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映画「PATHAAN/パターン」ネタバレ考察&解説 ハリウッド映画からの引用が多すぎる、ハリウッドナイズされたインド産アクション映画!

「PATHAAN/パターン」を観た。

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「バーフバリ」「RRR」などに続き、インド映画世界興収歴代5位を記録した超大作スパイ・アクションが遂に日本でも公開となった。主演は「マイネーム・イズ・ハーン」「恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム」などで知られるインド映画界の大スター、シャー・ルク・カーン。監督は「WAR ウォー!!」「バンバン!」などのシッダールト・アーナンド。「チェンナイ・エクスプレス 愛と勇気のヒーロー参上」などでも主演のシャー・ルク・カーンと共演している、ディーピカー・パードゥコーンがヒロインのルバイ役を務めており、驚きの美貌を披露している。全国33の劇場でIMAX上映も決定している。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。


監督:シッダールト・アーナンド

出演:シャー・ルク・カーン、ディーピカー・パードゥコーン、ジョン・アブラハム、ディンプル・カパディア、サルマーン・カーン

日本公開:2023年

 

あらすじ

インドやパキスタンにまたがるカシミール地方の自治権をインド政府がはく奪し、それに怒ったパキスタンの将軍カーディルは、元インド軍人のジムと手を組みテロ攻撃を企てる。インドの諜報機関RAW (Research Analysis Wing of India) に所属するパターンは、ジムが計画する生物兵器での攻撃を阻止するため動き出すが、デリーの上空を飛行中の飛行機に生物兵器が仕掛けられたことが判明。残された時間はわずか6分という絶体絶命の状況下で、インド最高のエージェントであるパターンは、母国を守るため奮闘する。

 

 

感想&解説

身も蓋もないことを言ってしまうと、作り手はインド版「ミッション・インポッシブル」がやりたかったのだろう。もちろんスパイ・アクションというジャンル映画である以上は、ある程度の影響は仕方ないと思うが、本作においてはそれが臆面もなく表現されていて逆に驚かされる。それ以外にも「007」を思い出すキャラクター設定やセリフもあるかと思えば、「ワイルド・スピード」やマーベル・シネマティック・ユニバースからへの目配せもあり、上映時間146分の中にハリウッド映画への愛とオマージュをてんこ盛りに入れて、最後にインド風味に味付けした作品だと言える。そういう意味では、新鮮味や斬新な驚きはほとんど皆無の作品だろう。ただ、既視感に溢れたアクションシーンではあるが、そのボリューム感が凄まじいので退屈することはない。インド映画といえば付き物のダンスと歌のシーンもあるにはあるが、あっさりしているので停滞感はなく、かなりスピーディに展開する作品だ。

それにしても、本作は全世界興行収入105億ルピーをあげ、インド映画としては「ダンガル きっと強くなる」「バーフバリ 王の凱旋」「RRR」「K.G.F: CHAPTER 2」に続く歴代5位となる大ヒット作になったらしい。インドの劇場ではスクリーンを総動員して上映されたが、座席は数日先まで完売にも関わらずチケット窓口には人だかりができ、劇場前では太鼓を叩きプラカードを振って盛りあがる人々まで現れ、社会現象を巻き起こしたということで、インド国内では特別な映画になったようだ。これはインドのスーパースター、シャー・ルク・カーンが4年ぶりに主演を務めている事が大きな要因なのだろう。このシャー・ルク・カーン、既に60本近い映画に出演しボリウッドの「3大カーン」の1人で、“キング・オブ・ボリウッド”とも呼ばれている俳優らしい。しかも「PATHAAN/パターン」が、初のアクション映画となるらしいのだが、彼のスターオーラが凄まじい。すでに57歳らしいのだが、本作でもガチガチにビルドアップされた肉体美を披露し、アクション映画の主人公として文句なくカッコいいし、美しいのだ。


