「ミュージアム」を観た。
小栗旬主演の邦画サスペンススリラーという事で、予告編を観た時にこれは好みのタイプの作品だと、思わず鑑賞。甘かった。原作は「週刊ヤングマガジン」の漫画作品らしいが、未読。結果、大変にイライラする映画で、終始「あり得ない」展開が連続する。一言で言えば、1995年公開「セブン」の激しい劣化版。個人的に「セブン」は、オールタイムベストTOP10に入る作品なので、よりガッカリ感は強い。「あー、好きなんだろうね、セブン。」というカットの連続で、雨の中の追跡シーン、猟奇的な殺害現場のシーンなどそのまま過ぎて笑ってしまう。というか舞台は本当に日本かっていう位に毎日毎日、土砂降りなのが気になったが、本家セブンもそうだったからフォロワーとしては仕方ないのだろう。あとは小栗くんの額のガーゼとか、懐中電灯の持ち方とか、様々な影響は感じるが、もうちょっと作品の質自体を「セブン」に近づけて欲しかったと思う。今回はもネタバレ全開で!
監督:大友啓史
公開:2016年
あらすじ
雨の日にだけ発生する猟奇殺人事件。その殺害方法は残虐極まりなく、犯人の異常性に世間は震撼する。現場にはメモが残されており、「ドッグフードの刑」「母の痛みを知りましょうの刑」など殺害方法に関連したメモが残されていた。
優秀な警視庁捜査一課の沢村久志(小栗旬)は捜査を進めるが、被害者が数年前に起こった「幼女樹脂詰め事件」の関係者(裁判員・裁判官)であるという共通性が判る。事件の容疑者はすでに自殺していたが、沢村の妻もその裁判の裁判員であった事から、妻子の身に危険が迫っている事を知り狼狽する。個人的な感情が入るという理由で、捜査から外された沢村だが、独自のルートで手段をいとわない情報収集を敢行していく。
独自の捜査を進める沢村は、やがて犯人である「カエル男」にたどり着く。そして「樹脂詰め殺人」が本当はカエル男の犯行であり、誤認逮捕で自らの殺人が他人の仕業だと認識されたことに怒りを覚え、自らをアーティストだと名乗り、一連の猟奇殺人を行っていることが判明する。だが追跡の結果、カエル男をとらえることができず妻と子供は拉致され、無断で捜査を行なった結果、後輩刑事をカエル男に殺されるという失態を犯してしまう。更に、その間も他の裁判員たちが次々と殺さていき、事件は混迷を極めていく。
警察本部から責任を追及された沢村は、護送中に逃走し、更に独りきりでの捜査に乗り出す。日光の下でのカエル男の肌を掻く仕草から、犯人が重度の「日光アレルギー」を抱えている「霧島早苗」という男だと突き止めた沢村は、霧島の待つ屋敷へと向かう。果たして、人質に捉えられている妻と子供を救えるのだろうか?
感想&解説
とにかくツッコミどころが多い。演出的にも微妙で例えば、下記のシーン。
小栗くんと後輩刑事が食堂で食事している場面。小栗くんの斜め前に座っている客に、セルフサービスの水を注いでもらっている時に、人差し指に絆創膏の貼ってある事がこれでもかと提示される。更にそれを小栗くんがちゃんと目で追い認識しているシーンの後、後輩刑事に犯人は指を負傷している可能性がある事を熱弁し出した時に、この映画に対し嫌な予感がよぎり出す。
しかも急に思い出したかの様に、怪我している客を追って外に走り出すが、案の定逃げられるというお約束の展開。普通、後輩にケガの件を話してる最中にフラッシュバックでさっきの指に絆創膏が貼ってあるシーンが初めて提示され、小栗くんが「ハッと」気付く演出の方が効果的だろう。今の演出だと明らかに、小栗君より観客の方が先に絆創膏に注目するような演出の為、能天気に後輩と喋っている小栗くんが馬鹿に見えるし、気付くタイミングが不自然過ぎる。そもそも、あんなに目立つスキンヘッドの犯人の顔を見てないのだろうか?
