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映画「ヴァチカンのエクソシスト」ネタバレ考察&解説 シリーズ化希望!ホラー映画というより、オカルト冒険エンターテインメント作品!

「ヴァチカンのエクソシスト」を観た。

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「オーヴァーロード」「サマリタン」などで堅実な実績を積んできたジュリアス・エイバリー監督が、「グラディエーター」「アメリカン・ギャングスター」「レ・ミゼラブル」などで有名なオスカー俳優ラッセル・クロウを主演に迎え、制作したオカルトホラー。ラッセル・クロウは長いキャリアの中でもホラー映画は初主演となる。ヴァチカンのローマ教皇に仕えた実在のチーフエクソシスト、ガブリエーレ・アモルト神父の実録「エクソシストは語る」の映画化としても話題の作品だ。共演は「ドント・ブリーズ」「イット・フォローズ」のダニエル・ゾバット、「セーラ 少女のめざめ」「ドクター・スリープ」のアレックス・エッソー、「続・荒野の用心棒」「ジョン・ウィック チャプター2」のフランコ・ネロなど。また本作が映画初出演となった、子役のピーター・デソウザ=フェオニーも強烈な演技を見せている。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。


監督:ジュリアス・エイバリー

出演:ラッセル・クロウ、ダニエル・ゾバット、アレックス・エッソー、ピーター・デソウザ=フェオニー、フランコ・ネロ

日本公開:2023年

 

あらすじ

1987年7月、サン・セバスチャン修道院。アモルト神父はローマ教皇から、ある少年の悪魔祓いを依頼される。少年の様子を見て悪魔の仕業だと確信したアモルトは、若き相棒トマース神父とともに本格的な調査を開始。やがて彼らは、中世ヨーロッパでカトリック教会が異端者の摘発と処罰のために行っていた宗教裁判の記録と、修道院の地下に眠る邪悪な魂の存在にたどり着く。

 

 

感想&解説

神父が人間に憑りついた悪魔と戦う映画といえば、ウィリアム・フリードキン監督の1974年日本公開「エクソシスト」がもっとも有名だろう。個人的にもこの映画で、”悪魔祓い”という行為があることを初めて知った。確か2000年に公開された、15分間の未公開シーンを追加したディレクターズ・カット版を劇場に観に行ったのが最初の”エクソシスト体験”だったが、リーガンという少女に憑りついた悪魔の描写は心底恐ろしく、禍々しいオカルト映画として鮮明に記憶に残っている。映画史上でも希代のマスターピースとして、燦然と輝いている名作だと思う。その後、「エクソシスト」は3作目まで続編が作られ、一作目の完成度には及ばないがそれぞれに良さのあるホラーシリーズになっている。そんな「エクソシスト」の現代的アップグレード版ともいえるのが、本作「ヴァチカンのエクソシスト」だろう。ツボをしっかりと押さえた、オカルト映画好きには堪らない一作になっていると思う。

そもそも本作は実在したエクソシストである、ガブリエーレ・アモルト神父の回顧録エクソシストは語る」をベースに映画化した作品であり、このアモルト神父はウィリアム・フリードキン御大によるドキュメンタリー「悪魔とアモルト神父 -現代のエクソシスト-」という作品にもなっているくらい、実は有名なエクソシストらしい。パンフレットによれば、彼は「国際エクソシスト協会」という団体も設立しており、これはローマ・カトリック教会にも公認された団体らしいので、モルト神父はいわゆる”スター・エクソシスト”だと言えるだろう。実際に彼は頻繁にメディアにも登場していたようだ。そんなアモルト神父による悪魔との対決を描いたのが本作であり、誤解を恐れずに言うなら「最高に楽しいオカルトエンターテインメント作品」に仕上がっていると思う。実際に作り手は、本作のアモルト神父を”エクソシスト界のジェームズ・ボンド”として描いたそうで、この辺りからもヴァチカンに実在した人物をモチーフにした、真面目な宗教観に根差した作品というよりは、かなり娯楽映画としての演出を膨らませた方向性の作品だと言える。


