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映画「オーメン ザ・ファースト」ネタバレ考察&解説 「アレ」を映像で観せられる違和感!48年前の名作ホラーの前日譚!

映画「オーメン ザ・ファースト」を観た。

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リーサル・ウェポン」「スーパーマン」のリチャード・ドナーがメガホンを取り、世界的ヒットを記録した1976年公開の名作ホラー「オーメン」の前日譚。”悪魔の子ダミアン”というホラー映画界に残るキャラクターを生み出した作品だが、本作ではそのダミアン誕生までのエピソードが描かれている。出演はテレビドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」のネル・タイガー・フリー、「蜘蛛女のキス」「バクラウ 地図から消された村」のソニア・ブラガ、「ウィッチ」「グリーン・ナイト」のラルフ・アイネソン、「パイレーツ・オブ・カリビアン」「生きる LIVING」のビル・ナイなど。監督は本作が長編デビュー作となるアルカシャ・スティーブンソン。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:アルカシャ・スティーブンソン
出演:ネル・タイガー・フリー、タウフィーク・バルホーム、ソニア・ブラガ、ラルフ・アイネソン、ビル・ナイ
日本公開:2024年

 

あらすじ

アメリカ人のマーガレットは新たな人生を歩むべくイタリア・ローマの教会で奉仕生活を始めるが、不可解な連続死に巻き込まれてしまう。やがて彼女は、恐怖で人々を支配するため悪の化身を生み出そうとする教会の恐ろしい陰謀を知る。全てを明らかにしようとするマーガレットだったが、さらなる戦慄の真実が彼女を待ち受けていた。

 

 

感想&解説

1976年に日本公開されたオカルトホラー「オーメン」における、“悪魔の子ダミアン”は映画史上に残るホラーアイコンとして有名だろう。6月6日午前6時に生まれたダミアン少年の周りで、人が奇怪な死を遂げていくというストーリーで、今でも”666”のアザは恐怖の象徴となっている。更にアメリカ人外交官ロバートを演じていた主演グレゴリー・ペッグの存在感と、のちに「リーサル・ウェポン」「スーパーマン」を手掛けたリチャード・ドナー監督の高い演出力、アカデミー作曲賞に輝いたジェリー・ゴールドスミスによる音楽が融合して、1作目は今観ても色あせない名作となっている。その後「4」まで続くシリーズ作やリメイク作品もあったが、それぞれに見どころのあった「エクソシスト」シリーズとは違って、やはり「オーメン」は「1」だけが特別な作品だったと感じる。

その「オーメン」の前日譚が、本作「オーメン ザ・ファースト」だ。最近、ブラムハウス・プロダクションズによる「ハロウィン」「エクソシスト」といった往年のホラー名作のリブート企画があった為、本作もその流れを汲んだ企画なのかもしれないが、それにしても48年前に公開された作品のプリクエル(前日譚)というのは、映画会社としてはチャレンジングな企画だったと思う。特にこの「ザ・ファースト」は、そもそも”ダミアン誕生”を物語のゴールに設定しているストーリーなので、1作目の「オーメン」を観ていないと完全に楽しさが半減するタイプの作品だし、ブレナン神父の行動や1作目に続くラストの流れの意味が分からなくなってしまう。そういう意味ではもう一度「1」を観直してから挑んだ方が良いくらいに、”一見さんお断り”の作品になっているのだ。

 

また当然のように、初代「オーメン」へのオマージュシーンは多い。ここからネタバレになるが、特に”人が死ぬシーン”はほとんど初代からの引用となっている。冒頭のブレナン神父が訪れた教会で、ハリス神父に鉄パイプが落下して頭を削られるシーンは、「1」のブレナン神父が教会の塔の落ちてきた避雷針に串刺しにされて死ぬシーンの"変奏"だろうし、修道女が施設の子供たちの目前で、「あなたのためよ」という言葉を残し、ガソリンで自分に火をつけ首を吊って飛び降りるシーンは、「1」におけるダミアンの誕生日に乳母が首つり自殺するシーンと、死体が窓ガラスを割るカットの編集までも含めてほぼ同じ演出になっている。またクラブで出会ったパオロと再会した後、彼が車に轢かれ胴体が真っ二つに切断されて死んでしまうシーンは、前作でカメラマンのジェニングスが後退するトラックの荷台から滑り飛んだガラス板によって、首を飛ばされてしまう有名な場面へのオマージュシーンだろう。若干の変更を入れながらも、ほとんど殺されるシチュエーションを同じにしているのである。

 

 

