映画「レッド・ツェッペリン ビカミング」を観た。

アメリカのポピュラーミュージックのルーツをひも解きながら、カントリー/フォーク/ブルース/R&B/ハワイアン/ラテンといったジャンルへの発展の歴史を、5時間以上で描いた音楽ドキュメンタリー「アメリカン・エピック」4部作を手掛けたバーナード・マクマホン監督による、伝説のロックバンド”レッド・ツェッペリン”のドキュメンタリー映画。ギターのジミー・ペイジ、ベース/キーボードのジョン・ポール・ジョーンズ、ドラムスのジョン・ボーナム、ボーカルのロバート・プラントのインタビューなどによって、1960年代末にイギリスで結成された伝説的なバンドの結成初期を描いていく。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。
監督:バーナード・マクマホン
出演:ジミー・ペイジ、ジョン・ポール・ジョーンズ、ジョン・ボーナム、ロバート・プラント
日本公開:2025年
感想&解説
「ビカミング」の意味としては「〜になる」だが、本作はこの言葉とおりにレッド・ツェッペリンの誕生から初期のキャリアを描く作品であり、彼らの全キャリアを統括するようなドキュメンタリーではない。1969年リリースのデビューアルバム「レッド・ツェッペリン I」でいきなり世界中で旋風を巻き起こし、約12年間の活動の中で残した9枚のアルバムは、今でもロックシーンに多大な影響を与えているが、既存の映画でも印象的に使われているので、バンドのファンではなくても楽曲自体は知っている方も多いだろう。最近でも、ブラッド・ピット主演の「F1/エフワン」では「胸いっぱいの愛を」が冒頭から使われていたし、キャメロン・クロウ監督の「あの頃ペニー・レインと」では「タンジェリン」や「ザッツ・ザ・ウェイ」、デヴィッド・フィンチャー監督の「ドラゴン・タトゥーの女」では、ヤー・ヤー・ヤーズのカレン・Oによる「移民の歌」のカバーが印象的だった。
そんなレッド・ツェッペリンの起源をたどる本作では、1980年に32歳で亡くなったドラマーのジョン・ボーナムによる音声をはじめ、メンバーであるジミー・ペイジ、ジョン・ポール・ジョーンズ、ロバート・プラントがそれぞれ登場し、インタビュー形式でバンドの初期の歴史を語っている。初のバンド公認ドキュメンタリーだそうだが、そういう意味でもツェッペリンの”良い部分”だけを切り取った作品であり、今でも伝説となっている”グルーピー”との乱痴気騒ぎやスキャンダル、そしてバンド解散の理由となった、ジョン・ボーナムのアルコールによる事故死などは完全にオミットされている。というのも、デビュー当初のレッドツェッペリンと言えば、ホテルの部屋からテレビを放り投げたりなど、(もちろん誇張もあるだろうが)ドラッグ&アルコールによってのクレイジーな行動の数々が、ロック史の功績と同じくらいに大きく爪痕を残しているからだ。
ちなみに「あの頃ペニー・レインと」は、キャメロン・クロウ監督が”大物バンド”のツアーに同行した当時の経験に基づいて制作した半自伝的な作品だが、この作品における”スティルウォーター”という架空のバンドは、かなりの部分でレッド・ツェッペリンをモチーフにしていると言われている。ちなみに劇中での「オレは輝ける神だ!」というセリフの元ネタは、ロバート・プラントがホテルのテラスから叫ぶところを、当時「ローリングストーン」誌の記者だったキャメロン・クロウが、実際に耳にしたからだと伝えられている。とにかく当時の彼らは60~70年代のロックスターらしい滅茶苦茶な生活だったようだが、その辺りは本作ではほぼ触れられていないし、メンバーのプライベートな部分もほとんど伏せられている。そういう意味で完全に音楽だけに焦点を絞ったドキュメンタリーなので、本作はどちらかといえば全くレッド・ツェッペリンを知らない人に向けてではなく、逆に解散までどんなキャリアを積んできたのかを知っている、”ファン向け”の作品だと感じる。
