映画を観て音楽を聴いて解説と感想を書くブログ

エンタメ系会社員&バンドマンの映画ブログです。劇場公開されている新作映画の採点付きレビューと、購入した映画ブルーレイの紹介を中心に綴っていきます!

映画「ザ・クリエイター 創造者」ネタバレ考察&解説 ビジュアルの既視感は強いながらも、アメリカ批判の設定が面白いオリジナルSF!

「ザ・クリエイター 創造者」を観た。

f:id:teraniht:20231020223336j:image

「モンスターズ 地球外生命体」「GODZILLA ゴジラ」「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」などのギャレス・エドワーズが、監督/脚本を手がけた近未来SF。出演は「ブラック・クランズマン」「TENET テネット」のジョン・デビッド・ワシントン、「ラスト サムライ」「インセプション」の渡辺謙、「エターナルズ」「ドント・ウォーリー・ダーリン」のジェンマ・チャン、「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」のアリソン・ジャネイなど。また本作がデビュー作となる子役マデリン・ユナ・ヴォイルズの演技も素晴らしく、今後が楽しみな俳優だった。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:ギャレス・エドワーズ
出演:ジョン・デビッド・ワシントン、渡辺謙ジェンマ・チャンアリソン・ジャネイ、マデリン・ユナ・ヴォイルズ
日本公開:2023年

 

あらすじ

2075年、人間を守るために開発されたはずのAIが、ロサンゼルスで核爆発を引き起こした。人類とAIの存亡をかけた戦争が激化する中、元特殊部隊のジョシュアは、人類を滅亡させる兵器を創り出した「クリエイター」の潜伏先を突き止め、暗殺に向かう。しかしそこにいたのは、超進化型AIの幼い少女アルフィーだった。ジョシュアはある理由から、暗殺対象であるはずのアルフィーを守り抜くことを決意する。

 

 

感想&解説

まずオリジナル脚本のSF映画で、これだけの作品が撮れてしまうギャレス・エドワーズ監督の才能とプロデュース能力には驚かされる。フランチャイズ映画の続編ばかりが溢れるハリウッドにおいて、意欲的なオリジナルSF映画の存在は貴重だからだ。監督のギャレス・エドワーズと言えば、「GODZILLA ゴジラ」と「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」を手掛けた、それこそフランチャイズ監督のイメージがあるが、本作には彼のブレイク作である2011年日本公開「モンスターズ 地球外生命体」を思い出す要素が多い。「モンスターズ」は低予算映画ゆえの粗削りなシーンも多かったが、創意工夫で十分に面白いSF映画になっていたし、男女が旅をするというロードムービー的な主題は、規模感は違えど「ザ・クリエイター 創造者」のマインドを強く感じるからだ。本作はディズニー資本の「ローグ・ワン」と比べると、8,000万ドルとかなり少ない製作予算で作られているにも関わらず、それでもSF映画としてのルックはある程度高いクオリティが保たれているのは、監督のセンスの成せる技だろう。

本作のテーマは、「人間対A.I.」だ。正直、これは過去に山ほど描かれてきた主題であり、「ターミネーター」なども含めて類似のテーマ作品には枚挙に暇がない。人間が作り出した人智を超える能力を持ってしまった暴走A.I.が、人類を滅ぼそうとしてくるのに対して人間が抵抗するという話を安易に想像して、本作も正直あまり期待せずに鑑賞したのだが、これが良い意味で裏切られた。本作ではA.I.側に観客が感情移入する作りになっており、人類側は徹底して好戦姿勢の”アメリカ軍”として描かれているからだ。いつもの映画とは立場が逆転しているのである。またA.I.の開発を推進する側が”ニューアジア諸国”という、明らかにタイやベトナムミャンマーといった地域をモチーフにしつつ、日本文化を取り込んだような不思議な舞台になっており、ベトナム戦争”におけるアメリカの愚行を描こうとしている気がする。この辺りはギャレス・エドワーズのイギリス人監督だからこその、俯瞰した視点を感じるのである。

 

英語で「遊牧民」を意味する軍事要塞「ノマド」は、上空の安全圏から地上を爆撃してくる。ベトナム戦争アメリカ軍は785万トンの爆弾を使用し多くの施設と人命を壊滅したが、本作でも冒頭からこの空爆によって、ジョン・デビッド・ワシントン演じるジョシュアは、愛する妻であるマヤを失ってしまうのである。ここからネタバレになるが、そこから「ニルマータ」と呼ばれるクリエイター(創造主)が開発したAI型兵器を破壊したい人類と、元米軍人ジョシュアと超進化型A.I.である少女アルフィーの”創造主マヤ”を探す旅が描かれていく。まず冒頭で描かれるA.I.が引き起こしたと説明される「ロサンゼルスでの核爆発」は、なんとA.I.の暴走ではなくアメリカ側のヒューマンエラーであり、それを隠蔽するためにA.I.を敵視して攻撃を仕掛けていた事が発覚する。本作におけるA.I.には本当に過失がなく、本作における人間は徹底して悪役という展開には驚かされる。

