野氏の意向が強く反映された作品なのではないだろうか。

しかも、もちろんクリエイターが同じなので当然といえば当然かもしれないが、かなり庵野監督作「シン・ゴジラ」とは作風が近い。これは竹野内豊がほぼ同じ”政府側の役人”として登場する点でも感じる訳だが、直接的に同じ世界観ではないにしろ、かなり近い”ユニバース”として存在しているという事だろう。とにかく全編に「庵野印」が刻印された映画であったと思う。ただ、映画作品として「シン・ゴジラ」と「シン・ウルトラマン」のどちらが好きな作品だったか?と問われれば、個人的には圧倒的に”前者”だったと答える。今回の「シン・ウルトラマン」は、かなりインディー映画の匂いが強い、やや特殊な作品だと感じたからである。もちろん難解な映画ではまったく無い。お話自体はそれほど捻った作りではなく、むしろシンプルな構造だと思う。ただ全体的に、非常に”こじんまり”としているのである。「ミサイルの請求はうちじゃなく、防衛省に回してくれ」という劇中のセリフがあったが、今回は「シン・ゴジラ」に比べて、何らの事情でかなり制作予算が少なかったのかも?と勘ぐってしまった。


まず、「禍威獣(カイジュウ)」と呼ばれる謎の巨大生物(ウルトラQ!)が次々と日本だけに現れ、それが日常化したという世界観の割には、あまりそれが具体的に描かれない。世間の人たちの生活が「禍威獣」によって、どれだけ恐怖と困難にさらされているのか?の描写がほとんどないばかりか、どちらかといえばサラリーマンが通勤していたり、公園で子供が遊んでいたりといった「普通の生活」ばかりが描かれるので、あまり市民の切迫感や恐怖感を感じないのである。それに対する、西島秀俊演じるリーダーが率いる「禍特対(カトクタイ)」はたったの5名だけだし、真剣に日本という国がこの「禍威獣(カイジュウ)」に対して、国際社会とバランスを取りながら対策しているようには見えない。一言で言えば、「描かれている世界が狭い」のである。ここが東京を完全にパニックに陥れていた、「シン・ゴジラ」とは決定的に違う点だろう。


ここからネタバレになるが、物語後半でHey! Say! JUMP有岡大貴が演じる物理学者の滝明久が、ゼットンに敗れたウルトラマンからヒントをもらい、全世界の英知を結集して対策を講じるという、いわゆる”熱い展開”になる。あまりに力のレベルが違う外星人たちの闘いに、もう人間に出来ることはなにもないと匙を投げていた科学者が、「もう一度人間たちの底力を見せる」という非常に重要なシーンだと思うが、なんとここで監督は、滝明久が「PlayStation VR」のゴーグルをかけて、世界の科学者と会議をしている姿を俯瞰で見せるのである。しかもその姿を見ている他のキャラクターに「シュールだ」とコメントさせるのだが、これは個人的に大きなマイナスポイントだった。ここはシンプルに、世界の科学者と真剣に議論している姿を観せた方が良かったと思う。なぜならこの場面が本作で唯一、小さな存在の人間が怪獣という圧倒的な存在に対して抗う場面だからだ。ここにつまらない”ハズシ”の展開は必要ないと思う。この作品、(旧作にも存在する場面ではあるが)長澤まさみを巨大化させて無表情で歩かせたり、足を上げて停止されたりと、今の視点で見ると”外し”を狙ったギャグ的な場面が入るのだが、正直これがあまり効果的でないばかりか、全体の作品の質を落としている気がして勿体ない。


ストーリー展開も「禍威獣(カイジュウ)」という名の、エヴァンゲリオンで言えば「使徒」が順番に日本を襲ってくるという、短いエピソードの連続を繋ぎ合わせたような構成になっており、映画全体で大きなストーリーを描くという構造ではないため、どうしても「ブツ切れ感」が強い。しかもウルトラマンが格闘している以外のシーンでは、人間がただただ右往左往したり絶望したりしているだけで、西島秀俊長澤まさみ早見あかりも、本当に何も活躍しないし役に立たないため、終盤のウルトラマンが戦わない場面になると退屈に感じてくる。ただ本作での白眉は、山本耕史が演じるメフィラス星人だ。出番は少ないのだが、彼が斎藤工と飲み屋で語り合うシーンは、まるでポリティカルサスペンスを観ているような緊張感があり、非常に楽しい場面であった。山本耕史という役者のちょっと人間離れした存在感が、役にぴったりとハマっていて、素晴らしい演技だったと思う。

 

 


という事で、どちらかと言えば厳しい感想が続いてしまったが、個人的に本作でもっとも良い点は、ウルトラマンと怪獣の造形だ。長澤まさみが初めてウルトラマンを見るシーンで、おもわず「綺麗」とつぶやいてしまう場面があるが、本当に今作のウルトラマンは美しい。スーツアクターではなく、CGのヌルヌル動くウルトラマンには賛否両論ありそうだが、”銀色の巨人”が現れる冒頭の場面には完全に心を掴まれてしまったくらいだ。またスペシウム光線を発射する場面もカッコ良く、カラータイマーが無い造形も含めて、ここはクリエイター庵野秀明のこだわりを強く感じる場面であった。自らの命を犠牲にしてでも、人類を救おうとするラストのウルトラマンの行動は、まるで神そのものだ。それはクリエイターとして、自分をここまで成長させてくれた庵野秀明の、ウルトラマンへの感情が吐露されている気がする。彼にとってウルトラマンとは神格化された対象であり、自分を救ってくれた特別な存在なのだろう。


とにかく本作、ウルトラマンの格闘シーンは見応えがあって楽しいし、作り手の「愛情」を強く感じる。ただそれ以外のシーンは、歪なバランスの作品で娯楽映画としてのシンプルなカタルシスは薄いかもしれない。本作はある程度、この愛情を共有できる”ウルトラマン・ファン”じゃないと、評価は厳しくなるかも?とも思う。僕もコアなファンではないので映画全体としては、やはりやや辛口になってしまったが、とはいえ本年度を代表する邦画作品の一本であることは間違いないだろう。脚本/監督を担当する庵野秀明の次回作は、「シン・仮面ライダー」という事で、現在予告編も流れているが、これはかなり期待できそうだったので今から2023年3月の公開が楽しみだ。

6.0点(10点満点)