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映画「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」ネタバレ考察&解説 ジョニデ版ではなく71年ジーン・ワイルダー版からの影響が強い、老若男女が楽しめるヨーロッパ的お洒落ミュージカル!

映画「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」を観た。

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傑作「パディントン」シリーズで脚本/監督を手掛けてきたポール・キングが、ロアルド・ダール原作の児童小説「チョコレート工場の秘密」に登場するキャラクターである、”ウィリー・ウォンカ”の始まりの物語を描いたファンタジーアドベンチャー。主人公ウィリー・ウォンカを「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」「君の名前で僕を呼んで」のティモシー・シャラメ、他の出演は「アバウト・ア・ボーイ」「ラブ・アクチュアリー」のヒュー・グラント、「パディントン」「シェイプ・オブ・ウォーター」のサリー・ホーキンス、「ファーザー」「女王陛下のお気に入り」のオリヴィア・コールマン、「Mr.ビーン」のローワン・アトキンソンら。製作は「ハリー・ポッター」シリーズのデビッド・ハイマンが手掛けている。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:ポール・キング
出演:ティモシー・シャラメヒュー・グラントサリー・ホーキンスオリヴィア・コールマンローワン・アトキンソン
日本公開:2023年

 

あらすじ

純粋な心ときらめくイマジネーションを持ち、人びとを幸せにする「魔法のチョコレート」を作り出すチョコ職人のウィリー・ウォンカは、亡き母と約束した世界一のチョコレート店を開くという夢をかなえるため、一流のチョコ職人が集まるチョコレートの町へやってくる。ウォンカのチョコレートはまたたく間に評判となるが、町を牛耳る「チョコレート組合」からは、その才能を妬まれ目をつけられてしまう。さらに、とある因縁からウォンカを付け狙うウンパルンパというオレンジ色の小さな紳士も現れ、事態はますます面倒なことに。それでもウォンカは、町にチョコレート店を開くため奮闘する。

 

 

感想&解説

ロアルド・ダール原作の「チョコレート工場の秘密」の映画化といえば、ティム・バートンが監督を手明け、ジョニー・デップが主演した2005年「チャーリーとチョコレート工場」がもっとも有名だろう。この作品でジョニー・デップが演じていたウィリー・ウォンカは、かなりの”変わり者”で、チョコレート工場の中に招待した甘やかされたワガママ放題の子供たちに、手痛いお仕置きをしていくエキセントリックな人物として描かれていたと思う。彼の発明したお菓子は食べると、膨らんで宙に浮いたり逆に縮んだり、身体の色が変わったりするため、いわば”マッドサイエンティスト”的な立ち位置のキャラクターだったが、そこにクリストファー・リーが演じる、歯科医を営む厳しい父親から虐待でトラウマを負ったというジョニー・デップの奇人演技が加わって、良くも悪くもティム・バートン版で、”ウィリー・ウォンカ”というキャラのイメージはかなり固まった気がする。

更に前には、1971年製作のメル・スチュアート監督、ジーン・ワイルダー主演「夢のチョコレート工場」という作品があるが、こちらは完全にミュージカル作品となっており、第44回アカデミー賞では「編曲・歌曲賞」にノミネートされている。そういう意味では、本作「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」は、このジーン・ワイルダー主演版からの影響が強い作品と言えるだろう。主題歌である「ピュア・イマジネーション」は、71年の「夢のチョコレート工場」で使用された曲だし、ヒュー・グラントが演じていたウンパルンパの造形である”緑の髪にオレンジの肌”という特徴は、完全に「夢のチョコレート工場」からの引用だ。またウォンカ自体もティム・バートン版ほどエキセントリックな性格ではなく、もっと大人で人間味がある。やはりジョニー・デップの役作りは、監督であるティム・バートンの好みが大きく影響していたのだろう。はじまりの物語である本作ラストのティモシー・シャラメから、ジョニー・デップのウォンカにイメージが繋がらないのはその為である。

 