 

 

そしてその姿勢は、中盤に登場する「G-13」と呼ばれる「自走式爆弾ロボット」のキャラクターによく表れている。これは人間側が作った兵器なのだが、なぜか彼(?)が過度にエモーショナルなのである。このロボットの本来の仕様として、”別れの挨拶”をする必要など一切無いにも関わらず、彼は自爆前に周りの人間に感謝と別れを告げる。本作におけるA.I.側のキャラクターには一様に”心”があるように描かれ、それはこの自爆ロボットも同様だ。「オフじゃない、スタンバイだ」というセリフが劇中で印象的に使われているが、これも機械的な「ON/OFF」だけではない、その中間があるという”人間的なニュアンス”で使われている表現と感じ、非常に気が利いたセリフだと感じる。ラストにおけるジョシュアとアルフィーは、完全に人間とA.I.のやり取りを超えて”親子同士”のやり取りのようで、やや行き過ぎの印象はあったが、本作においてA.I.は人類において畏怖の対象ではなく、共存できる愛すべき相手だと徹底して描かれる。この一連の演出は、スターウォーズシリーズでも屈指のレベルで泣かされた「ローグワン」を手掛けた、ギャレス監督の手腕を感じるシーンだった。

 

また序盤のシーンでは、Radioheadの名盤「Kid A」の一曲目「Everything In Its Right Place」が使われており、非常にカッコいいシーンになっていたが、この「Kid A」というアルバムは、ボーカルで作詞作曲をメインで担当しているトム・ヨークが、書いた歌詞のフレーズを切り取ってランダムに組み合わせることで、あえて意味の分からない抽象的なリリックを作ったことで有名なアルバムだ。この「Everything In Its Right Place」も「すべてがあるべきところにある」とひたすら連呼される曲であり、今までのバンドサウンドを封印してエレクトロニカに急接近した、「Kid A」のオープニングナンバーだった。そしてこのシーンは曲のインパクトを上手く活かした、名場面になっていたと感じる。本作の音楽は「インターステラー」や「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」「DUNE/デューン 砂の惑星」などを手掛けた、名匠ハンス・ジマーが担当しており、こちらも素晴らしいスコアを鳴らしている。ちなみに予告編では、Aerosmithの「ドリーム・オン」が使われていたが、本編では使われていなかったのは残念だ。

 

もちろん、本作にも不満点はある。まずSF映画として、かなりビジュアルに既視感が強い。明らかに「スターウォーズ」であり「ブレードランナー」であり、「AKIRA」の影響が強すぎるのだ。特に劇中にカタカナ、ひらがな、漢字などの日本語がしばしば表示されるのは、明らかに「ブレードランナー」オマージュだろうし、核爆発によるクレーター状のグラウンド・ゼロは、「AKIRA」のネオ東京だろう。ガジェットとしてもこれといった印象的なアイテムは少ない上に、今まで観た事のない映像的な演出や場面もなく、そこも退屈だ。また「マザーファッカー」を自動翻訳して、意味の分からないセリフになっているというシーンも恐らくギャグシーンなのだろうが、下品な上に完璧にスベッており感心しない。SF映画として設定は面白いのだが、ビジュアル的な新しさはほとんど感じない作品だったように思う。

 

繰り返しになるが、ギャレス・エドワーズ監督作の中では、「GODZILLA ゴジラ」や「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」というよりは、「モンスターズ 地球外生命体」を思い出す作品だ。これは超ド派手なVFXや新しい映像表現があるタイプの映画ではなく、地味ながらも実直に作られたSF映画だからだろう。それでもオリジナル脚本のSF映画ということで観て損はない楽しい作品だったし、特に本作がデビュー作となる、アルフィーを演じた子役マデリン・ユナ・ヴォイルズの演技には驚嘆させられた。それは作り手たちも意図的で、本作のラストカットは彼女のバストアップなのだが、この表情の破壊力はすごい。本格SF映画でありながら、しっかりと泣ける愛の物語にもなっていた本作は、ギャレス・エドワーズの代表作となる可能性のある一作だろう。

 

 

6.5点(10点満点)