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映画「イコライザー3 THE FINAL」ネタバレ考察&解説 まるでホラーアイコン!今回のマッコールは、青リンゴをかじる悪魔の使い!?

イコライザー3 THE FINAL」を観た。

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2014年にシリーズ一作目、2018年に二作目が公開され大人気を博したアクションシリーズ「イコライザー」最終章となる第3作が、約5年ぶりに公開となった。主演はもちろん名優デンゼル・ワシントンが続投。さらにデンゼル・ワシントンとは2001年「トレーニングデイ」以来、「マグニフィセント・セブン」などの作品でもタッグを組んできた、アントワン・フークア監督が前2作に続いてメガホンを取っている。また「マイ・ボディガード」以来18年ぶりとなる、デンゼル・ワシントンダコタ・ファニングの共演も話題だ。今作は、今までのアメリカを離れイタリアを舞台に主人公ロバート・マッコールとマフィアたちとの闘いを描き、見事なフィナーレを飾っている。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。


監督:アントワン・フークア

出演:デンゼル・ワシントンダコタ・ファニング、デビッド・デンマン、レモ・ジローネ、ガイヤ・スコデッラーロ

日本公開:2023年

 

あらすじ

シチリアでの事件で負傷し心身ともに限界を迎えたマッコールは、アマルフィ海岸沿いの静かな田舎町にたどり着く。身内のように温かく接してくれる人々の存在に救われた彼は、この町を安住の地にすることを心に誓い、イコライザーのスイッチともいうべき腕時計を外すことを決意する。しかしその町にも魔の手が迫り、マッコールは大切な人々を守るため再びイコライザーの仕事を開始。やがて事態はイタリア全土を巻き込む爆破テロ事件へと拡大していく。

 

 

感想&解説

デンゼル・ワシントンのキャリアにとって、初めてシリーズ3作を通して主演を務めた「イコライザー」も遂に最終作らしい。元々はテレビドラマ「ザ・シークレット・ハンター」の劇場版ということで、元CIA諜報員の”ロバート・マッコール”という主人公の設定だけが共有で、あとはほとんど関連のない内容で映画化された作品なのだが、これがデンゼル・ワシントンの”当たり役”となり、約10年に亘って3作品が作られる人気シリーズとなった訳である。そもそも「ザ・シークレット・ハンター」の主人公はエドワード・ウッドワードという白人の役者だったのだが、それをデンゼルが演じている時点で、ドラマシリーズからは換骨奪胎の意味合いが強いのだろう。2014年の一作目では、昼はホームセンターで働きながら深夜は馴染みのダイナーで読書するという日々を送っていたロバート・マッコールが、クロエ・グレース・モレッツ演じるテリーという少女と出会い、彼女を買春グループから救うためにマフィアたちと戦うというストーリーで、ロバート・マッコールの”圧倒的な強さ”をひたすら堪能する作品として、特徴的な一作になっていたと思う。

続く二作目でも、タクシードライバーとして生計を立てていたロバート・マッコールが、CIA時代の元上官で親友のスーザンが何者かに殺害されたことにより独自の捜査を開始。そしてスーザンが死の直前まで手がけていた任務の真相に近づくにつれて、相手はマッコールと同じ特殊訓練を受けていたCIAの仲間たちだったことが明らかになっていくというストーリーで、愛妻に続いて親友までもを失い、更にかつての友人たちにも裏切られるという、孤独な魂を抱えるロバート・マッコールの人物像が改めて浮き彫りになった作品であった。とにかくこのシリーズの監督アントワン・フークアは、主人公マッコール自身や彼の愛する人たちを殺したり虐げることで、彼の怒りが爆発し悪人を退治するという、「必殺仕事人」的な演出を貫いてきたと言える。だからこそマッコールはいつも孤独である必要があったのだ。


そして今回の三作目「THE FINAL」だがここからネタバレとなるが)、遂にそんなロバート・マッコールも”あるべき姿”に落ち着く大団円的なラストを迎えることになる。そういう意味では、確かにファイナルに相応しいラストだろう。1と2のラストとは対照的に、多幸感に満ちたエンディングなのである。今回のマッコールは冒頭のワイナリーでの戦いにおいて、子供からの銃撃によって負った傷により、イタリアの小さく美しい街にたどり着く。そしてこの街に住む人たちを心を通わせることにより、今までにない心の平穏を感じるのである。劇中、かなりの時間をかけてマッコールが街の人たちと打ち解けていく様子を描いていくのだが、特にカフェでの女性店員とのやり取りなどは印象的だ。これから二人が友人を超えた関係になっていく可能性を仄めかしており、過去作にはなかった展開に驚かされる。だがそんな街にもマフィアの手が伸びていて、彼らの暴力によって街の人たちが屈服されられているのを、我らがロバート・マッコールが完膚なきまでに叩きのめすという、いつもの勧善懲悪な展開が楽しめるのである。

