映画を観て音楽を聴いて解説と感想を書くブログ

エンタメ系会社員&バンドマンの映画ブログです。劇場公開されている新作映画の採点付きレビューと、購入した映画ブルーレイの紹介を中心に綴っていきます!

2023年に劇場で観た映画ランキング『ベスト20』を発表!

2023年に劇場で観た映画ランキング『ベスト20』を発表!

f:id:teraniht:20231229102500j:image

今回は2023年映画ランキングの20位から1位を発表!劇場で鑑賞した作品に限定して選定した。またここにランクインしなかった映画でも、アラビアンナイト」「聖地には蜘蛛が巣を張る」「ヴァチカンのエクソシスト」「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」などは特に印象に残った。今年は昨年以上に劇場に足を運ぶ時間が少なく、例年よりは鑑賞本数が大幅に減ってしまったが、リドリー・スコットスティーブン・スピルバーグダーレン・アロノフスキーポール・バーホーベンマーティン・スコセッシ、そして宮崎駿などの大御所監督が、特に作家性の高い傑作を発表してくれた一年だったと思う。ちなみに本年度のワーストは、M・ナイト・シャマラン監督の「ノック 終末の訪問者」。では20位から順番に発表!今年も本ブログを読んで頂き、ありがとうございました!

 

 

20. 「aftersun アフターサン」

これが長編デビュー作となる、スコットランド出身のシャーロット・ウェルズ監督が手掛けたヒューマンドラマ。2022年のカンヌ国際映画祭で上映されるや大絶賛され、スタジオA24が配給権を獲得したことも話題になった。監督の自伝的な内容になっており、観客に想像の余地を残しながら終わるような作風なので、鑑賞後の考察が楽しいタイプの作品だろう。繊細で美しい映画だった。

19. 「JFK 新証言 知られざる陰謀【劇場版】」

1992年に日本公開された、オリバー・ストーン監督「JFK」の続編ともいえるような社会派ドキュメンタリー作品で、アメリカ合衆国第35代大統領ジョン・F・ケネディの暗殺事件における疑惑を深堀して描いている。”劇映画”とは違い、事件の目撃者や関係者へのインタビューや事件についての検証が、ウーピー・ゴールドバーグドナルド・サザーランドのナレーションに乗せて淡々と進んでいくのだが、ドラマチック性を排除し膨大な関係者の証言や検証が次々と語られていく作品となっている。オリバー・ストーン監督の魂を感じる映画で、最後まで強烈に惹きつけられる。

18. 「ナポレオン」

巨匠リドリー・スコット監督が、前作「ハウス・オブ・グッチ」から2年弱という短いインターバルで公開した歴史スペクタクル。フランスの英雄ナポレオン・ボナパルトをテーマに、上映時間2時間38分の中で彼の人生のハイライトを凝縮して描いている。総勢8000人のエキストラを投入し、最大11台のカメラで同時撮影したという戦闘シーンには、「ベン・ハー」や「アラビアのロレンス」のような風格すらあり、大迫力の画作りが楽しめる一作だ。

17. 「生きる LIVING」

黒澤明監督による1952年の名作「生きる」を、1953年のイギリス・ロンドンを舞台にしてリメイクしたヒューマンドラマ。脚本は長編小説「日の名残り」「わたしを離さないで」などが世界中で高い評価を得ている、ノーベル賞作家カズオ・イシグロが担当しており、第95回アカデミー賞では「主演男優賞」と「脚色賞」にノミネートされた。主演はビル・ナイ。オリジナルへのリスペクトを強く感じつつも、リメイク作として完璧な出来に仕上がっていると思う。

16. 「イノセンツ」

世界の映画祭では16もの映画賞を受賞した、ノルウェー製のサイキックスリラー。監督は「わたしは最悪。」でアカデミー脚本賞にノミネートされた、エスキル・フォクト。「テルマ」「わたしは最悪。」などのヨアキム・トリアー監督と共同脚本を務めてきた、エスキル・フォクトの監督2作目となる。大友克洋の漫画「童夢」からインスピレーションを受けたと公言しているが、確かにかなり同作を意識した作品となっており、北欧スリラーホラーの良作として、忘れられない一本になっている。

