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映画「ジョン・ウィック4 コンセクエンス」ネタバレ考察&解説 ラストシーンを考察!ダンテ「神曲」の地獄篇を抜けた先にあったものは?

ジョン・ウィック4  コンセクエンス」を観た。

日本公開2015年から始まった、キアヌ・リーブスが伝説の殺し屋「ジョン・ウィック」を演じる大ヒットアクションシリーズの第4弾。監督は「マトリックス」などで、キアヌのスタントダブルやスタントコーディネーターを手がけ、シリーズ第一作目で監督デビューしたチャド・スタエルスキ。彼はシリーズ全作の監督も手掛けている。レーティングは前3作同様「R15+」。その他の出演者はイアン・マクシェーンローレンス・フィッシュバーンらお馴染みのメンバーに加えて、「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」のペニーワイズ役だったビル・スカルスガルド、「イップ・マン」シリーズのドニー・イェン、日本人キャストとして真田広之ら。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:チャド・スタエルスキ

出演:キアヌ・リーブスイアン・マクシェーンローレンス・フィッシュバーンドニー・イェン真田広之、ビル・スカルスガルド

日本公開:2023年

 

あらすじ

裏社会の掟を破り粛清の包囲網を逃れたジョン・ウィックは、裏社会の頂点に立つ組織・主席連合から自由になるべく立ちあがる。主席連合の若き高官グラモン侯爵は、これまで聖域としてジョンを守ってきたニューヨークのコンチネンタルホテルを爆破し、ジョンの旧友でもある盲目の暗殺者ケインをジョンのもとへ差し向ける。そんな中、ジョンが日本の友人シマヅに協力を求めるため、大阪のコンチネンタルホテルに現れる

 

 

感想&解説

日本公開2015年から始まった第一作目「ジョン・ウィック」は上映時間101分、2017年「チャプター2」が122分、2019年「パラベラム」が131分ときて、コロナ禍を経た約4年ぶりの4作目「コンセクエンス」では169分と、前作から30分以上と大幅に上映時間が延びているのには驚いた。一般的には時間が延びることによって、映画館で上映できる回数が減るので敬遠されがちのはずなのだが、制作陣としては必要な時間だったのだろう。とはいえ約3時間弱という上映時間は、アクション映画としてはやはり長すぎる気がする。ただ実際に鑑賞してみると、思いのほか退屈する時間はなかったという印象ではあるが、とはいえこれは映画というより格闘技の試合やサーカスを観ているような気分に近い。延々とスクリーンで展開される格闘シーンと美しいセットを、ほとんど何も考えないままに見つめていると映画が終わっている感じなのだ。

シリーズにとってひとつの転換点は、前作「パラベラム」だったと思う。「チャプター2」までは「主席連合」「コンチネンタル・ホテル」「誓印」といった、ワクワクさせられる独自設定が次々と登場することで、この殺し屋だらけの世界観とストーリー展開を心底楽しめたのだが、3作目からはかなりアクションシーンの割合が増えて、ストーリーと世界観の広がりが停滞してしまった気がするのだ。コンチネンタル・ホテル内で殺しを行ったジョン・ウィックが懸賞金を掛けられたことにより、ひたすらに追手と戦うだけという展開になってしまい、アクションシーンのバリエーションは増えたが、とにかく格闘の連続でのみ構成された作品になっていたと思う。そして本作「コンセクエンス」は、更にアクションシーンの純度を高めて、考えられるだけの格闘アイデアを全部ぶち込んだような作品になっており、体感では上映時間の90%はアクションシーンという、バランスを著しく欠いた”歪な作品”になっていたと思う。

 

とにかく169分という上映時間にも関わらず、ストーリーの起伏やツイストはほとんどない。ここからネタバレになるが、前作から引き続き、主席連合から追われているジョン・ウィックが、ヨルダンの砂漠で結婚指輪を奪われた報復に、現首長を殺すというシーンから始まり、追手から逃げるために大阪コンチネンタルに行くと、旧友の支配人シマズが匿ってくれるが、主席から権限を与えられたグラモン伯爵が差し向けた”盲目の武術達人ケイン”が現れ、戦闘になる。ケインも実はジョンの旧友だったのだが、娘の命を守るために伯爵の言いなりになっていたのだ。シマズをケインに殺されたジョン・ウィックは、主席連合から自由になるための唯一の方法である”グラモン伯爵との決闘”をウィンストンから教えられ、その資格を得るべく、ベルリンの”ルスカ・ロマ”という組織の拠点を訪れるが、殺された組織トップの復讐を依頼される。殺すべき対象であるキーラという男のいる「天国と地獄」というクラブに行ったジョンは、そこでキーラを倒し決闘の資格を得たことにより伯爵のいるパリに向かう。そして夜明け直後の6時3分に、ジョン・ウィックは殺し屋の攻撃をくぐり抜けて、222段の階段を登った先にある決闘の場所に向かうという、ストーリー展開だ。

 

