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映画「JFK 新証言 知られざる陰謀【劇場版】」ネタバレ考察&解説 ドキュメンタリー映画だが、間違いなく91年「JFK」の続編と呼べるオリバー・ストーン監督入魂の一作!

映画「JFK 新証言 知られざる陰謀【劇場版】」を観た。

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1992年に日本公開された「JFK」では、ケビン・コスナートミー・リー・ジョーンズゲイリー・オールドマンドナルド・サザーランドなどの錚々たるキャスト陣を率いて、アメリカ合衆国第35代大統領ジョン・F・ケネディの暗殺事件における疑惑を描いたオリバー・ストーン監督。本作はその映画公開後に解禁された機密文書から、改めて事件の真相にメスを入れたドキュメンタリーとなっている。撮影は「プラトーン」「7月4日に生まれて」でストーン監督を組み、「JFK」でアカデミー撮影賞を受賞したロバート・リチャードソン。ナレーションは俳優のウーピー・ゴールドバーグドナルド・サザーランドがそれぞれ担当している。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:オリバー・ストーン
出演:オリバー・ストーンウーピー・ゴールドバーグドナルド・サザーランド
日本公開:2023年

 

あらすじ

1963年11月22日、オープンカーでダラス市内をパレードしていたケネディ大統領が銃撃され死亡する事件が起こった。容疑者として拘束された元海兵隊員オズワルドも移送中に射殺され、真相は闇に葬られることとなった。事件から28年後の91年、ストーン監督による映画「JFK」が世界的ヒットを記録し、翌92年には新たな法案が可決して膨大な文書が機密解除されるなど事件の再調査が活気を帯びるが、真実はわからないまま年月が過ぎていった。本作では、新たに解禁された数百万ページにおよぶ文書の中から重要な発見をあぶり出して再検証し、事件の目撃者をはじめとする関係者へのインタビューから浮上した“新たな証拠”を深く掘り下げる。

 

 

感想&解説

1991年公開のオリバー・ストーン監督による「JFK」は、当時人気絶頂だったケビン・コスナーが主演していた事もあり、日本でも大ヒットしていた。個人的にも劇場では鑑賞できなかったがDVDやブルーレイで観直すたびに、188分という長尺なのにも関わらずいつも最後まで見入ってしまうほどで、トミー・リー・ジョーンズゲイリー・オールドマンケビン・ベーコンドナルド・サザーランドジョー・ペシといった名優たちの演技も素晴らしく、オリバー・ストーンの作品群の中でも特に大好きな一本になっている。そのストーン監督が再び「JFK」をテーマにしたドキュメンタリーを公開するという事で、楽しみにしていた本作。この映画は「JFK」公開の翌92年に新たな法案が可決され、膨大な文書の機密が解除されたことにより、もう一度ケネディ暗殺の裏側にオリバー・ストーン監督が迫った、ド直球の社会派ドキュメンタリーである。

本作はドキュメンタリーなので”劇映画”とは違い、事件の目撃者や関係者へのインタビューや事件についての検証が、ウーピー・ゴールドバーグドナルド・サザーランドのナレーションに乗せて淡々と進んでいく。過度にドラマチックだったり、演出によって特定のシーンで盛り上げようという意図を感じないのだ。しかも膨大な関係者の名前や彼らの職種や立場が次々を語られていくので、すべての情報を完璧に理解するのは数回の鑑賞が必要だろうし、かなりの集中力を要すると思う。そういう意味では、ケネディ大統領からジョンソン、ニクソンに続く流れやベトナム戦争への軍事介入、当時のアメリカとソ連、そしてキューバとの関係などの知識が少しあると、理解が進むかもしれない。ただベトナム戦争は多くの作品で描かれているし、マクナマラ国防長官はスティーブン・スピルバーグ監督「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」でも登場し、まさにケネディ時代における”キューバ危機”についてもロジャー・ドナルドソン監督の「13デイズ」でも描かれていたので、この時代のアメリカ史は映画ファンであれば割と飲み込みやすいテーマだろう。

 

映画の前半は前作「JFK」でゲイリー・オールドマンが演じていた、”オズワルド”単独犯がいかにバカげた説だったのか?という解説を、銃弾の弾道における矛盾を中心にじっくりと描いていく。劇中では「魔法の弾丸」という表現がされていたが、銃弾が政府関係者によって取り換えられていた可能性や、オズワルドの逃走経路から本来出会うはずの人物に出会っていないという矛盾、銃殺死体の検視写真の差し替えなど、当時の調査における嘘や矛盾を細かく解説していくのである。それによって事件を調査していた、”ウォーレン委員会”の報告の信ぴょう性の無さをこれでもかと突きつけてくる。そして後半以降オズワルドは以前からCIAとかなり強く繋がっており、その事実が隠蔽されていたことが分かってくる頃になると、映画はドキュメンタリーにも関わらず、まるでミステリー作品のような推進力を伴ってくる。