 

 


今回の作品は特に悪人への”懲らしめ感”が強い。今回のイタリアンマフィアの兄弟は前作のCIA戦闘員とは違い、正直格闘のスキルはまったくない、”ただの悪党たち”だ。彼らは金と利権の為だけに街の魚屋を痛めつけ、警察官をリンチし彼の小さな娘を脅しながら、車椅子の老人を殺す。そうやって街の住民たちには酷い仕打ちをするが、所詮ロバート・マッコールの相手になる存在ではない。だからこそマフィアが弱い者いじめをする様子をじっくりと描いた後の、マッコールの”世直し”には観客として溜飲が下がるのだ。調子に乗った兄弟(弟)がマッコールに撃退されるレストランのシーンなどは、その最たる例だろう。本作はジャンルとしてはアクション映画の中でも、いわゆる”ヴィジランテ”の系譜にあたる作品なのだろうが、「ミッション:インポッシブル」や「ジョン・ウィック」シリーズのように、アクションそのもので魅せる映画ではない。むしろ本作のアクションシーンは序盤・中盤・終盤の3か所しかないうえに、マッコールが強すぎる為、瞬殺で勝負がついてしまうからだ。そこにあまりカタルシスがある作品ではないのである。


だからこそ本作は、デンゼル・ワシントンという俳優が活きるのだろう。身体の動きそのものではなく、彼の雰囲気や佇まいだけで既に勝負がついている感じを醸し出せるからだ。特に冒頭のワイナリーで、シチリアマフィアが死体だらけの屋敷を抜けて地下に降りると、椅子に座ったロバート・マッコールが表れるシーンなどは、普通の映画なら”悪役側”の演出だろう。本作は「JFK」「アビエイター」「ヒューゴの不思議な発明」で3度アカデミー撮影賞を受賞している、ロバート・リチャードソンが撮影監督を務めているが、この冒頭とクライマックスのシーンでは、ほとんどの色味を消して陰影を強めに出すことで、まるでホラー映画のような画面設計になっているが、その演出も納得だ。平穏時におけるイタリアの明るい陽光とのコントラストを活かしているのだろうが、このホラーテイストはロバート・マッコールがまるで過去のホラーアイコンである「レクター博士」のように、敵が出会ってしまったら無残な死が確定する絶対に助からない、まるで悪魔のような存在だと示しているのだろう。


特に本作はその傾向が顕著で、冒頭のシークエンス、撃たれて這いつくばりながら逃げるシチリアマフィアの尻に、無情にもショットガンをブチ込むシーンと、ラストにおいてドラッグを飲ませて死へのカウントダウンが始まっている兄弟(兄)の背中を延々と追いかけるシーンには、そんなロバート・マッコールの”悪魔性”や”残虐性”がよく表れている。彼は悪人には決して容赦しない男なのだ。路地で兄が死んだ後にマッコールがかじるのは、”青リンゴ”だ。舞台がイタリアだという事もあるが、ここでわざわざ彼に青リンゴを食べさせる意図としては、どうしても旧約聖書の創世記における”禁断の果実”や”蛇”を想像してしまう。そしてこのシーンでマッコールが口ずさんでいるのは、”ゴスペルの女王”と呼ばれるマヘリア・ジャクソンの「I Know It Was The Blood」という楽曲だ。イエス・キリストについて歌ったゴスペルソングであり、かなり宗教観の強い楽曲なのだが、マッコールにとってはこの一連の殺戮は、神が道徳的に不純物や罪を取り除くまさに”粛清”に近い行為なのであろう。


全体を通して100分間というタイトな上映時間も嬉しい、良質なアクション映画だったと思う。2004年のトニー・スコット監督「マイ・ボディガード」(こちらも傑作!)ぶりとなるダコタ・ファニングとの共演も、実はエマが親友スーザンの娘だったというオチを知った後だとエモーショナルに感じられるし、この「イコライザー」シリーズの完結編としては大満足の一作だ。デンゼル・ワシントンという名優の魅力が存分に堪能でき、アントワン・フークア監督とのコンビ作としても充実した一作だったと思う。イタリアロケも素晴らしく、画面を観ているだけで楽しい作品であった。

 

 

7.5点(10点満点)