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映画「哭声/コクソン」ネタバレ感想&解説 「チェイサー」のナ・ホンジンが再び放った大傑作!

哭声/コクソン」を観た。

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あの稀代の名作である2008年「チェイサー」と、2010年「哀しき獣」の監督である、ナ・ホンジンの第3作目である。ちなみに「チェイサー」「哀しき獣」は、本当に面白い作品なので未見の方は是非。本作「哭声/コクソン」だが、本国である韓国では記録的な大ヒットになったらしく、様々な映画賞を獲得している。観た感想としては、「やはりナ・ホンジン監督は天才だった」という一言に尽きる。

 

監督:ナ・ホンジン

出演:ファン・ジョンミン、チョン・ウヒ、國村隼

日本公開:2017年

 

あらすじ

舞台は韓国の、ある平和な田舎の村。そこに得体の知れない日本人のよそ者がやってくる。彼がいつ、そしてなぜこの村に来たのかは誰も知らない。そんな時、村人が自分の家族を残虐に殺すというおぞましい事件が多発していく。そして必ず殺人を犯した村人は、濁った眼に湿疹で爛れた肌をして、言葉を発することもできないという不可解な状態で現場に残されていた。村人たちは、事件が起こったのが日本人が村に訪れたのと同じタイミングだった為、彼が原因ではと疑い出す。この事件を担当する村の警官ジョングは、ある日、自分の娘にも殺人犯たちと同じ湿疹があることに気付く。ジョングは娘に何かしたのかと日本人の家に向かい追い詰めるが、村では更なる殺人が起こり、混乱の渦となっていく。そして事件は、想像出来なかった結末へと走り出していく。

 

 

感想&解説

過去のどんな映画とも似ていない映画だと思う。ジャンル分けすら難しい。これだけ世の中に、色々な映画が溢れているのに、このオリジナリティは素晴らしい。舞台は現代の韓国で、独特の薄暗くて汚れた片田舎の村で起こる猟奇殺人事件が映画の発端なのだが、映画の冒頭から殺人事件が始まる為に、サスペンスだと思いながら観ていると、突如まったく違う方向にストーリーが進み出す。ゾンビもののジャンルムービーに行ったかと思えば、いわゆる「エクソシスト」や「ローズマリーの赤ちゃん」的なオカルトホラー路線にも進行していく。この時点で、観客はこの映画がどの様な終着点に到達するのかは、全く予測出来ないだろう。

 

いわゆる脚本が上手いといった作品では決して無い。ただ、映画を観始めたら、スクリーンから迸るエネルギッシュなパワーにひたすら飲み込まれて、最後まで画面を凝視する事になる。ストーリー的には、随所にミスリードが配置されていて、二転三転を繰り返しながら観客を翻弄する。ある意味では、ズルいと思えるくらいのミスリードの配置なので、初見でオチまで読めてしまう方はまずいないだろう。

 

だが、この作品の本当の面白さは映画が終わった後にある。いわゆるオカルトホラーとしての納得感はあるし、後味は良くはないが十分に面白い映画を観たという充実感もある。いったん作品としてのオチは着くのだが、今観た作品の結末は「観た通りに解釈して本当に良かったのか?」という疑問が湧く作りになっているのである。それは日本人俳優の國村隼がラストシーンで語る、「わたしが何者か、わたしがいくら言ったところで、お前の考えは変わらないだろう。」というセリフと、ラストの「悪魔の姿」を見ているのが教会で助祭をしているイサムであること、「幻覚キノコ」という劇中の存在、そして國村隼の手のひらにある「聖痕」などがポイントである。この映画のキャッチコピーは「疑え。惑わされるな。」であるが、本当に画面通りに「日本人=悪魔」を、そのまま信じて良いのか?を巧妙に監督が揺さぶって来るのである。そして、実際の真相はその真逆であろう。観る者の心理によって、その姿は変化するのである。

 

 

ナ・ホンジン監督は、厳格なキリスト教徒らしいが、ある意味で今作は「信仰と疑惑」「他者への排他と受容」「天使と悪魔」をテーマにした映画だと思う。本作での日本人は得体の知れない疑惑の対象であり、暴力へのトリガーであり、畏怖の対象なのである。色々な意味で観終わった後に、心乱されることは間違いないが、これは本作が素晴らしい作品である事の証拠だ。韓国映画の新しい傑作として、映画ファンは必見だろう。こういった傑作が、もっと全国のシネコンで普通に観れる様になると良いし、その需要は十分にあると思うのだが、こんなに公開館数が少ない現状は残念だ。スルーするにはもったいない作品だと思うので、オススメしたい。

採点:9.0(10点満点)