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映画「箱の中の羊」ネタバレ考察&解説  想定外の方向に進んでいく近未来SF設定のヒューマンドラマ!ただその着地には不満もあり!

映画「箱の中の羊」を観た。

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「そして父になる」「怪物」「万引き家族」などで世界から評価されてきた是枝裕和監督が、亡き息子の姿をしたヒューマノイドを迎え入れた夫婦の葛藤をオリジナル脚本で描いた長編映画。2026年第79回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。出演は「人はなぜラブレターを書くのか」「リボルバー・リリー」「レジェンド&バタフライ」の綾瀬はるか、役者初挑戦のお笑いコンビ「千鳥」の大悟、子役にはオーディションで200人以上の中から選ばれた桒木里夢、「キングダム」シリーズや「耳をすませば」の清野菜名、「心が叫びたがってるんだ。」の寛一郎、「悪人」「RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ」の余貴美子、「無限の住人」「PERFECT DAYS」の田中泯など。今回もネタバレありで感想を書きたい。

 

監督:是枝裕和
出演:綾瀬はるか、大悟、桒木里夢、清野菜名、寛一郎、余貴美子
日本公開:2026年

 

あらすじ

少し先の未来。建築家の甲本音々とその夫で工務店の2代目社長を務める健介は、2年前に亡くした息子・翔の姿をしたヒューマノイドを迎え入れることになる。ヒューマノイドが到着した日、翔と同じ笑顔と声をした彼を音々が喜んで迎える一方で、健介は戸惑いを隠しきれず硬い表情を浮かべる。家族の時間は少しずつ動き出すが、やがて予期せぬ事態が起こり、夫婦が息子の死に対してそれぞれ抱えていた想いがあらわになっていく。そんな中、ヒューマノイドの翔はひそかにヒューマノイドの仲間たちとつながりはじめる。

 

 

感想&解説

「そして父になる」「怪物」「万引き家族」などで世界から評価されてきた是枝裕和監督が、亡き息子の姿をしたヒューマノイドを迎え入れた夫婦の葛藤をオリジナル脚本で描いた長編映画。2026年第79回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品されており、過去作でも「そして父になる」では審査員賞、「万引き家族」では最高賞パルム・ドール、「怪物」でも脚本賞とクィア・パルム賞と高い評価を受けていた。ところがアメリカのエンタテインメント誌「ヴァラエティ」では、上映後のスタンディングオベーションは短く、”星取り表”でも4段階で平均1.4点と12作品中最下位だったことを報じており、この厳しい評価がSNSでも話題になっていたのは記憶に新しい。

ただ鑑賞してみると、さすがの是枝作品という感じで高いクオリティは保たれていると感じるし、綾瀬はるかと大悟の違和感のある夫婦役がとてもハマっていた。”甲本音々”は感情的になると方言が出る広島出身という設定だったが、実際に綾瀬はるかは広島出身だし、大悟も岡山出身ということでルックスだけ見ると正反対に見える二人だが、根幹的なところで繋がっている夫婦にちゃんと見えるのはキャスティングの妙だろう。特に大悟の達者な演技には驚かされた。ただ本作が賛否両論なのは正直、”頷ける”と感じたが、それはこの映画の着地が”リスクを取らない結末”だと感じたからだ。ここからネタバレになる。

 

映画冒頭で”そう、遠くない未来”と表示され、ドローンで荷物を郵送している日常が描写されるのだが、ほとんど現代と景色は変わらないのに、この描写があるだけで近未来に見えてしまうという巧いオープニングから幕を開ける。そして音々と健介の夫婦は2年前に息子の翔を亡くしており、音々の要望で「RE birth」という会社で作られたヒューマノイドを迎え入れることになる。息子が帰ってきたと溺愛する音々に対して、自分は父親じゃないから”おじさん”と呼べとヒューマノイドに言う健介だが、息子と同じく江ノ電の駅名を暗唱する彼を見て、思わず息子を思い出し感情を揺さぶられてしまう。そして息子の翔は、単なる事故死ではなく誘拐事件に巻き込まれたことも示唆されていく。