長髪をなびかせた敏腕エージェントが、最初は敵テロリストの恋人だった美女とタッグを組みながら、ウィルスを巡って戦うストーリーということで、これは完全に2000年ジョン・ウー監督の「ミッション:インポッシブル2(M:I2)」を想起するのだが、このシャー・ルク・カーンとヒロイン役のディーピカー・パードゥコーンの美しさは、この映画の魅力に大きく貢献していると思う。この二人は2013年日本公開の過去作「恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム」でも共演済みらしいのだが、二人のやり取りがまさに軽妙洒脱でロマンチック、これぞ”ボリウッド映画”というキャスティングになっているのが特に楽しい。また高層ビルにある金庫のカギを破るという中盤にシーンにおいて、管理者の指紋を手に入れる為、わざと身体に触らせて指紋を手に入れるという場面は、2011年のシリーズ5作目「ワイルド・スピード MEGA MAX」における、ガル・ガドット演じるガゼルがやっていた作戦そのままで、オマージュシーンなのだろう。

 

 


他にも高層ビルを滑り降りながら途中で止まれないといったシーンは、「ゴースト・プロトコル」や「フォールアウト」のシーンを思い出させるし、勇敢な女性上司の存在は、2012年サム・メンデス監督の「007/スカイフォール」における、ジュディ・デンチが演じていた”M”なのだと感じる。ここからネタバレになるが、自己犠牲の末に彼女が死ぬという展開にも共通点があるだろう。このJOCR(ジョーカー)という組織の女性上司役は、ディンパル・カパーディヤーといい、クリストファー・ノーラン監督の「TENET」にも出演していたベテラン女優である。さらに終盤のマーベル・シネマティック・ユニバースにおける「キャプテン・アメリカ」のファルコンばりに、ジェットエンジンを搭載したグライダーウィングで空中を飛ぶシーンなど、車の上、列車の上、氷上、空中とVFX満載のアクションシーンが矢継ぎ早に展開され、目新しさやスリル感はないが目には楽しい。ちなみに「ミッション・インポッシブル」シリーズの最新作「デッドレコニング PART ONE」にあった、落ちていく列車から走って脱出するシーンまで登場し、本作とミッションシリーズのシンクロ具合には驚かされた。さすがに公開時期からいっても両作に関連はないはずなので、純粋にアクションアイデアの被りだったのだろう。


この中盤シーンで絶体絶命のパターンを助けに現れるのは、日本でも公開済みの「タイガー 伝説のスパイ」の主人公タイガーで、日本でも「バジュランギおじさんと、小さな迷子」の主人公パワンで有名なサルマーン・カーンが演じている。さらにラストでパターンに新しい部隊の指揮権を委ねてくるルトラ大佐は、本作を手掛けたシッダールト・アーナンド監督の前作「WAR ウォー!!」にも登場していたキャラクターであり、製作会社であるヤシュ・ラージ・フィルムズは今後、「YRF(ヤシュ・ラージ・フィルムズ) スパイ・ユニバース」として、これらのシリーズをユニバース化展開するらしい。演出やキャラクター造形だけではなく、このあたりの戦略も含めて本作はハリウッド映画に強い影響を受けていると感じるのだ。少なくてもインド国内では、これからも大成功を納めそうである。ちなみにこの「WAR ウォー!!」も、本作「PATHAAN/パターン」が気に入った方なら絶対に必見の作品になっている。


ドバイ、アフガニスタン、トルコ、スペイン、フランスなどのワールドワイドなロケーションもスパイアクションらしいし、前述のように主演のシャー・ルク・カーンとディーピカー・パードゥコーンの美しさは、劇場の大きなスクリーンで観る価値は十分あるだろう。ただ「バーフバリ」シリーズや「RRR」などのインド映画らしい歌と踊りの要素と、ファンタジーの世界観と痛快なアクションの融合による強烈な個性を期待すると、肩透かしを喰うかもしれない。ジャンルがスパイアクションという事もあるが、あまりに良くも悪くもハリウッドナイズされた既視感のあるシーンの連続で、鑑賞中の新鮮味はないからだ。しかも物語の時系列が意外と複雑で、無駄に分かりにくいのも問題だろう。インド映画が好きな方なら、間違いなく鑑賞料金分の満足感はある娯楽作だが、個人的にはやや薄い印象の作品であった。

 

 

5.5点(10点満点)