15. 「怪物」

ほとんどの作品でオリジナル脚本を執筆し続けてきた是枝裕和監督が、「花束みたいな恋をした」を大ヒットさせた脚本家である坂元裕二とタッグを組んで制作したヒューマンドラマ。第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された結果、見事「脚本賞」を受賞している。脚本の出来と是枝監督がそもそも持っている、映画監督としての”演出の巧さ”が加わっていることで、本作は非常にスキのない見事な作品になっていたと思う。

14. 「スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース2」

傑作「スパイダーマン:スパイダーバース」の続編は、相変わらずアクションとビジュアルが半端ないクオリティに達している。フィル・ロードクリストファー・ミラーらしい”レゴ世界”など、マルチバースだからこその表現が随所に溢れ、とてつもない情報量と動きでスクリーンから目が離せない。冒頭からイタリア/ルネサンスタッチの敵が登場するが、全編に渡って古今東西のアートへのリスペクトを感じ、画面に対してのこだわりとセンスに溢れた作品だ。

13. 「君たちはどう生きるか

国民的アニメーション監督である宮崎駿監督が、2013年の「風立ちぬ」以来、10年ぶりに公開した長編アニメーション作品。一時期は長編作品からの引退宣言を表明していたが、その引退宣言を撤回し挑んだ待望の新作だったが、完全に「私小説」であり「アート作品」だった。いわゆる過去の”明るく楽しいジブリ作品”を期待していると肩透かしを喰うかもしれないが、宮崎駿監督のクリエイターとしての気迫と才気に満ちた一作だと思う。

12. 「逆転のトライアングル」

「フレンチアルプスで起きたこと」「ザ・スクエア 思いやりの聖域」などを手掛けた、スウェーデンの異才リューベン・オストルンド監督の新作。前作に引き続き、シニカルでブラックユーモアにあふれた作品となっており、今作は”階級社会”をテーマにしたヒューマン・コメディになっている。第75回カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した他、第95回アカデミー賞でも「作品」「監督」「脚本」の3部門にノミネートされた。エンタメ性とメッセージ性が良いバランスで両立した快作だ。

11.「フェイブルマンズ」

スティーブン・スピルバーグによる初の自伝的作品。スピルバーグの少年期~青年期に起こった、彼の中の葛藤や混乱を映像化することによって浄化していく、まるでセラピーのような作品だ。タイトルが”フェイブルマンズ”と複数形であることから、これは家族の話だと示されているように、本作は彼の両親、特に母親との関係を中心にした物語となっている。”映画の恐ろしさ”さえも描いた、巨匠スティーブン・スピルバーグにしか撮れない作品だろう。

 

 

10. 「Pearl パール」

2022年に公開された、タイ・ウェスト監督によるホラー映画「X エックス」の続編であり、1970年代が舞台だった「X エックス」の60年前を描いた前日譚(プリクエル)。前作では”史上最高齢の殺人鬼”だったパールの若き日を描いており、彼女が真のシリアルキラーへ成長していく姿が楽しい作品になっている。とにかく主演のミア・ゴスが最高で、シリーズ三部作の最終作「MaXXXine(マキシーン)」が本当に楽しみになる快作ホラーだった。

9. 「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」

ダニエル・ラドクリフポール・ダノが出演した異色作「スイス・アーミー・マン」の監督コンビであり、CMディレクター出身のダニエルズが手がけた、アクションコメディ。第95回アカデミー賞では作品、監督、脚本、主演女優ほか同年度最多の10部門11ノミネートを果たしており、見事に「作品賞」始め7部門を獲得している。このSFカンフーコメディは観客一人一人の人生を肯定し、強烈にポジティブな気持ちにさせる稀有な作品だと思う。

8. 「バービー」

レディ・バード」「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」のグレタ・ガーウィグが監督を務め、全世界累計興行収入では10億ドルを突破し、2023年に公開された映画中No.1となる大ヒットを記録したコメディドラマ。世界中で愛され続けるアメリカ産のオモチャ「バービー」をテーマに描いているが、それだけに留まらない広い射程範囲の映画で、メタ構造で作られた複雑でかつ素晴らしい作品だったと思う。

