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映画「TALK TO ME トーク・トゥ・ミー」ネタバレ考察&解説 あのカンガルーは何なのか?YouTuber初監督らしい、スピーディーな展開が楽しいホラー作品!

映画「TALK TO ME トーク・トゥ・ミー」を観た。

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「ヘレディタリー 継承」「ミッドサマー」などを超え、北米で「A24ホラー史上最高の興行収入を記録した」との触れ込みで話題になった、オーストラリア産ホラー映画が遂に日本で公開された。監督はYouTubeチャンネル「RackaRacka(ラッカラッカ)」で、尖った動画を配信し続けている双子兄弟ダニー&マイケル・フェリッポウ。本作が長編映画監督デビュー作である。2023年サンダンス映画祭で話題を呼んでおり、すでにA24製作による続編「Talk 2 Me(原題)」が決定している。主演はドラマシリーズで活躍しているソフィー・ワイルドで、彼女も本作が長編映画デビューとなる。共演はアレクサンドラ・ジェンセン、ジョー・バード、オーティス・ダンジ、ゾーイ・テラケスなどで、全体的にまだ知名度の低い俳優たちが起用されている。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。


監督:ダニー&マイケル・フェリッポウ

出演:ソフィー・ワイルド、アレクサンドラ・ジェンセン、ジョー・バード、オーティス・ダンジ、ゾーイ・テラケス

日本公開:2023年

 

あらすじ

2年前の母の死と向き合えずにいる高校生ミアは、友人からSNSで話題の「90秒憑依チャレンジ」に誘われ、気晴らしに参加してみることに。それは呪われているという“手”のかたちをした置物を握って「トーク・トゥ・ミー」と唱えると霊が憑依するというもので、その“手”は必ず90秒以内に離さなければならないというルールがあった。強烈なスリルと快感にのめり込みチャレンジを繰り返すミアたちだったが、メンバーの1人にミアの亡き母が憑依してしまったことから、最悪の事態になっていく。

 

 

感想&解説

ダニー&マイケル・フェリッポウという人気YouTubeチャンネルを運営する、いわゆるYouTuberが初監督したホラー映画がA24から公開になるとの事で、以前から話題になっていた本作。しかも世界中で大ヒットを記録しており、すでに続編の製作も決定しているらしい。いわゆる人が悪霊に憑依されるというテーマの作品で、過去にも多くの作品が公開されてきたと思うが、本作の特徴は若者による肝試し的なノリで憑依される点だろう。よって特別な霊媒師も登場しなければ、特別な場所も必要ない。やり方は呪いがかかった”剥製の手”を握り、「トーク・トゥ・ミー」と言えば瞬時に目の前に霊が表れ、さらに「レット・ミー・イン」と言えば霊が体に乗り移る。そして90秒以内にその”呪いの手”を離せば、霊も離れてくれるのである。「#90秒憑依チャレンジ」というゲームらしいが、その憑依されている様子を動画で撮影し、彼らはSNSで拡散しているのだ。

この感覚こそが、まさにYouTuber監督の作品なのだろう。中盤にはミアと仲間たちが代わる代わる、この憑依チャレンジを繰り返す様子をモンタージュで繋いだ場面がある。彼らは大笑いしながら、憑依されて人間性を失った友人の様子を眺めているのだが、明らかにこれは”ドラッグパーティ”のメタファーだろう。そもそもミアが最初にこのゲームに挑戦するのだが、彼女は友人が主催したパーティーに参加するのだが、周りの空気に溶け込めず浮いている。そんな中で度胸試しのチャンスが訪れたことから彼女の承認欲求がうずいてしまい、危険なゲームに飛び込んでしまうのだが、この友人たちの前で虚勢を張りたいという気持ちがいかにも10代っぽい感覚だ。ある程度大人になってしまうと、なぜそんな危険にわざわざ自分から飛び込むのか?と不思議なのだが、本作はこの若者ならではの感覚をうまく捉えている。個人的に本作はホラー映画としての恐怖表現というよりも、このZ世代独特の虚勢と混乱を上手く描いた作品だと感じる。


