「オペレーション・フォーチュン」を観た。
「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」「スナッチ」「リボルバー」「キャッシュトラック」などでタッグを組んできた、ガイ・リッチー監督とジェイソン・ステイサムが5度目のタッグを組んだスパイアクション。主演のジェイソン・ステイサムの他に、リブート版「チャイルド・プレイ」のオーブリー・プラザ、「ジェントルメン」のバグジー・マローン、「ブラック・ダリア」のジョシュ・ハートネット、そしてガイ・リッチー監督の前作「ジェントルメン」にも出演していたヒュー・グラントなどが脇を固める。2019年「アラジン」の実写版を監督してから、「ジェントルメン」「キャッシュトラック」と快調に監督作を発表してきたガイ・リッチー最新の出来はどうであったか?今回もネタバレありで感想を書いていきたい。
監督:ガイ・リッチー
出演:ジェイソン・ステイサム、オーブリー・プラザ、バグジー・マローン、ジョシュ・ハートネット、ヒュー・グラント
日本公開:2023年
あらすじ
英国諜報局MI6御用達の敏腕エージェント、オーソン・フォーチュンは、100億ドルで闇取引されている「ハンドル」と呼ばれる危険な兵器をを追跡・回収するミッションを遂行することに。MI6のコーディネーターであるネイサン、毒舌の天才ハッカーのサラ、新米スナイパーのJJとチームを組んで行動をスタートさせたフォーチュンは、能天気なハリウッドスターのダニーを無理矢理任務に巻き込み、億万長者の武器商人グレッグに接近する。しかし、次第に闇取引の裏に隠された巨大な陰謀が明らかになっていく。
感想&解説
ガイ・リッチー監督のスパイアクションといえば、ヘンリー・カビル&アーミー・ハマーが主演していた2015年の「コードネーム U.N.C.L.E.」という佳作を思い出すが、今回の主演はあの”ジェイソン・ステイサム”ということで、ある程度は作品の方向性が想像できる。ただ2021年に公開された16年ぶりのタッグ作「キャッシュトラック」が、マイナーなフランス映画をリメイクしたクライムアクションでありながら、今までにないシリアスな犯罪劇で非常に良い出来だった為、今回も大いに期待して劇場に駆け付けたのだが、結論としては近年のガイ・リッチー作品の中でも非常に残念な出来の作品になっていたと感じる。今回の「オペレーション・フォーチュン」は、スパイ映画としては「007」のジェームズ・ボンドのような単独行動ではなく、「ミッション:インポッシブル」シリーズのようにチーム戦なのだが、どうにも映画が”ドライブ”していかない。
まず今作は無駄にストーリーが複雑な上に登場人物も多く、話を見失いやすい。そもそも冒頭で盗まれる”ハンドル”という「100億ドルで取引される非常に危険なモノ」も、追ってるMI6自体もその正体が分からないという、いわゆる”マクガフィン”として登場するのだが、終盤ではあっさり中身をバラシてしまう上に、大して面白くもない中身でガッカリする。また同じくこのマクガフィンを追ってくる、ライバル的なマイクという男が常にオーソン・フォーチュンの邪魔をしてくるのだが、誰に雇われているのか分からないという設定のお陰で魅力的なキャラクターに感じない上に、特にアイデアをこらして主人公を追い詰める訳でもない単なるパワープレイの人物なので、本当にただの悪役でしかない。
ここからネタバレになるが、この”ハンドル”というアイテムも、銀行システムをストップさせて金融を狂わせるためのAIプログラムという設定で、金の価値を上げたい起業家たちがこのプログラムを買おうとしていたという話で、まったく意外性もないうえに”金が目的だった”というガッカリ感も半端ない。唯一、ヒュー・グラントが演じていたグレッグ・シモンズという仲介人が、ジョシュ・ハートネット演じるダニー・フランチェスコという映画スターの大ファンという設定でやや面白いキャラクターだったが、ヒュー・グラントのキャラクターという意味ではやはり「ジェントルマン」における”フレッチャー”という私立探偵の方が、何倍も魅力的なキャラクターだった気がする。今作はガイ・リッチー映画の割には、あの独特なひねくれ感もスピード感もなく、悪い意味で単に真面目で単調な作品になってしまっているのだ。
そしてジェイソン・ステイサムが主演している割には、アクションシーンも地味で面白くないのが致命的だ。格闘シーンも本当に過去に何度も観てきた内容だし、カーチェイスやガンアクション、爆破シーンなども目新しさは微塵もない。最近も「デッド・レコニング PART ONE」や「ジョン・ウィック コンセクエンス」が公開になったばかりだが、これだけ新しいアクションシーンを見せてくれる映画が乱立している2023年において、このアクションシークエンスの退屈さは問題だろう。元々、ガイ・リッチーという監督はアクションを描くのが得意な監督ではないとは思うが、それでも何かひとつくらいは過去になかったフレッシュなアクションシーンのアイデアがあっても良かったと思う。
かといってスパイ映画としてのガジェットが楽しい訳でも、ツイストが効いたシナリオがある訳でもなく、ガイ・リッチーが何を目指して本作を撮ったのか?が謎なくらいだ。中盤にある、催眠ガスによって住人を眠らせた屋敷への潜入シーンという全くスリルを感じない場面でも、何故かテレビでポール・ニューマン主演の「明日に向かって撃て!」が流れており、その主題歌である「雨にぬれても」が使われているシーンがあるのだが、このシーンで「雨にぬれても」を使う必然性を全く感じない。何かこのシーンで、「明日に向かって撃て!」の主人公であるブッチとオーソン・フォーチュンの心情やキャラクターの背景がシンクロするなど使う意味があれば良いのだが、これでは単にこの曲を使いたかったから使ったというだけに見えてしまう。こういうところも映画作品のサンプリングとして感心しないし、ダサいと感じてしまう。
チームメイトの女性ハッカーであるサラや、スナイパーのJJもチートな位に何でも完璧にこなしてしまい逆に醒めるし、ジェイソン・ステイサムも割といつものジェイソン・ステイサムを演じており、特に特筆すべきところもない。ギャグシーンもほとんど笑えないし、カメラワークやカット割りでも目新しさはない。唯一モロッコやマドリード、ドーハなど世界7国を巡る展開はスパイ映画っぽくて良かったが、それでも起こっているイベント自体が面白くないので、全体的に魅力的に映らない。とにかく全てが凡庸で普通なのである。これはエンターテインメント作品としては致命的だろう。多少歪なところがあっても、今まで観た事のないシーンを観せてくれた方が娯楽映画としては評価できるからだ。
正直、今年劇場で観た映画の中でも個人的には、かなり酷評の部類となった本作「オペレーション・フォーチュン」。余程ジェイソン・ステイサムの大ファンという方以外は、配信を待っても良い作品だと思う。過去のガイ・リッチー作品の中でも、「ロックンローラ」「リボルバー」といった低迷期の映画を思い出してしまった本作。そろそろロバート・ダウニー・Jr.とジュード・ロウを迎えて、「シャーロック・ホームズ」の第三弾を手掛けてほしいと期待してしまうが、次回作はジェイク・ギレンホールを主演に迎えた2024年公開予定の「ザ・コベナント(原題)」というアクションスリラーらしい。もちろん観ないという選択肢はないが、もう一度昔の「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」や「スナッチ」の頃のような、尖った作品を期待したいものである。
3.5点(10点満点)