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映画「死霊館のシスター2 呪いの秘密」ネタバレ考察&解説 赤ワイン最強!信仰が力になるという、宗教観の強いホラー映画!

死霊館のシスター2 呪いの秘密」を観た。

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「ソウ」インシディアス」シリーズを手掛けたジェームズ・ワンがプロデュースし、一大ホラーフランチャイズシリーズとなった「死霊館」のスピンオフであり、シリーズの始まりの物語を描いた「死霊館のシスター」の続編。「アナベル」「ラ・ヨローナ」を含めた「死霊館ユニバース」に連なる一作でもある。監督は2021年の「死霊館 悪魔のせいなら、無罪。」でメガホンをとったマイケル・チャベス。主演は前作でも主人公アイリーン役を演じた、「記憶探偵と鍵のかかった少女」のタイッサ・ファーミガ。タイッサ・ファーミガは「死霊館」ユニバースでロレインを演じているベラ・ファーミガの妹でもある。共演は「エル ELLE」のジョナス・ブロケ、「search #サーチ2」のストーム・リード、「ナルニア国物語」のアナ・ポップルウェルなど。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:マイケル・チャベス
出演:タイッサ・ファーミガ、ジョナス・ブロケ、ストーム・リード、アナ・ポップルウェル
日本公開:2023年

 

あらすじ

1956年、フランスで起こった神父殺人事件をきっかけに世界に悪が蔓延する。ある特殊な能力を持つシスターのアイリーンは、教会の要請を受けて事件の調査に乗り出す。人々を救うため自らの命をかえりみずに祈りをささげるアイリーンは、ついに悪の元凶である恐怖のシスター、ヴァラクと対峙する。

 

 

感想&解説

ジェームズ・ワンが監督を務めたことで2013年から始まった「死霊館」ユニバースも、本作「死霊館のシスター2 呪いの秘密」で9作目ということで、かなりの広がりを見せている。本流である「死霊館」シリーズは、2016年「エンフィールド事件」と2021年「悪魔のせいなら、無罪。」で3作目を数え、恐怖の人形「アナベル」をテーマにした作品も「死霊館の人形」「死霊人形の誕生」「死霊博物館」と3作、そして「ラ・ヨローナ~泣く女~」という番外編がありつつ、この「死霊館のシスター」が2作品ということで、次回がいよいよ10作品という10年にも亘って続く、一大ホラーフランチャイズとなっている。またこの「シスター」シリーズは、原題「THE NUN」といい、そのまま”修道女”というタイトルなのだが、「死霊館」シリーズとの関連を匂わせるために日本独自で付けられているタイトルである。

 

監督は「死霊館 悪魔のせいなら、無罪。」でメガホンをとったマイケル・チャベスだが、そもそも「ラ・ヨローナ〜泣く女〜」で長編監督デビューを果たした人物でもあり、「死霊館」ユニバースでは本作を入れて3作品を監督していることになる。本シリーズで2作品以上を監督しているのは、彼とジェームズ・ワン以外にはいないと思うので、今や監督としてプロデューサー陣から絶対の信頼を勝ち得ているのだろう。確かに「悪魔のせいなら~」は世界中で20億ドル以上を稼いだ大ヒット作となったし、ジェームズ・ワンも「私は彼の初監督作品から一緒に仕事をしてきたが、マイケル・チャベスは映画を撮るたびに成長しているね。」と語っているとおり、完全にこの監督は「死霊館」シリーズの世界観や大事にすべきポイントを体得したのだと思う。

 

まず本作「死霊館のシスター2 呪いの秘密」を鑑賞する場合、前作の鑑賞はマストとなる。主要キャラクターであるタイッサ・ファーミガ演じるシスター・アイリーンや、ジョナ・ブロケ演じるフレンチーは前作から登場したキャラクターだし、なぜ彼らが知り合いなのか?なぜフレンチーがこんな目に遭わなければならないのか?など、前作を観ていないとまったく事情が分からない作りになっているからだ。あとはもちろん死霊館ユニバース中、最大のヴィラン(悪役)である”ヴァラク”が、実体として初登場するという意味では(写真では『アナベル 死霊人形の誕生』などにも登場)、ユニバース3作目の「エンフィールド事件」も観ておいた方が良いかもしれないが、まずは前作「死霊館のシスター」の鑑賞だけはマストだろう。それにしても前作であれほど活躍した、デミアン・ビチル演じるバーク神父がすでにあっさり病死していたという設定には驚かされた。