本作の監督である、ポール・キングはイギリス人のクリエイターだ。ポール・キング出世作である「パディントン」シリーズは、児童文学作品”くまのパディントン”の映画化であり、イギリスの首都ロンドンには同名の駅があるようにイギリスを代表するキャラクターだが、彼の映画にはイギリス人らしい気品や上品さがあると思う。そもそもロアルド・ダールもイギリスの作家だし、本作のキャストをヒュー・グラントサリー・ホーキンスオリヴィア・コールマンローワン・アトキンソンと軒並みイギリス人俳優を揃えていることも、決して偶然ではないだろう。そして主演のティモシー・シャラメは、父親がフランス人で母親がアメリカ人という二重国籍を持つ俳優のようだが、「君の名前で僕を呼んで」などで表現してきたような独特の端麗さを持っている俳優だ。本作の脚本はポール・キングのオリジナルなのだが、ここからも監督は本作でヨーロッパ的な”上品で美しいウィリー・ウォンカ”を描きたかったのではないだろうか。ティム・バートンジョニー・デップ版のカウンターを狙ったとも言えるだろう。

 

 

そういう意味でも、本作「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」は、老若男女問わず誰でも楽しめるミュージカル映画になっている。ティム・バートン版の毒っ気やシニカルさは完全に脱臭され、ティモシー・シャラメのウィリー・ウォンカは自分のチョコレートを食べて幸せになって欲しいという真っすぐな希望に溢れ、もう一度母親に会いたいと願う純粋な青年だ。ナイーブな面もあるが友情にも厚く、なにより美しい。彼の服装も派手ではないがお洒落で、いかにもイギリス的なセンスなのである。このキャラクターを演じられるのは、ティモシー・シャラメしかいないだろう。映画「マッシブ・タレント」でも、「パディントン2」の傑作ぶりに触れているセリフがあり愛に包まれた傑作だったが、本作もまさにポール・キングが作ってきた、映画「パディントン」の延長線上にある作品だと言って良いと思う。クマが服を着て、二足歩行で言葉を話していても誰も不思議に思わない、あの世界観の延長だ。

 

ストーリーもストレートで難解な点は何もない。序盤から魔法のように食べると体が宙に浮くチョコの存在で、ウォンカの天才ぶりは発揮され、彼のバックボーンは特に語られない。余計な説明は何もなく、序盤からすでにウォンカは世にゴマンといる凡人ではなく、チョコレート作りにおいて特別な存在であることがダンスと歌、そしてティモシー・シャラメの容姿から観客に伝わってくる。そしてこの世界では、お金よりもチョコレートの方が価値があるとばかりに、警察署長に賄賂としてチョコを渡して町を牛耳る「チョコレート組合3人組」の存在や、ウンパルンパの容姿から、本作が”ファンタジー映画”であることが堂々と宣言され、観客を作品世界の中に誘っていくのだ。ウォンカのパートナーとなる少女ヌードルもキャラー・レインという新人女優を配置し、絶対にシャラメとは間違いが起こらないような絶妙な設定とキャスティングにしているし、この”夢の世界”の構築にはスキがない。小さなお子さんを連れた親御さんも安心のファミリームービーなのである。

 

そしてヒュー・グラントが扮する”ウンパルンパ”は、本作のコメディリリーフとして完璧に役割をこなしている。あの奇妙な歌とダンスはエンドクレジットまで続き、「ノッティングヒルの恋人」「ブリジット・ジョーンズの日記」と90年代ラブコメ映画における女性の憧れだった、ヒュー・グラントの見事なキャリア転換と演技の幅には驚かされるばかりだ。近作でも「ジェントルメン」や「ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り」などで、独特のキャラクターを演じていたが、しばらくはヒュー・グラントの快進撃は止まらないだろう。本作で主演ウォンカに続いてもっとも美味しい役だったのは、間違いなくウンパルンパだったと感じる。あとはオリヴィア・コールマンのヒールっぷりも流石であった。

 

良い音楽とダンスがあり、適度なコメディシーンもあり、最後では親子愛にホロっとさせられと、まるでウォンカの作った”魔法のチョコレート”のように、甘い作風だった本作。画面のポップさとオシャレさもあり、特にこのクリスマスシーズンにおけるデートムービー&ファミリームービーとしては、これ以上の作品はないだろう。ただ「パディントン」シリーズで描かれていた移民問題などのメッセージ性も少なく、この映画ならではの尖った表現がないので、個人的にはあまりに優等生すぎて物足りないと感じてしまったのは事実だ。ただ美しいティモシー・シャラメが堪能できるので、彼のファンは確実に楽しめるだろうし、娯楽ミュージカル映画としてもしっかりと各所のバランスを保った良い作品だったと思う。

 

 

6.5点(10点満点)