更にこれもYouTuber監督の作品らしく、退屈でダレるシーンがほとんどないのも特徴だろう。呪いの手を握り、「トーク・トゥ・ミー」と言えば瞬時に目の前に霊が表れるシーンや、オブジェから手を離せば憑依が解けるという設定に分かりやすいが、とにかく物事がシンプルに進み、スピーディかつコンパクトに見せ場が続いていく。”来るか来るか”という恐怖感を募らせるような演出を積み重ねていき、溜めた末に恐怖シーンを描くというような古典的な手法ではなく、もっと直接目を突いたり、顔や頭を机や壁への激突によって砕くなどの即物的な表現が多いのも特徴だ。そういう意味では退屈は全くしないが、ホラー映画としてのゾクゾクするような恐怖度は低いと思う。全体的に本作のターゲットは、登場人物たちと同じく10~20代の若い観客なのだろう。だからこそちんたらとした細かい設定や世界観の説明はオミットして本題にすぐ入るし、本作のもうひとつのテーマとして、”家族との確執”を描いているのだと感じる。そして前述のように、この若者の心理を描く手法が上手いのだ。

 

 


例えば映画前半、ミアがキッチンで誰かと会話を交わすシーンがあるが、ピントがまったく奥で話しかけてくる人物に合わないという場面がある。後々、彼は彼女の父親であることが判明するが、ミアがこの人物とまったく心を通わせていないことが、この映像だけですぐに理解できる。ミアは母親を失っており、それによって父親や自分自身を責めているのだ。さらに親友ジェイドと、さらにそのジェイドと付き合っているダニエルは、ミアの元カレという狭い人間関係がいかにもティーンエージャーぽいが、ミアとダニエルはほとんど何の身体の関係も無かったらしく、その複雑な感情が霊に憑依されたことにより表面化する場面がある。二人が不自然な位置で横になっているシーンで、悪霊を見るシーンだ。悪霊とミアが寝ているダニエルの足の指に吸い付いていたのは、ミアの”性的欲求”の具現化だろう。ミアは最初の憑依が90秒を超えてしまった為に、自分の内面にある様々な感情が表面化し、彼女は悪霊に操られてしまうのだ。そして彼女が操られてしまう最も大きな要因が、”母親の死”というトラウマだ。


ここからネタバレになるが、ミアの母親の死因は”自殺”であることが父親の告白によって語られる。だがミアはそれを受け入れられず、それに付け込んだ悪霊によって翻弄されてしまっているのだ。自分の首を絞める狂暴化した父親も、ライリーを車椅子に乗せて高速道路に突き落とすように仕向けたのも、すべて亡き母親のフリをした悪霊の仕業だ。そして遂には、ミアが自ら車に跳ねられて死ぬことで自分も霊となってしまい、異国の地で行われている”憑依チャレンジ”に呼び出されるシーンで本作は終わる。序盤で道路に横たわる死にかけのカンガルーを見てそれを車で避けるシーンがあり、後半の病院でもう一度同じカンガルーが登場するが、本作においてのこのカンガルーは”死の象徴”だ。既に死んでいるはずのカンガルーの霊を見たミアは、彼女も同じように死も世界に向かって進み始めているのである。それにしても、傷を抱えたティーンエージャーが主人公の映画にしては、この終わり方はあまりに救いがない。悪霊が圧倒的に勝利してしまい、人間側は成す術がない展開だからだ。もちろんホラー映画としてのインパクトを優先したのだろうが、個人的にこの着地はやや冷淡すぎる印象を持ってしまった。


本作は若者による、ソーシャルメディアにおける”承認欲求”や”中毒性”にフォーカスしながら、母親を亡くしたことで孤独を恐れている十代の女の子の内面をしっかりと描いた佳作だと思う。ホラー要素は薄いが、95分というタイトな上映時間の中に面白い展開が詰まっており、十分に見応えのある作品になっている。ただし興行成績は良いようだが、ホラー作品としては「エクソシスト」の”ライト版”という感じで、アリ・アスター監督「ヘレディタリー 継承」のような世代を超えて、トラウマを植え付けるような恐怖作品にはなっておらず、そこはやや物足りないポイントだった。続編は”呪いの手”が更なる被害者を生んでいく物語になるのか、今回の登場人物たちが再登場するのかは分からないが、新たなホラーフランチャイズ作品としてシリーズ化していくのかもしれない。そういう意味では、この設定を作ったダニー&マイケル・フェリッポウ監督の手腕は確かなのだろう。彼らの次回作にも注目したい。

 

 

6.5点(10点満点)