 

 

今回は前作から4年後の設定となっており、前作では見習いシスターであった主人公のアイリーンも、今回はバチカンの要請を受けて世界中で発生した、悪魔ヴァラクによる事件を調査される事になる。彼女は登場シーンから、泥で空回りする車輪に板を入れて問題を解決するシーンを入れていることにより、”自分で考えて行動できる女性”であることが描かれる。そして幼い頃から聖母マリアに導かれる幻覚を見続けてきた彼女には、信仰深い母親がいて、過去に悲しい別れを経験していたことが描かれるのだ。そして今作ではアイリーンと旅を共にする、シスター・デブラという女性も登場する。彼女はアメリカのミシシッピ出身であり、子供の頃に家を焼かれたという経験を語るのだが、これはアラン・パーカー監督の「ミシシッピー・バーニング」でも描かれていた、KKKによる放火を想起させる。舞台となっている1956年の数年前とは、まさに白人至上主義団体による黒人差別がまかり通っていた時代だったからだ。

 

だからこそシスター・デブラは、修道院で告解を拒否したりとキリスト教に対して、最初は懐疑的な姿勢を見せている。母親は死に兄弟たちは軍隊に行き父親によって修道院に送られた彼女は、神を信じられるような心境ではなかったのだろう。だがアイリーンとの友情を信じ旅をすることで、彼女は信じられないような奇跡を目の当たりにし、終盤ではヴァラク退治のためにアイリーンと共に神に祈ることになる。ここからネタバレになるが、前作でアイリーンがヴァラクを封じ込めたのは、イエス・キリスト聖母マリアの遺骨や遺品を指す”聖遺物”のキリストの血だったが、今作でもこの”キリストの血”が重要なアイテムとなっている。実在した”聖ルチアの目”を奪ったヴァラクに対し、元々ワイナリーとして使われていた女子寄宿舎学校のワインの樽を、アイリーンとデブラの祈りによって「キリストの血」に変え、ヴァラクに浴びせるという展開になるのである。

 

そもそも赤ワインは「キリストの血」として信仰されているが、これは最後の晩餐で、イエスがパンを取り「これがわたしの体である」と言い、ワインの入った杯を取り「これがわたしの血である」と言って弟子たちに与えたことから始まっている。よって本作でも序盤に描かれていたが、教会のミサではパンとワインを分け合う儀式があるのだ。本作ではアイテムそのものではなく、”信仰”によってシスターたちがヴァラクに打ち勝つという描写になっており、特にシリーズの中でも宗教観の強い描写になっていた気がする。これはゴシックホラー「死霊館のシスター」シリーズの、面目躍如とも言えるシーンかもしれない。ヴァラクルーマニアの聖カルタ修道院修道院長に憑依したことで、今の姿になったという設定だが、シスターの姿をした悪魔という設定を思いついた時点で、このキャラクターは大成功なのだろう。

 

死霊館」シリーズは実際にあった事件を映画化した作品のため、じっとりとしたホラー映画という印象だが、この「死霊館のシスター」シリーズは、もっとエンターテインメントホラーに寄った作品なのだと思う。その分”恐怖”という意味では薄くなってはいるかもしれないが、夜の街に現れるマガジンラックの雑誌のページが、一気に風でめくれてシスターの姿を映し出すシーンなど、過去に観た事のない場面も多く印象的だったし、ローラン校長のゴキブリ霊は良い意味で気味が悪くて、面白いシーンだった。そもそも「死霊館」の中でもヴァラクをメインで描ける、この「シスター」シリーズは、各場面を派手に演出できる作風なのだと思う。ぜひ今後も続けていって欲しいと思うし、ユニバースの10作目が今から本当に楽しみだ。まずまず手堅いエンタメホラー映画として、前作鑑賞マストが条件でオススメである。

 

 

6.5点(10点満点)