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映画「28年後... 白骨の神殿」ネタバレ考察&解説 まるでケルソン医師の選曲によるUKロックミュージカル!シリーズの逆張りが楽しい異色作!

映画「28年後... 白骨の神殿」を観た。

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ダニー・ボイル監督と脚本家アレックス・ガーランドのタッグによって2002年から始まったサバイバルホラーの第1作「28日後...」から、続編2008年公開「28週後…」を経て18年ぶりに公開された3作目「28年後...」の直接的な続編。新たな三部作の2作目に当たるらしい。監督は「キャンディマン」「マーベルズ」のニア・ダコスタが務めた。出演は前回スパイク役のアルフィー・ウィリアムズ、「グランド・ブダペスト・ホテル」「キングスマン ファースト・エージェント」のレイフ・ファインズ、「罪人たち」「フェラーリ」のジャック・オコンネルらなど、多くのキャストが前作から続投している。脚本は引き続きアレックス・ガーランドが執筆し、ダニー・ボイルはプロデューサーとして参画している。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:ニア・ダコスタ
出演:アルフィー・ウィリアムズ、レイフ・ファインズ、ジャック・オコンネル、チ・ルイス=パリー
日本公開:2026年

 

あらすじ

28年前、人間を凶暴化させるウイルスがロンドンで流出してパンデミックを引き起こし、多くの死者を出した。海を隔てた孤島という環境のためウイルスの蔓延を免れたホーリーアイランドで生まれ育った少年スパイクは、本土で生き延びたドクター・ケルソンと出会い、そして病気の母親を看取った。その後、ウイルスに覆われたイギリス本土で生きる道を選んだスパイクは、感染者に襲われかけたところを、ジミー・クリスタル率いる全員金髪の暴力的なカルト集団「ジミーズ」に救われる。しかし、彼を待っていたのは救済ではなく、救いのない世界で味わうさらなる絶望だった。

 

 

感想&解説

2025年公開の前作「28年後...」はダニー・ボイル監督&アレックス・ガーランド脚本という、1作目「28日後」の布陣に戻って制作された18年ぶりの続編だったが、本作「白骨の神殿」はその直接的な続編にあたる。前作が完全に途中で終わっていたので、前作の鑑賞はマストの映画だが、その価値はあるだろう。シリーズを通して、生存者の敵となるのは「ゾンビ(死者の蘇り)」ではなく、”レイジ・ウイルス”という生者を狂暴化させるウィルスによって変貌した感染者であり、彼らに全力疾走で追いかけられるのがお約束のシリーズになっている。人間を凶暴化させるレイジ・ウイルスが大都会ロンドンで流出し、多くの死者を出した恐怖のパンデミックから28年後、生き延びるために海を隔てた小さな孤島に逃れた人々を描いた前作は、少年の”通過儀礼”をテーマにした作品だった。

ここから前作「28年後...」のネタバレになるが、尊敬していた父親ジェイミーと安全な孤島を出て本土に渡り、一度は戻ってこれたスパイクだが、父親ジェイミーの不貞を目撃してしまったことから、今度は母親と二人で母の病を治せるケルソン医師を探しに、本土に足を踏み入れるという展開だった前作。病気の母親アイラを保護しながら冒険を続けるスパイクは、旅を通して”男”になっていく。そしてケルソン医師という新たな父親から「メメント・モリ(死を忘れるな)」と”死”を学んだことから母親の死を乗り越え、彼は実の父親ジェイミーと決裂し、再び本島に戻っていくまでのストーリーだったが、今作「白骨の神殿」でキーとなるのはジミー・クリスタル率いる暴力的なカルト集団”ジミーズ”だ。ジミーズは幼い頃にテレビで観ていた「テレタビーズ」そっくりの衣装に身を包んでいることからも、子供のような存在だ。さらにリーダーは母親と妹が殺されたにも関わらず、それを顧みずに「審判の日だ!」と言って殺された父親を恨み、彼が信仰していたキリストに対しての反発から”逆さ十字”を下げて悪魔崇拝している男で、”ジミーズ”を率いて恐怖で支配している。

 

この続編は彼と大人として成長したスパイクとの対決になると想像していたのだが、実際にはまったく違い、なんと冒頭でジミーズのメンバーとの対決で勝利したスパイクは自ら金髪のカツラを被って、彼らの一員になるという展開となる。不条理に占拠された家族が生きたまま皮を剥がれるという拷問に遭っても、彼はそれを見て見ぬフリをして助けようとはしないし、家族の中で唯一逃げることに成功した娘に対して自分も連れていってくれと懇願するが、逆に返り討ちに遭ってしまう。前作で危険を顧みずに母親を助けようと旅に出て、さらに感染者の赤ん坊をホリー島まで届けた、勇敢で成長したスパイクの姿はどこにもない。この続編ではスパイクは主人公ではなくなっているのだ。では本作の主人公は誰か?と言えば、これは間違いなくレイフ・ファインズ演じる”ドクター・ケルソン”だろう。ケルソン医師は、前作でも登場したアルファと呼ばれる感染者の”サムソン”と親交を深めていく。モルヒネによって狂暴性が抑えられた状態のサムソンに、ケルソンは自分が危害を加える存在ではないことを訴えることで、彼らの距離は近づいていくのだ。