まず主席連合から自由になるための唯一の方法である”決闘”を、なぜウィンストンはこのタイミングで言い出したのか?もよく分からない。主席連合から自由になるための方法があるなら、ウィンストンも2作目のラストで「逃走の猶予は1時間だ」などと言わずに先に教えておいてくれれば良いし、ジョンの実力なら確実にタイマンで勝負した方が勝率は高いだろうから、3作目で死にかけながら砂漠を歩いて首長に許しを請う過程などは完全に必要なかったはずだろう。しかもその1対1の決闘も、なぜか”代理”が立てられるというルール自体が不明瞭な上に、ストーリーとして都合が良すぎる。さらにその決闘の場所に、222段の階段を登った先にある”サクレ・クール寺院”を指名してしまうジョン・ウィックの発言も謎で、彼自身多くの殺し屋から命を狙われているのは分かっているのだから、直前まで安全な場所に隠れておいて、もっと簡単に行ける場所を指名すれば良いのにと思ってしまう。

 

 

ただこれらのツッコミが無粋であることは、もちろん理解している。コンセプトとしてひたすら多様なアクションシーンを繋げて、一本の映画を作りたいというモチベーションで作られている作品だと思うので、恐らくストーリーの整合性などは二の次だろうからだ。そういう意味では、アクションシークエンスのアイデアを先に練って、それらを脚本に取り入れていく「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」の作り方に近いのかもしれない。いくら銃で撃たれても完全に防御してしまうスーツの存在や、凄惨な殺し合いが始まっても一般人がまったく動じないベルリンの巨大クラブ、走行している車が人を跳ね放題なパリの街、相撲の力士がボディガードを務めるホテルなど、とにかくリアリティからはかけ離れた漫画/ゲーム的な世界観で貫かれているのも本作の特徴だ。ただ、アクションシークエンスのクオリティは本当に凄まじい。キアヌ・リーヴスが9か月かけて技術を磨いたというカースタントや、ドローンで撮影することで”神の視点”から描かれるロングテイクの銃撃シーンなどは、今まで観た事のないレベルで目新しいシーンだったと思う。

 

特にその中でも、終盤の”階段シーン”は印象的だろう。222段という階段を昇りつめたと思ったら下まで転げ落ちて、もう一度それを登っていくというバカバカしさには、良い意味で呆れさせられる。こんな事をやっているから、169分まで上映時間が延びるのだ。しかも転がり落ちる様子は、カットを切らずにしっかりとワンカットで納めていて、このシーンを作るためにスタントマンが費やした苦労と時間を考えると頭が下がる。登場キャラとしては、ドニー・イェン演じるケインが最高だ。盲目ということでベースはもちろん”座頭市”なのだろうが、ドニー・イェンが過去に演じていた人気シリーズ、「イップマン」のようなカンフー技も飛び出しつつ、彼の言動もクールで面白いキャラクターになっている。エンドクレジット後にシマズの娘であるアキラがケインの命を狙うというシーンがあったが、アキラに殺されるケインではないだろうから、彼が主演のスピンオフ作品なども今後考えられているのだろう。個人的には「コンセクエンス」で、ケインはもっとも魅力的なキャラクターだったと感じる。

 

ラストの”ジョン・ウィックが死ぬ”という展開は、「実は死を偽っているのでは?」という意見もあるようだが、本作だけを観る限り”ジョンは死んだ”という解釈で良いと思う。冒頭でローレンス・フィッシュバーン演じるバワリー・キングが告げる、「我を過ぎる者は、嘆きの街に入る。我を通る者は、永遠の苦しみを味わう。我は、滅びの民への入り口。」とは、ダンテ「神曲」における地獄篇の一節だ。このシリーズにおけるジョン・ウィックは常にボロボロに傷つきながら、主席連合の追手と殺し屋たちをひたすらに殺しまくるという、復讐と死を巡る地獄の旅を経ていく。そんな彼がラストシーン、自分が撃たれることを承知の上で、愛娘がいるケインを救うため自分は発砲せず、代わりに侯爵の頭を撃ち抜くことでケインを救うという利他的な行動を取る。それによって彼は、ようやく地獄を抜けて亡き妻の元に旅立って行ったという事なのだろう。最愛の妻ヘレンとのキスシーンが最後にフラッシュバックされることで、ジョン・ウィックにやっと穏やかな最期が訪れたことを示唆しているのだと思う。

 

ジョンとケインが対峙するラストシーンは、セルジオ・レオーネ監督の「続・夕陽のガンマン」を意識しているだろうし、口元しか映らないラジオDJの女性の放送が、ジョン・ウィックを追い詰めていくという展開は、ウォルター・ヒル監督の「ウォリアーズ」からのオマージュだろうが、侍と忍者と西部劇と銃撃戦と格闘のすべてが入った、アクション映画としては”満漢全席”の楽しい作品だったと思う。ただしストーリーはほとんど行き当たりばったりのため、コアなアクション映画ファン以外にはかなり歪な作品だと感じるだろう。キアヌ・リーブスの年齢的に本シリーズの主演はもう厳しいかもしれないが、この世界観で作られたスピンオフ作品はぜひ続いてほしいと思う。

 

 

6.5点(10点満点)