実際に起きた超常現象や実在の悪魔祓いを映画化したホラー映画といえば、ジェームズ・ワンがプロデュースする「死霊館ユニバース」を思い出すが、正直ホラー度合でいえば、本作の方がかなりマイルドで恐怖度は低いと感じる。ジャンプスケアの演出も少なく、ホラー映画というよりはオカルトアドベンチャーだと言えるかもしれない。怖がらせることに重点を置いたというよりは、「エクソシストと悪魔の闘い」にフォーカスした作りになっており、悪魔が神父の精神的な弱みに付け込んでくるくだりなどワクワクさせられるし、スペインにあるサン・セバスチャンという古く朽ち果てた修道院という舞台も、オカルト映画の舞台として最高だ。特に骸骨だらけの井戸の中を探索していく流れなど、往年の「インディ・ジョーンズ」を観ているような感覚もあり、このあたりも素直に楽しい。檻の中にあった朽ちた死体の胃袋から、カギを取り出す展開などは完全に冒険映画の流れで、完全にフィクションとしてエンターテインメント作品に徹しているのが特徴だ。

 

 


主人公のガブリエーレ・アモルト神父を演じるラッセル・クロウは、「アオラレ」「ソー:ラブ&サンダー」などの娯楽作に続けて出演している気がするが、今作でも丸々と太った身体を揺らしながらこのキャラクターを熱演しているし、今回のバディとも言えるダニエル・ゾバット演じるトマース神父も最初は頼りないキャラクターなのだが、最後には見事な成長をみせてアモルト神父を救うというのも、”バディ映画”らしい熱い展開で良い。モルトは、過去にパルチザンとしてナチスドイツとの戦争に出向いていたのだが、仲間が次々と殺されてる中で自分だけが運よく助かったことにより、神に尽くすことを誓う。それにも関わらず、自分に助けを求めてきた少女を精神疾患だと決めつけて他人に預けてしまったばかりに、彼女が飛び降り自殺してしまったことを悔いているのだが、その罪をトーマス神父に告白し、お互いを赦し合うことで強くなるという展開は、神父コンビを主人公にした作品としてとても面白い。また悪魔に憑かれてしまった少年を演じたピーター・デソウザ=フェオニーも、3時間を超える長時間のメイクに耐えながら迫真の演技を見せており、すごい子役が登場したと驚かされた。


ただ一点ストーリーについてややノイズになったのは、「異端審問」についての表現だ。サン・セバスチャン修道院の地下には、拷問具などの禍々しい器具が設置されていたが、スペインにおける異端審問といえば政治的な思惑からユダヤ教徒イスラム教徒からの改宗者などを対象に、残酷冷徹な拷問を行った史実を指す。そして劇中では、この異端審問をしたカトリック教徒は実は悪魔に憑依されていたのだという説明なのだが、さすがにこれはあまりに都合が良い設定だろう。世界で13億人以上いると言われるカトリック教徒に対し、「悪魔に憑かれていたから、異端審問は仕方がなかったのだ」というのは映画のマーケティング的には有効なのかもしれないが、やや行き過ぎな展開だと感じる。イングロリアス・バスターズ」や「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」のような映画上の歴史改変は歓迎だが、特定の宗教団体の過去の黒歴史を「悪魔のせい」だと責任転嫁するのは頂けない。直接的に映画のクオリティに関与することではないが、ここは個人的にやや気になったポイントだった。


エクソシスト映画のお約束のように「スパイダーウォーク」も登場して、終盤はまるでヒーロー映画のように派手な演出が目白押しになり、「アスモデウス」という悪魔との戦いは熾烈さを増していく。アモルト神父も憑依されて、もう絶体絶命というシチュエーションに何度も陥りながらも、それでも最後はバディで勝つという安心な展開も後味が良く、娯楽映画として正解だろう。あと199カ所も悪魔が封印されている場所があるとかで、アモルト&トーマス神父のコンビの活躍は続くという感じのエンディングだったが、これはぜひ続編を希望したい。あまり何年も時間を置かずに、次の冒険が観たいくらいである。ガチンコの怖いホラー映画を期待していた観客にとっては物足りない作品だったと思うが、「なにか面白い映画が観たい」という需要には十分に応えてくれる良作だった本作。作り手の思惑どおりに、「エクソシスト界のジェームズ・ボンド」になれるべく、スクーターで現場に現れるアモルト神父が観客に愛されて、息の長いシリーズになってくれることを願いたい作品であった。

 

 

7.5点(10点満点)