 

 

ケルソンがサムソンの真横で自らモルヒネを打ち、寝そべるシーンは、このままサムソンに殺されるかもしれないと思いつつも、彼の回復に懸けたのだろう。五体満足で目が覚めたケルソンは「偉いぞ」と呟き、ダンスを踊る。今回のケルソン医師は音楽が好きだという新設定が加わり、それがラストの展開に活かされていくのだが、特に1980年代に活躍したデュラン・デュランがお気に入りらしい。登場シーンから遺体を運びつつ、デュラン・デュランを口ずさんでいるし、自室でレコードをかけ壁に貼った過去の写真を見るシーンでも、彼らの1981年リリースの初期シングルである、「Girls On Film(邦題:グラビアの美少女)」が使われていた。その他にもサムソンと手を取りながら踊るシーンでは、ジョン・カーニー監督の「シング・ストリート 未来へのうた」でも使われていた「RIO」がかかっていたし、嬉しい場面では「Ordinary World」も使われていたことから、ケルソン医師にとってデュラン・デュランは心が躍るアーティストなのだろう。かと思えば自室で薬の調合をしているシーンでは、レディオヘッドの「Everything in Its Right Place」がかかり、彼はイギリスのアーティストの名盤を愛聴している事が分かる。

 

今作はケルソン医師の選曲による、ほとんどロックミュージカル映画だったと思うが、その中でも白眉のシーンは終盤における、白骨の神殿で踊り狂う”あの場面”だろう。ここから本作のネタバレになるが、覇王だと思い近づいたケルソンと対面したジミー・クリスタルは、彼の事を信用し、かつて体験した恐ろしい出来事のすべてを話す。その上でジミーズの前で覇王になり切ってくれと彼を脅すことで、ケルソンとジミー・クリスタルは手を組み、あの”狂乱のショー”が始まる。ここで使われるのは、イングランドで最も有名なヘヴィメタル・バンドである、アイアン・メイデンによる1982年リリースのアルバム「魔力の刻印」に収録された表題曲「The Number Of The Beast」だ。中世ヨーロッパの拷問器具がバンド名の由来からわかるように、ダークで陰鬱、そして耽美な様式美の世界観を持ったバンドだが、この曲に乗せてケルソンとジミーズたちは踊り狂う。こういう奇妙なシーンがあるだけで本作の事は嫌いにはなれないが、この場面からも過去の「28週後」シリーズから大きく差別化しようとするニア・ダコスタ監督の意図が汲み取れる。

 

とにかく、本作はシリーズとして”逆張り”な作品だろう。前述のスパイクは悪役と行動を共にすることで主人公らしさを失い、ホリー島に残っているはずの父親や赤ん坊のことはまったく描かれず、前作では最大の敵だったサムソンはケルソン医師と手を取りダンスする。いわば「28年後...」から続くシリーズの続編として観たかった展開はまったく描かれず、終始”これじゃない感”が付きまとうので賛否両論あるのは当然だ。また、感染者目線では人間がモンスターに見えるという描写があったが、感染者はウィルスに冒されながらも実は”精神病”にかかっていて、身体は強靭なままに精神状態だけを治す手段があることが描かれ、これも今までのシリーズを覆す展開となる。人間と感染者のハイブリッドであるサムソンの存在は、次回作のキーパーソンになるのだろう。ちなみに、ジミーズに家族を殺された妊娠した女性も逃げたままで、あれから結局どうなったか?は描かれない。

 

そしてラストには、ウワサ通りにキリアン・マーフィー演じるジムが登場する。彼の娘であるサムは肌の色からも、1作目でジムと行動を共にしていたセレーナとの娘なのだろう。ジムとサムが感染者に追われているスパイクとジミーズの一員だったケリーを助けることを決意したシーンで本作は幕を閉じるのだが、本当に次回作でシリーズに終止符を打てるのだろうかと心配になってしまう位に、すべて中途半端に次作へと丸投げされている。ジムとサムが今までどうやって生きてきたのか?ケルソン医師が死んだ状態で、どうやって感染者を治すのか?スパイクの父親ジェイミーとの関係は?ホリー島に預けた感染者の赤ん坊はサムソンの子どもなのだろうが、今はどうしているのか?など、最終章で描かれるべきエピソードが大量にあるからだ。エンドクレジットでかかる曲はシリーズのテーマ曲でもある、ジョン・マーフィ作曲の「In the House ? In a Heartbeat」だったが、本作は特にシリーズ異色作だったと感じる。個人的に「白骨の神殿」は、シリーズ逆張り作品としては楽しめたが、次作の監督はまたダニー・ボイル監督に戻って、しっかりとシリーズ全体を着地させてほしいと思う。

 

 

6.0点(10点満点)