映画「エイペックス・プレデター」を観た。

イドリス・エルバが主演した「ビースト」や、本木雅弘や中村雅俊が出演した「TOUCH タッチ」を監督したバルタザール・コルマウクルの新作が、Netflix独占で配信された。原題は「Apex」だが、邦題は「エイペックス・プレデター」というタイトルになっている。出演は「マッドマックス 怒りのデス・ロード」「アトミック・ブロンド」「オールド・ガード」などのシャーリーズ・セロン、「セキュリティ・チェック」「ロケットマン」「キングスマン ゴールデン・サークル」などのタロン・エガートン、「ブラックホーク・ダウン」「トロイ」「ミュンヘン」などのエリック・バナなど。今回もネタバレありで感想を書きたい。
監督:バルタザール・コルマウクル
出演:シャーリーズ・セロン、タロン・エガートン、エリック・バナ
日本公開:2026年
あらすじ
深い悲しみを抱えながら、オーストラリアの大自然の中で自分の限界に挑む女性サーシャ。孤独な冒険を続けるなか、彼女を獲物のように狙う猟奇的な殺人鬼ベンとのゆがんだゲームに巻き込まれていく。
感想&解説
「オールド・ガード」のシャーリーズ・セロン、「セキュリティ・チェック」のタロン・エガートン、「大地の傷跡」のエリック・バナは各々Netflix作品で成果を残してきた俳優陣であり、その豪華キャストを迎えて作られたNetflix独占のサバイバル・アクションが、本作「エイペックス・プレデター」だ。監督はアフリカのサバンナを舞台に、一家の父親であるイドリス・エルバが凶暴なライオンに襲われた家族をひたすら守るという大味アクションの、2022年日本公開「ビースト」が有名なバルタザール・コルマウクル。原題は「Apex」だけだが、邦題は「エイペックス・プレデター(頂点捕食者)」ということで、あの「プレデター」の新作だと勘違いした方も多いようだ。
映画の冒頭でシャーリーズ・セロン演じるサーシャは、ノルウェーにある”トロールの壁”にエリック・バナ演じる夫のトミーと挑戦している。あまりに険しい岩壁の前に、トミーは下山を提案するがサーシャは踏破しようと頑張るが、天候が悪化したことで事故が起きトミーは亡くなってしまう。ここからネタバレになるが、その5ヶ月後、失意の中でオーストラリアを旅しているサーシャはワンダラ国立公園に到着するが、その事務所で“行方不明事件”が続発している事を知る。さらに途中で寄ったガソリンスタンド兼売店ではハンターにからまれるが、無視を決め込むことでやり過ごし、そこでベンという男と遭遇したことで、道を教えてもらう。だが教えてもらった穴場スポットへと向かうが、またもやハンターたちが来て絡まれるサーシャ。
翌日、サーシャはカヌーの急流下りを楽しみ、その後にテントを張って森の中で休むが、目を覚ますとなんと自分の荷物が盗まれていることに気づく。だが売店で会ったベンと再会できたことで、彼に衣服を借りて食事を提供されるが、突然サーシャがハンターたちに絡まれている現場にいたことを告げると、突然ベンの態度は急変する。サーシャの荷物を盗んだのもベンであり、突然ボウガンを持ち出したかと思ったら、曲がかかっている間に逃げろといい、人間狩りを始めると宣言する。その後、大自然を舞台にした逃走劇が始まるが、遂には確保されてしまうサーシャ。捕らえたサーシャに対してこれは”儀式”だと言い、ベンは洞窟の奥に彼女を連れていくとそこには、ベンが捉えて殺して食べた多くの死体がぶら下がっている。どうやら母親も殺して食べたらしいことを告げるベンの耳を噛み、なんとか脱出し反撃するサーシャは彼の足を折るが、腕の自由を奪われており、このままではお互いに死ぬので協力して崖を乗り越えようと提案する。そして命を懸けた最後のクライムが始まる。
ベンがサーシャが逃げるためのカウントダウンで使用する楽曲は、ケミカル・ブラザーズの「Go」だ。およそ3分40秒の楽曲なので、かなり短い時間での逃走を余儀なくされるのだが、本作はいわゆる”マンハント(人間狩り)”ものであり、タロン・エガートン演じる狂人がシャーリーズ・セロンをひたすらに追いかけて殺そうとするという内容になっている。コーネル・ワイルド監督「裸のジャングル」やメル・ギブソン監督「アポカリプト」など、これ自体はかなり手垢の付いたジャンルだと思うが、現地人から理屈に合わない因縁を吹っ掛けられたことで、事態がどんどんと悪化していく展開はジョン・ブアマン監督「脱出」だし、川下りをしながら犯罪者に追い掛け回されるという展開はカーティス・ハンソン監督の「激流」を強く彷彿とさせる。このあたりは確実に、作り手の中でもインスパイア元になっている作品だろう。
序盤の男性ハンターたちの嫌がらせシーンには、観ていて悪寒が走る。夫を亡くしたばかりのサーシャは心身ともに非常に強い女性だと描かれるが、それでも彼らを過度に刺激しないように配慮しつつ、なんとかその場をやり過ごしていく姿が描かれるが、この映画における男たちの無遠慮な言動には、女性が恐怖を感じるに十分な圧力があり、このあたりは特に「脱出」を思い出させるシーンになっている。そして、その後に始まるベンとの攻防戦だが、これだけ広大な山場の中から何故あれだけ正確にベンがサーシャの元にたどり着けるのか?が謎ではあるが、催涙スプレーをかけてもサーシャを捕えようと向かってくる本作のベンという存在は、歪んだ”男性”性の象徴だ。だからこそ、全てが終わったあとに車に乗せて助けてくれるのは、”女性ドライバー”なのだろう。
冒頭で自分を制止してくれたにも関わらず、それを振り切ったことによって愛夫を亡くした主人公が、再び”危険な道”を選ぶことによってベンと出会い、そこで生死を懸けた追いかけっこをするという展開からも、ベンはサーシャにとって越えるべき壁だと描かれている。自分の命を守るために夫トミーのロープを離したことに、彼女はいまだに後悔と”あれで良かったのか?”という疑問を持ち続けて生きている。よって最後は、狂敵ベンと高い崖を登ることになり、彼を突き落とし殺すことで彼女は頂上にたどり着き、それらを乗り越える。だからこそ最後のシーンは、トミーの形見であるコンパスを海に捨てる場面であり、彼女がようやく夫の死を乗り越えたことが示されるのだろう。
狂人ベンは歯を鋭くとがらせる為に削っているが、彼は”儀式”という言葉を何度も使う。オーストラリアの先住民は成年式のときに削歯を行うらしいが、あれはベンにとって大人になった証なのかもしれない。愛していた母親を食べたというカニバリズムも証言していたが、これも食べることによって敬意や愛情を示すといった文化的な儀礼があり、彼は儀式として人を殺していたようだ。ただ、それらをビーフジャーキーにして売っているのは明らかに狂人のなせる業だと思う。なぜかサーシャの首を絞めている時にその手を止めるようなシーンもあったが、あれも母親が関係していて、母親を殺すときに首を絞めて殺したためにそれが思わずフラッシュバックしたのかもしれないが、ベンについては断片的にしか描かれていない為、単なる狂人キャラクターに留まってしまっているのは勿体なかった。上映時間95分と観やすい作品だし、役者陣は好演していたので退屈はしないが、どうしても過去作の寄せ集め感が強い凡庸な作品だったと思う。
5.5点(10点満点)