ただし完全に音楽にフォーカスしている分、通常のドキュメンタリー作品のように演奏シーンは1フレーズや1コーラスだけの使用ではなく、ほぼ1曲まるごと使われており、とても見応えがあるものになっている。また序盤はバンド結成までのメンバーの生い立ちから影響を受けたミュージシャンの紹介があり、これも面白い。ジェームズ・ブラウンやサム・クックといったアーティスト名と共に、ジミー・ペイジやジョン・ポール・ジョーンズが凄腕のスタジオミュージシャンだったことが語られていく。ジミー・ペイジはエリック・クラプトンが抜けたあとの「ヤードバーズ」に参加を頼まれるが、それを断ってジェフ・ベックを紹介するものの、結局はバンドに加入することで、ツイン・ギター体制になる。ところがジェフ・ベックが抜けてジミー・ペイジがバンドの中心的な存在になるが、ボーカルがドラッグの影響で脱退し、彼は「ニュー・ヤードバーズ」を構想する。その際にメンバーとして集まってきたのが、ロバート・プラントやジョン・ボーナムだ。
彼らの類まれな音楽センスとジミー・ペイジのサウンドプロデュース能力が組み合わさり、既存のブルース基調のサウンドからハードロック、ブラックミュージック、サイケデリック、インドミュージック、フォークといった要素を取り込んで、発展を遂げていったバンドがレッド・ツェッペリンだ。スタジオ・ミュージシャン時代にジミー・ペイジがレコーディングに参加した中には、ザ・フーやキンクスなども含まれていたらしい。またスタジオミュージシャンとして売れっ子だったジョン・ポール・ジョーンズが、この新しいバンドに参加してみようと思ったのは、妻の勧めがあったからなどのエピソードも面白い。また「レッド・ツェッペリン」というバンド名は、ザ・フーのキース・ムーンが命名したとのことだが、アメリカツアーのライブを経て彼らは爆発的な人気を誇っていく。ただメディアからの反応は散々だったらしく、そのあたりは本作で少しだけ触れられている。
そして彼らの人気を決定づける「レッド・ツェッペリンⅡ」が1969年にリリースされ、ゴールドディスクを獲得した上に全米チャートでも、ビートルズの「アビイ・ロード」を抜いて7週連続1位という快挙を成し遂げる。デビューからそのまま、下降線を辿らずに売れ続けた奇跡のバンドだと言えるだろう。それにしても「レッド・ツェッペリン ビカミング」を観ていると、彼らが改めて天才集団だったことが解る。ソングライティングの才能はもちろんだが、それよりも”ライブ・アーティスト”としての秀逸さは目を見張る。特にロバート・プラントのロックボーカリストとしてのとんでもない声量と表現力、ジョン・ボーナムのパワフルすぎるドラムには劇場でなんども度肝を抜かれた。またジョン・ボーナムへのメンバーからのリスペクトもすごく、特にベーシストであるジョン・ポール・ジョーンズのボーナムへの愛は微笑ましいが、リズム隊ならではかもしれない。ジョン・ボーナムのメンバーへのコメント肉声を聞きながら映画は幕を閉じるが、非常にハッピーな終わり方だと感じる。
「グッド・タイムズ・バッド・タイムズ」「幻惑されて」「コミュニケイション・ブレイクダウン」「胸いっぱいの愛を」「ハートブレイカー」「ランブル・オン」「ブリング・イット・オン・ホーム」など、とにかく初期の楽曲のライブが目いっぱい楽しめるのが本作の価値だろう。1970年1月9日のロイヤル・アルバート・ホールでのライブまでが描かれるが、この後もツェッペリンは「Ⅲ」、そして「ROCK AND ROLL」や「STAIRWAY TO HEVEN(天国への階段)」が収録された歴史的な名盤の「Ⅳ」、2枚組の大作「フィジカル・グラフィティ」、「アキレス最後の戦い」が収録された事実上のラストアルバムである「プレゼンス」をリリースし、1980年9月にジョン・ボーナムをアルコール過剰摂取による窒息死で亡くしたあと、同年12月に解散声明を発表するという経緯を辿っていく。劇場の大画面と大音量でレッド・ツェッペリンのパフォーマンスを観られるのは嬉しいし、IMAXでの上映もあるため、これだけでも価値のある作品だったと思う。ただレッド・ツェッペリンのキャリアのピークはここからなので、できればこの続きも製作してほしいと切に願ってしまうような作品だった。
7.0点(10点満点)