映画「THE MUMMY ザ・マミー 棺の中の少女」を観た。

監督は「死霊のはらわた ライジング」で世界的に評価されたリー・クローニンで、原題は「Lee Cronin’s The Mummy」。エジプトの代表的な歴史的都市伝説ともいえるミイラの呪いを題材に描くミステリーホラー。製作にはジェームズ・ワン、ジェイソン・ブラムが名を連ねているので、ホラー映画としては一定のクオリティが保障されている布陣だろう。出演は「デトロイト」「ミッドサマー」のジャック・レイナー、「ヴィクトリア」「ライフ・イットセルフ 未来に続く物語」のライア・コスタ、MCUドラマ「ムーンナイト」のメイ・キャラマウィ、「イマジナリー」のベロニカ・ファルコンなど。レーティングは「R15+」だ。今回もネタバレありで感想を書きたい。
監督:リー・クローニン
出演:ジャック・レイナー、ライア・コスタ、メイ・キャラマウィ、ナタリー・グレイス、ベロニカ・ファルコン
日本公開:2026年
あらすじ
エジプトに駐在中のジャーナリスト一家の8歳の少女ケイティが、ある日突然姿を消した。家族は懸命に少女の行方を捜すが、非協力的な警察組織や言葉や文化の壁に阻まれ、異国の地での捜索は困難を極める。家族が失意の中で帰国してから8年の時が過ぎ、少女が発見されたとの知らせが入る。娘との再会を喜ぶはずだった家族が目にしたのは、あまりにも変わり果ててしまったケイティの姿だった。彼女の8年ぶりの帰宅をきっかけに、家族の周辺で不穏な出来事が次々と起こり始める。
感想&解説
近年、ギレルモ・デル・トロ監督の「フランケンシュタイン」やロバート・エガース監督の「ノスフェラトゥ」が公開後に高い評価を受け、モンスター映画熱が再び高まっているのかもしれない。本作は”THE MUMMY”ということで”ミイラ”映画だが、古くは1930年代のユニバーサル作品「ミイラ再生」から始まり、ハマー・フィルム・プロダクション製作クリストファー・リー出演の1959年公開「ミイラの幽霊」や、マイケル・カレラス監督の1964年「怪奇ミイラ男」など古典も多い。またマミーのヒット作という意味では、1999年の「ハムナプトラ/失われた砂漠の都」に始まる3部作があるが、これはホラー映画ではなくアクションアドベンチャーとして生まれ変わっていたし、ユニバーサル・ピクチャーズによるダーク・ユニバース構想の第一弾として、トム・クルーズを主演に迎えた「ミイラ再生」のリブート作品2017年公開「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」という作品もあったが、これも娯楽エンタメ映画として生まれ変わっており結果はご存じの通りだ。
そういう意味で”本当に怖いミイラ映画はまだ存在しないのではないか?”というのが、リー・クローニン監督による本作制作のモチベーションだったようだが、ここに「死霊館」シリーズや「ゲット・アウト」を手掛けてきたジェームズ・ワンとジェイソン・ブラムがプロデューサーとして加わり、”ガチホラー”として生まれたのが本作「THE MUMMY ザ・マミー 棺の中の少女」だ。リー・クローニン監督の前作「死霊のはらわた ライジング」は、サム・ライミとブルース・キャンベルが制作総指揮に名を連ねているように「死霊のはらわた」の正式続編であり、とにかくグロ描写が満載で血の量も半端ない、シリーズの良さを受け継いだ傑作ホラーだったと思う。また子供に対しても容赦ない描写が多く、このあたりは本作にも受け継がれている。
「棺の中の少女」はミイラ映画らしく、エジプトのシーンから幕を開ける。父親が音楽に合わせて歌うと後部座席の3人の子どもたちもそれに応えるという楽しい車内だが、運転中の母親は”頭が痛くなる”と音を消してしまう。家に帰ると飼っていた小鳥が死んでおり娘は悲しむが、母親はその鳥を手で握りつぶししてしまう。家族の家の敷地の地下には石棺と黒いピラミッドが存在しており、棺の蓋を開けると中にはミイラがいるが、突然そのミイラが動き出すと夫は首にフックが突き刺さり死亡してしまう。シーンが変わり、エジプトのカイロに駐在中のジャーナリストのチャーリー・キャノンと妊娠中の妻ラリッサ、そしてケイティとセバスチャンの2人の子どもたちは幸せに暮らしているが、ラリッサの留守中に娘のケイティが女に連れ去られてしまい、警察に届けるも親である自分たちが疑われてしまう。