その他、とにかく気になったシーンを羅列していきたい。カーチェイスシーンで、あれだけ派手に公道でチェイスして、刑事に車種もナンバーも認識されてて、しかも車は横転、犯人はあれだけ小栗くんをいたぶってる時間をくれてるのに、警察は何をやってるのだろう?その後も、検問とかでは捕まらないのだろうか?あと、あのトラックはどこから持って来たのだろう?
後輩刑事がビルから落とされた後、すぐそこにカエル男が居るのに、なぜ小栗くんはしゃがみこんで追っかけないのか?あとあのマスクはあれだけ目立つのに、一般市民はシカトしてるのは何故?後輩刑事は手足縛られて、ネクタイ引っ張られてただけだから、銃で脅されてるとはいえ、自分で後ろに体重かけてなければ落ちなくて済むのでは?さらにあの追跡の最中に、どこで刑事を拘束して縛ったりする時間があったのか?小栗くんを護送する時に、刑事が3人もいるのにまんまと逃げられるが、あれはギャグなのだろうか?あまりに警察が無能過ぎる。
小栗くんの逃走中、警察は探す気あるのだろうか?彼はタクシーに乗って漫画喫茶に行ったり、ゆっくりと病院巡りをしているけど、警察は顔も名前も職業も全てが解ってるだから、もう少しマジメに追っかけたらどうだろう。警察、新犯人の名前も判明して居場所も解ってるのに、全然現場に踏み込まないのは何故?逮捕した凶悪犯の入院している病室に、犯人の仲間である人間をボディチェックやガード無しに入れるなど、論外だろう。ましてや、注射器を持っているのだ。
映画を観ている最中、ツッコミどころだらけで本当にうんざりしてくる。特に警察の無能描写が酷い。小栗くんは常にギャアギャアと大騒ぎする演技の一辺倒でうるさい事この上ないし、暴力的過ぎて頭が良さそうな感じがしないので、知恵で犯人を追い詰めたり、謎を解いていく感じがない。犯人の動機も、何か裁判員制度に対して問題提議とかメッセージがあるのかと思えば、1,000,000回過去の映画で観尽くしてきた「自己顕示欲のエゴ」だけで新鮮味も全くないし、「僕は表現者なんだ」のくだりでは、既視感がありすぎて思わず笑ってしまった。
劇中、一か所だけ予想を上回るシーンとして、小栗くんが屋敷の部屋に監禁されて、犯人から支給されるハンバーガーと部屋から出るために作ったパズルから現れるパスワードの「EAT」の文字、抜け出した部屋の外にある妻子の生首から、「これはまさかハンニバルやグリーン・インフェルノ的な展開なのか?」と期待するが、その直後に無事な2人が映るので、これも意味のないミスリードだと判明する。生首のダミーまで用意した犯人の意図がよくわからないし、映画としてもすぐに妻子の無事を観客に教えてしまっては、そのショック効果も半減だろう。ラストシーンの息子の為に嫁を撃つ撃たないのやり取りも、想像通りの展開で結局カエル男を撃つという芸の無さだ。
あと、本当のラストカットで小栗夫妻の息子が、犯人と同じく日光アレルギーである事が示されるが、母親の反応から息子がカエル男の子供である可能性はゼロなので、これも意味がわからない。犯人の悪意と狂気は伝播していくという事だろうか?だとすると、小栗くんが命を懸けて守った息子と、両親が惨殺されたカエル男はイコールの存在となり、この映画で唯一のメッセージである「家族のかけがえなさ」すら否定してしまう事になる。恐らく、何か最後にちょっと後味を悪くしてやろうという位の意味しかないのだろうが、こういう意味深なカットはもう少し考えて入れた方が良いと思う。
とにかく(もちろん別の作品なので)比べても仕方ないとは分かっていつつも、全体を通してデビッド・フィンチャー監督「セブン」の足元にも及ばない作品で、サスペンススリラーとしては残念としか言いようがない。こういったサスペンススリラーは、矛盾や無理を感じると、それがノイズになってしまい作品の世界に没入できない。この作品は、そのノイズがあまりに大き過ぎる様に感じる。映画としてのビジュアルは、殺害現場などかなり頑張っていると思うので、脚本をもう少し何とかして欲しかった。もっとも、これは原作のせいかもしれないが。
採点:1.0(10点満点)