 

 

音々の母と妹が突然家を訪れるシーンで、音々は母親に怒りをぶちまける。2年前も突然やってきた母親のせいで自分が迎えに行けなかった事、そしてそのせいで息子が帰ってこなくなってしまったと八つ当たりしているのだ。さらに「母親を辞めたい」とつい口走ってしまった事も心に影を落としている。また代わりに迎えに行くことになった健介もパチンコのせいで迎えの時間に遅れてしまい、誰かに誘拐されたのだと思い込んでいる。彼ら夫婦はずっと自分たちの行動を悔いているのである。そんな中で物語は、この夫婦が息子の代わりとしてやってきたヒューマノイドに対して、どう接していきながらどう感情を変化させていくのか?そして息子の失踪の原因は結局何だったのか?を描いていくのかと思いきや、まったく違う路線に進行していく。目の前にいるヒューマノイドは実の息子である翔とは違う存在だが、それでも共に暮らす決断をした夫婦だったが、ヒューマノイドの翔はもっと違う未来を見ていたという話になるのだ。

 

建築家である音々の「木とガラスという全く違う素材をどうやって組み合わせるのか、それを考えるのが面白い」「いきなり結論に行くだけではなく、悩みながら進んでいきたい」という言葉があるが、これは人間とヒューマノイドにおける未来の関係性を示唆したセリフなのだと思う。公園で突然声をかけられた少年によってGPSを外された翔は、実の子供が出来たことで捨てられたり、暴力を振るわれたヒューマノイドの子供たちとコミュニティを形成していく。ちなみにグループの中に人間の子供も混じっているが、彼は親のDVを見かねてこの少年が誘拐してきたのだろう。テレビニュースで放送されていた”少年誘拐”は、このリーダー格の少年の犯行なのだろうと推察する。”木は死んでも生きている”という言葉は、命を持たないはずのヒューマノイドにも通じており、彼らは意志を持って自分たちだけで暮らす新天地を目指して行動しているのだ。

 

タイトルの「箱の中の羊」とは、サン=テグジュペリの小説「星の王子さま」に出てくるエピソードだ。不時着した飛行士が出会った金髪の王子様に”羊の絵を書いてくれ”と依頼されたが、どう書いても満足してくれないために箱の絵を書いて、”君の欲しがっている羊はこの中にいるよ”と渡したところ、”こういうのが欲しかったんだ”と満足してくれたという話であり、本作のテーマに直結している。箱の中身は視えないが、それは送った側の気持ちと受け取った側の想像力によって如何様にも変化し、ヒューマノイドという”製造された身体”=”箱”に入っているが、子供同士の遊びでわざと負けたり、木の声が聴ける、感情や魂を持った翔たちの事でもあり、逆に”身体”を持ちながらも心の中身は視えない音々たち人間の事でもあると思う。音々は「”箱の中の羊”は自分の方だった」と最後に気付き、映画はエンディングを迎える。

 

ただ、ヒューマノイドが広島の山奥で自立して暮らすことを、建築家と土建屋の夫婦が手助けして送り出すというラストは、人間とヒューマノイドとの共存と多様性を描いているように見えるが、実のところこの映画の中では何も解決していないし、描かれていない。まだまだこれからもヒューマノイドは大量生産されて、捨てられていくのだろう。だからといってヒューマノイドを魂を持った存在として描く本作は、安易に彼らのような存在を増産することを問題提議している訳でもないし、その倫理的の葛藤を描いてもいない。ヒューマノイドが人間よりも優れた存在だからこそ、これから人間はどう行動すべきか?というディストピアSF的な展開でもなく、単に映画として口当たりのよい甘い着地に見えてしまったのだ。「RE birth」でヒューマノイドの翔を修理している時に、GPSを抜かれている事に気付くシーンがあったが、もっと人間側の葛藤も見たかったのが正直なところだ。SF的な設定を借りながらあくまでヒューマンドラマとして、薄くそのSF設定を使ったという印象で、是枝裕和作品としてはやや物足りない一作だったと感じる。

 

 

6.0点(10点満点)