メガホンを取ったのは本作が劇場長編デビュー作となる、女性監督のアルカシャ・スティーブンソンだが、まず良かった点としては本作は画作りが素晴らしい。70年代イタリアという設定なのだが、若干セピアがかったような色合いのローマの街は美しく、元々監督はフォト・ジャーナリストのようだが、本作も「オーメン」シリーズらしい格調の高さを感じさせる。また「ローズマリーの赤ちゃん」「サスペリア」「死霊館のシスター」「ポゼッション」「反撥」など過去のホラー/スリラー作品へのリスペクトも感じるし、それほど予算のかかった作品ではないと思うが、まったく画面に安っぽさを感じない。これは監督と撮影監督の手腕だろう。また役者陣もスターキャストではないが、それぞれ存在感を見せており、特に「蜘蛛女のキス」のソニア・ブラガと「生きる LIVING」のビル・ナイの配役のお陰で、本作はかなり格上の作品として感じられる。やはり映画にとって、悪役の存在は非常に重要なのだ。

 

だがストーリーについては、正直やや残念な出来だったと思う。最初から”ダミアン誕生”の物語である以上、ラストの展開についてはおおよその想像がつくのだが、本作においては中盤以降からこちらの想像を超えた展開はほとんど起こらない。カルリータという少女を登場させて、最初にマーガレットの顔を舐めるという奇行をさせる事によって、彼女は”悪魔と関係がある子供”だというミスリードをしてくるが、すぐにマーガレットと打ち解けることによって”普通の子”になってしまう。冒頭の禍々しい演出が活かしきれておらず、このカルリータというキャラクター設定がブレているのだ。一方、マーガレットがルスという修道女に誘われ、クラブでパオロという男と出会い一夜を明かすシーンがあってから、彼女の周りでは奇怪なことが起こり始めるのだが、明らかに彼女の幻覚の内容が突飛なので、主人公マーガレットがただの修道女ではない事が予想できてしまう。出産中の女性の産道から悪魔の手が出てくるのを見てしまう幻視シーンなどは、その顕著な例だろう。(簡単にマーガレットが見られるような場所で、獣との子供を取り出すことはないだろうから、流石にあれは幻視だろう)

 

まず「1」では言葉だけの説明だった”山犬との間の子供”という設定について、今回実際にその”儀式”を見せられるのは、なかなか辛い。そもそもこれは「オーメン」でも謎だったが、教会が失墜しつつある人々の信仰心を向けるために恐怖の対象「反キリスト=悪魔の男子」を生み出そうとしているという説明で、なぜ山犬と性行為をさせる必要があるのか?が不明な上に、今回はその獣のレイプシーンが登場するのだが、この獣はなぜ教会の指示に従っているのかがよく分からない。「1」ではブレナン神父が、「ダミアンの母を見た」「その正体は山犬だ」と話していたし、ダミアンの母の墓地にも明らかに犬のような白骨があったが、ここは父親に変更されたようで「1」のセリフと矛盾しているのも気になる。今回はこの”獣そのもの”を映像化してしまったことによって、そもそも本作が持っていた”設定の危うさ”が露呈してしまっているのだ。また終盤、マーガレットが憑依されたように奇怪な動きを繰り返すとお腹が突然大きくなるシーンなどは、完全にオカルト超常現象の類だ。ダミアンが悪魔の力を使って”偶然の事故”のように人を殺していくというのが、オリジナル「オーメン」のオカルト映画としての良さだったのに、本作は過度にファンタジー色が強すぎる気がする。もっと山犬は、”禍々しい象徴”くらいの描き方で良かったのでは?と思ってしまった。

 

ラストはマーガレットが産んだのは双子で、男の子のダミアンはロバートの元にもらわれるという「1」へ続く流れとなるが、もう一人は女の子でありマーガレット、カルリータと共に山小屋のような場所で暮らしているところへ、再びブレナン神父が訪れて、マーガレットの娘が特別な力を持っていること、教会が彼女たちの居所を掴んでいることを示唆してくる。これは明らかにこの「ザ・ファースト」のフランチャイズ化を狙っての展開なのだろう。本作のヒット次第で続編がある可能性はあるが、カトリック教会において教皇につぐ最高位の聖職者である”枢機卿”が、人々の信仰復活のために悪魔の子を生み出そうとしていたという内容で、どこまで北米やヨーロッパの観客に受け入れられるのか?がポイントになるかもしれない。ただ少なくとも「オーメン ザ・ファースト」は、日本市場では苦戦する作品になりそうだ。

 

 

5.5点(10点満点)