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映画「呪詛」ネタバレ感想&解説 冒頭から伏線の嵐!POVだからこその演出で描かれる、最恐ホラー!

「呪詛」を観た。

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台湾の2022年公開映画の興行収入で新記録を樹立し、日本でも7月からNetflix配信限定にも関わらず、あまりの怖さの為に話題となっているファウンド・フッテージ・ホラー。監督/製作/脚本はケビン・コー。台北映画祭では長編映画賞など7部門にノミネートされ、「助演男優賞」と「美術賞」を受賞している。先日、日本でも「哭悲(こくひ)/THE SADNESS」が公開になっており、そのゴア表現の凄まじさから話題になっているが、いま台湾のホラー映画が熱いようだ。本作「呪詛」はSNS上でも、「これまで観た映画で一番怖い」「夜に一人で観てはダメなやつ」などの声が多数あがり、日本のNetflix視聴ランキング「今日の映画TOP10」でも、常に上位ランクインしている文字通りの”話題作”である。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:ケビン・コー
出演:ツァイ・ガンユエン、ホアン・シンティン、ガオ・インシュアン、ショーン・リン
日本公開:2022年

 

あらすじ

主人公は過去にある宗教施設で禁忌を破り、その呪いを受けることとなったリー・ルオナン。それから6年の月日が経ち、恐ろしい呪いが自分の娘に降りかかったと知った彼女は娘を守ろうとする。

 

感想&解説

休日の夜にふと時間が空いたので、以前から気になっていた「呪詛」をひとりで観始めたのだが、始まって30分くらいで後悔した。ホラー映画は相当観てきているし、自分には”ホラー免疫”があるだろうと油断していたが、中盤のあるシーンで完全に涙目になった。確かにこれは本当に怖い。派手な演出でビックリさせたり、残虐描写でドキドキさせるタイプではなく、ジワジワと嫌な恐怖を感じるタイプの作品で、ハリウッド製ホラーのように直接的な暴力描写はほとんど無いのだが、こちらを容赦なく精神的に追い込んでくる。ちなみに”虫”が苦手だったり、小さな穴の集合体に対する恐怖症”トライポフォビア”の方もやや厳しいかもしれない。ただ「リング」呪怨」のような、ジャパニーズホラーから多くの影響を受けているであろう、”正統進化系作品”として、ホラー映画ファンはスルーするには勿体ない新たな名作だと思う。

本作は、Youtuberとして動画配信している主人公が、画面を観ている観客に向けて頻繁に語り掛けてくる。また彼女たちが撮影している映像を通じて、観客は情報を得るような構造になっており、「食人族」「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」「REC/レック」「パラノーマル・アクティビティ」あたりが代表作だと思うが、「クローバーフィールド」「武器人間」「エンド・オブ・ウォッチ」など、ホラージャンル以外でも一時代を築いた手法だ。ただ、製作費がかなり安く済むという理由もあり、玉石混交で作品が乱立し、中には「ヴィジット」のような良作もあったが、POV作品はやや廃れてきたという印象があった。だが本作は、この方法だからこそ成立する”ある仕掛け”が用意されており、SNS時代としての現代的なアップデートがされているのも上手い。また「呪詛」は参考にした実際の事件があるらしいが、基本的にはオリジナル・ストーリーで、作り手の新しいホラー映画を作ろうという気概を強く感じるのも良い。しかも安易な”ジャンプスケア”や”スラッシャー描写”に頼らずとも、本作はこれだけ怖いのだから、それは十分に成功していると言えるだろう。

 

ストーリーの概要としては、下記だ。主人公はシングルマザー、リー・ルオナン。かつて「超常現象調査隊」を名乗り恋人や弟たちと怪奇スポットを巡るYouTuberだったのだが、6年前に“絶対に入ってはいけない地下道”を訪れたあと、強い恐怖と悲劇を経験した為に精神を病み、今では娘ドゥオドゥオとも離れて暮らす身だった。だが、そんな彼女のメンタルもようやく回復し、ついにドゥオドゥオとの生活を始めるルオナンだったが、その日から奇妙な出来事が起こり始める。ドゥオドゥオは”見えない何か”を見るようになり、家の中ではポルターガイストが発生する。さらにドゥオドゥオが何かに導かれるように謎の呪文を唱え始めると、彼女の身には半身不随や原因不明の高熱、さらに体中に穴が開いたりといった異変が生じるようになる。裁判所からは親権剥奪を宣告されたルオナンだが、娘との暮らしを守るために里親だったチーミンと共に逃走を図り、6年前に訪れた導師のもとへ向かうと、導師と弟子はドゥオドゥオに7日間飲食禁止を命じる。だが物も食べられずそのために点滴も打てないため、徐々に衰弱していくドゥオドゥオ。呪いの強さから頼みの綱である導師と弟子も死に、明らかにこの原因が6年前の事件にあると確信するルオナンは、ビデオカメラに向かい視聴者に向けて、ある頼みを語りかけるのだった。