ここからネタバレになるが、失意に暮れる家族は8年後、アメリカのニューメキシコ州に移住しており、新たに生まれた娘のモードとラリッサの母親カルメンと共に暮らしていた。夫婦はいまだに娘ケイティ失踪の傷が癒えていなかったが、ある日ケイティが見つかったという報告を受ける。飛行機墜落現場の近くにあった、石棺の中から発見されたのだ。だが久しぶりに対面した娘はあまりにも変わり果てており、昔の明るい面影は皆無の上、まったくコミュニケーションが取れない状況だった。そのまま家で看病することを決めた夫婦だったが、その日から家族の周辺では不穏な現象が次々に起こっていく。ケイティは獣のように家の中を徘徊し、その姿に心を痛めていく家族たち。だがケイティの皮膚から剥がれた包帯に文字のようなものを見つけたチャーリーは、カイロ警察のザキ刑事の手を借りながら調査を開始する。しかしケイティの魔の手がカルメンや娘モードにも及び始めるが、ザキ刑事からケイティの身に起こった儀式のVTRを見せられたことで、チャーリーはケイティの身体に入った悪魔と対峙する決意をする。
すでにネット上では多くの方からの指摘があるようだが本作はミイラ映画ではなく、ほとんど「エクソシスト」の最新作のようだ。もともとオリジナルの「ミイラ再生」もミイラが活躍するような作品ではないので、こうなるのも仕方ないのかもしれないが、悪魔に憑りつかれた少女が豹変して大暴れする展開はそのままだし、天井をはい回ったり宙を浮いたりする場面などは過去のエクソシスト映画で何度も見てきたシーンで既視感は強い。さらに悪魔によって家族が苦しめられるというのは、ジェームズ・ワンのプロデュースらしく「死霊館」らしさもあるだろう。さらに少女が口から勢いよく吐いたゲロが床をベタベタのタール状に変色させたり、操られたモードが自分で歯を抜いたと思ったら、カルメンの入れ歯を入れてニマッとしたり、脚をペロペロしたりする悪趣味なギャグは「死霊のはらわた」風味も強く、もはやミイラ映画というよりは過去の”悪魔憑き”映画の集大成のような作品になっている。リー・クローニン監督やプロデューサー陣が好むホラー演出を全部いれたら、”エクソシスト最新作”になってしまったという感じだろうか。
そういう意味では相当に場面ごとの既視感は強く、いろいろな映画で観てきたシーンが頻出するため新鮮味は薄いだろう。だがホラー映画としての映像クオリティはしっかりと高い。画面にまとわりつくような粘着質なゴア描写は、匂いまで伝わってきそうなほどリアルな描写だし、ケイティを演じたナタリー・グレイスの迫真の演技もあって、今作の悪魔憑依の禍々しさは最高峰だと思う。爪切りからの足の皮までベロベロとめくれる場面や、喉の内側からサソリの尻尾が突き抜ける場面などは本作でも白眉のシーンだった。手前と奥の被写体に同時にピントを合わせたスプリット・フォーカスの手法は、ブライアン・デ・パルマ監督の「ミッドナイトクロス」や「キャリー」を思い出したが、本作は撮影が本当に素晴らしい。デイブ・ガーベットという撮影監督らしいが、舞台セットなどの美術やVFXや特殊効果も含めて本作の映像クオリティには妥協を感じないのだ。
こういったホラー映画には珍しく、オチも一件落着でスッキリするのも良い。ケイティを救うことを優先し、自分の身体に悪魔を取り込んでしまったチャーリー。そしてそんな彼を救うために、妻ラリッサはザキ刑事と共に元凶となったレイラの母親が収容されている施設を訪れ、チャーリーから彼女に悪魔を憑依しなおす場面で本作は幕を閉じる。ホラー映画のオチは後味の悪い着地で終わることが多いが、本編がかなり緊張感を強いる反動なのか、映画館をスッキリとした気持ちで出れるこのオチは、本作ではマッチしていると思う。ただ恐らく、リー・クローニンの過去作にはないハッピーエンド展開なので、これはプロデューサー陣の判断なのだろう。序盤の”いかにも伏線ですよ”と出てくるモールス信号がやはり伏線だったりと、脚本においては小難しいことは一切ない万人受けするホラー映画だったと思う。上映時間は135分とやや長い印象だが、映像だけでも楽しめるガチホラーの佳作であった。
6.5点(10点満点)