7. 「The Son 息子」

長編初監督作であった前作「ファーザー」が、第93回アカデミー賞で計6部門にノミネートされ、結果「主演男優賞」と「脚色賞」の2部門を受賞という快挙を成し遂げた、フロリアン・ゼレール監督が手掛けたヒューマンサスペンス。「ファーザー」に続く「家族3部作」の2作目に位置付けられている。前作「ファーザー」が、ヒューマンドラマだと思って鑑賞し始めたら実はサスペンスだったというように、この監督の作品はジャンルの垣根を軽々と越えてこちらの感情を搔き乱してくるが、本作もまさにそういう作品になっている。

6. 「ザ・ホエール」

「レスラー」「ブラック・スワン」のダーレン・アロノフスキー監督が放つ、2014年「ノア 約束の舟」以来9年ぶりになる劇場公開監督作であり、傑作ヒューマンドラマ。まさにダーレン・アロノフスキーの真骨頂とも言える作品で、ある男が人生の最後に行動することで、過去に抱えた喪失感と罪悪感から抜け出し、贖罪される物語だ。しかも苦難を乗り越えてこの役を掴んだ、俳優ブレンダン・フレイザーも熱演も胸に迫るものがあった。

5. 「イニシェリン島の精霊」

マーティン・マクドナー監督が、世界の賞レースを席巻した「スリー・ビルボード」から5年ぶりに公開した、ヒューマンドラマ。第95回アカデミー賞でも、「作品賞」「監督賞」「主演男優賞」「助演男優賞」「助演女優賞」「脚本賞」「編集賞」「作曲賞」の8部門でノミネートされた。人生に新しい価値を生み出そうと考えた男と、そのルーチンこそが人生の喜びである男との対立を描いた本作はシンプルなストーリーだが、非常に”寓話的”でこの島自体と彼らの関係を、”なにか”の象徴のように描いている。マーティン・マクドナー監督の真骨頂を楽しめる一作だろう。

4. 「ベネデッタ」

氷の微笑」「ロボコップ」「トータル・リコール」「エル ELLE」など、個性的な作品を数々生み出しているポール・バーホーベン監督が手掛けた、セクシャル・サスペンス。80歳を超えた監督の作品とは思えないあまりにパワフルな映画で、過去作でも強靭な意志を持った強い女性たちとエロティックな描写を定期的に描いてきた作家だが、本作はその集大成的な一作だと言えるかもしれない。

3. 「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」

数々の傑作を残してきた巨匠マーティン・スコセッシ監督が、アメリカ先住民連続殺人事件について描いたノンフィクション小説を原作に描いた大長編サスペンス。出演はマーティン・スコセッシ作品の常連主演であるレオナルド・ディカプリオロバート・デ・ニーロで、重厚な二人の演技合戦が楽しめる。上映時間は206分と長尺だが、ストーリーも難解な映画ではないしエンタメ性も非常に高いため、至福の時間が過ごせる。マーティン・スコセッシ監督の新たなマスターピースだろう。

2.「非常宣言」

殺人の追憶」「パラサイト 半地下の家族」などのソン・ガンホと「甘い人生」のイ・ビョンホン、「シークレット・サンシャイン」のチョン・ドヨンなどが出演する韓国産パニックスリラー。とにかく息つく間を与えないほどに、飛行機内と地上の両方で次々とアクシデントが起こり、観客の感情を揺さぶってくる作風で、本作における”没入感の演出”は素晴らしい。シンプルに娯楽性に長けた映画として、そして航空パニックの良作として、今年突き抜けた作品だったと思う。

1. 「TAR ター」

主演に「キャロル」のケイト・ブランシェットを迎え、「イン・ザ・ベッドルーム」「リトル・チルドレン」のトッド・フィールドがなんと16年ぶりに監督/脚本/製作を手がけた長編作品。第95回アカデミー賞では、「作品賞」「監督賞」「脚本賞」「主演女優賞」「撮影賞」「編集賞」の計6部門でノミネートされている。いろいろなシーンで解釈が分かれるし明確な正解も提示してこないからこそ、非常に多面的な映画と言えるだろう。長尺な上に基本的には静かな作品だが、各シーンの完成度の高い演出を体感するだけでも観る価値のある作品だと思う。まさに今年を代表する一作。