 

冒頭から、主人公のルオナンが観客に向かって「簡単な実験をしよう」と提案してくる。観覧車のイラストがアニメーションしており、「観覧車が右回りになるように念じて」、「次は左回り」と指示をしてくるのだが、そのタイミングに合わせて実際に観覧車は回転の向きを変化させる。さらに走行中の電車が映しだされて、その進行方向でも同じような件があり、これを持ってルオナンは“意志の力”には、世界を変えることさえできると説明する。だが、ここで受ける印象はそんな事よりも、「なにかに参加させられている」という感覚だ。画面の向こうの人物から指示されたことに、自分がコントロールされたイメージ。実はこの時点から、この作品の伏線は始まっているのである。

 

 

ここからネタバレになるが、冒頭に引き続き最後にも、ルオナンが再び観客に向かって、「ホーホッシオンイーシーセンウーマ」という呪文を唱えるようお願いしてくる。劇中での説明では、これは呪いを受けないための祈りの言葉で、祈る人が多いほど幸せの力が集結させると説明されており、呪いを受けた我が子のために皆で祈ってほしいと言うのだ。さらに画面では、この呪文が何度も何度も繰り返されるために、観ているこちらも思わず頭で呪文がリフレインされてしまうように”設計”されている。ところが、その直後にルオナンは観客に向かって「実は嘘をついていた」と告白する。「呪いはこの呪文を唱える人が多いほど分散され、一人への呪いの力が緩和される」と説明されるのだ。要するにドゥオドゥオへの呪いを緩和するために、呪文を頭の中で繰り返してしまった全員が呪われてしまった事が告げられ、この”メタ構造”によって、まるで映画を観ている自分まで呪いにかかってしまったような気分になるのである。

 

この演出こそが、本作でこのPOV方式を採用している最大の功績だろう。幼いドゥオドゥオが酷い目に遭っているのと同時に、その母親にもっとも感情移入している終盤に、この演出を入れてくるのは”悪意”しかないが、逆に言えばホラー映画としては最高の演出だ。ルオナンたちが訪れた”絶対に入ってはいけない地下道”のあった村は、「大黒仏母」という邪神を崇拝し、多くの災いを先祖代々受け継いできた呪われた場所だという設定も魅力的で、鏡が乱立しているトンネルの禍々しさたるや本当に強烈だ。ラストで仏母の顔が隠されているのは、その呪いの力が集まる中心なので、その赤い布を取ってしまったルオナンは呪われてしまい、頭を祭壇に打ち付けて死亡する。トンネルの奥深くに設置されている仏母から発せられる、強すぎる呪いの力を出口に向かって分散させるために置かれた鏡をルオナンが割っていたのは、少しでも外に向けて呪いを向けさせないためで、彼女の決意の表れだとも言える。またお経の書かれた少女の耳を切ったのも、髪の毛や歯と共にそれらを仏母に捧げてドゥオドゥオへの呪いを和らげようとした為だろうが、彼女は里親であったチーミンも含めて多くの他人を犠牲にしている時点で、完全に邪神に魂を操られてしまっているのだ。

 

この最後の仕掛けだけでなく、思い出しても嫌な気分になる場面が満載だ。特にドゥオドゥオに飲食を禁止した導師と弟子が呪われて襲ってくるシーンは、眠る前に思い出してしまった位に凶悪だ。恐らく劇場で公開したら、館内は大絶叫になるだろう。監督のケビン・コーは、「ホラーというジャンルが国を超えて受け入れられるのは、死や不可解な力に対する恐怖。そして「呪詛」の登場人物や母子の絆のような人間関係への共感といったものがそこにあるからでしょう。自分の作品が世界を駆け巡り、ホラーファンが一人残らず夜眠れなくなる。そんな日をずっと夢見てきました」と語っているらしいが、まさにその通りの映画になっていると思う。どうやら本作の大ヒットを受けてすでに続編の制作が決定しており、しかも3部作になるらしい。ドゥオドゥオ以外はほとんど死亡してしまっているので、彼女が中心人物になると思うが、ルオナンがドゥオドゥオを妊娠中にこの事件が始まっている事から、彼女には「大黒仏母」に執着される何か秘密が隠されているのかもしれない。しかし本作くらい”映画館で観たくない作品”は珍しい。色々な意味で、今年を代表する強烈なホラー映画であった。本作だけはホラーが苦手な方は、絶対に観ない方がいいと思う。

8.0点(10点満点)


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