 

 

この映画を鑑賞するにあたって、観客がもっとも興味があるのは「では誰がケネディ大統領を暗殺したのか?」という一点だろう。そしてこの作品では、オリバー・ストーン監督が考える”真犯人”がハッキリと明示される。ここからネタバレになるが、ほぼ同じ結論でデヴィッド・ミラー監督の「ダラスの熱い日」という作品もあったが、それはCIA長官のアレン・ダレスとその一派だと示唆するのである。彼は驚くべきことに、そもそもウォーレン委員会のメンバーにも任命されており、ここからもウォーレン委員会がいかに欺瞞に満ちた組織だったか?が理解できる。彼ならいくらでも証拠を捏造できるからだ。ダレスはキューバ侵攻作戦について、上陸作戦が始まっても最後まで米軍の投入を認めなかったケネディと対立しており、カストロ政権の力を甘く観すぎていたCIAは大失態を犯す。そしてその後ダレスを含むCIA上層部は作戦失敗の責任を追及され、ケネディによって辞任させられているが、ケネディ暗殺はその2年後に起こっているのだ。

 

それにしても本作を観ながら強く感じるのは、ケネディ大統領の政治的手腕の確かさである。短いシーンながらも彼が国民に演説として語り掛けるシーンの言葉の強さと美しさには驚かされる。当時敵対していたソ連とも国際社会の一員として協調していく外交路線を打ち出し、戦争は絶対にしないという態度の堅さ、そして平和へ踏み出そうという決意。黒人差別を推進していたアラバマ州のジョージ・ウォレス州知事によって、黒人学生のアラバマ大学への入学が州兵によって阻止されそうになった際に、ケネディ大統領は事態を収拾するために連邦軍を介入させるシーンがあったが、その時の「肌の色による差別は人民としてのモラルの危機です。すべての公共施設はすべてのアメリカ人が使用できる権利があるはずで、これは基本的権利でありこれを否定することは尊厳の否定です。」という歴史的なスピーチは有名だ。だがジョージ・ウォレス州知事ケネディに対する悪意ある発言を観ていると、過去の悪しき慣習を否定していく勇気ある発言と行動は、それを良く思わない政敵を生んでしまうのだろう。

 

前作「JFK」でドナルド・サザーランドが演じていた”X”と、ケビン・コスナー演じるジム・ギャリソンとが会話する中盤における最重要シーンで、「彼が暗殺を逃れるチャンスはなかった。ケネディの死後ベトナム戦争は本格化したし、はっきり言ってウォーレン報告は創作だ。真相はもっと深く醜い。なぜ殺した?誰が得をする?隠す権力があるのは誰だ?ケネディはCIAを木っ端みじんに砕いた。前例のないことで、CIA長官ダレスの解任も衝撃だった。さらにケネディは52の軍事施設と21の海外基地の撤去を指示した。ベトナム戦争の軍事費は2000憶ドルなんだ。戦争がないと金もない。一部の人間にとって社会を結束させるのは戦争で、国家の権力も戦力で示せるんだ。だがケネディは冷戦をやめたかったし、核実験禁止も賛成した。キューバ侵攻も拒否し、ベトナム戦争からの撤退も計画したんだ。でも1963年11月22日にすべてが終わった。」という印象的なシーンとセリフがある。

 

ここからも分かるようにオリバー・ストーン監督は、32年以上前から同じことを語っているのだ。アメリカ政府という体制への強烈な反発と不信感。前作における、裁判でウォーレン報告が不正だと立証できなかった、ケビン・コスナー演じるジム・ギャリソンの最後のセリフは、「暗殺犯の追求に30年必要なら、30年でも捜査を続けるよ。ケネディとこの国のためだ。」というものだったが、本作でのオリバー・ストーンはそのジム・ギャリソンの姿に重なる。間違いなく本作は1991年公開「JFK」の正統続編であり、オリバー・ストーン監督にとってライフワークであると同時に、”魂の一作”になっていると思う。優れたドキュメンタリー作品であった。

 

 

7.5点(10点満点)