「来る」を観た。
「嫌われ松子の一生」「告白」の中島哲也監督の新作が、前作「渇き。」以来4年ぶりに公開となった。原作は澤村伊智著で、2015年の日本ホラー小説大賞の大賞受賞作「ぼぎわんが、来る」。主演は、オカルトライター役の岡田准一、イクメンを理想とする父親役として妻夫木聡、謎の凄腕霊媒師役として松たか子など、そうそうたる役者陣が共演している。企画/プロデュースは、「君の名は。」を大ヒットに導いた川村元気。PG12作品。原作は未読のため映画だけを観た感想となるが、ネタバレ全開なのでご注意を。
監督:中島哲也
日本公開:2018年
あらすじ
恋人の香奈との結婚式を終え、幸せな新婚生活を送る田原秀樹(妻夫木聡)の会社に謎の来訪者が現れ、取り次いだ後輩に「知紗さんの件で」との伝言を残していく。知紗とは妊娠した妻香奈(黒木華)との間にできた娘の為に決めたばかりの名前で、来訪者がその名を知っていたことに、秀樹は戦慄を覚える。そして来訪者が誰かわからぬまま、取り次いだ後輩が謎の死を遂げるが、それから2年、秀樹の周囲で不可解な出来事が次々と起こる。不安になった秀樹は知り合ったオカルトライター(岡田准一)から強い霊感を持つ真琴(小松菜奈)を紹介してもらうが、真琴は秀樹の周りから得体の知れぬ強大な力を感じる。そのあまりの邪悪な力に真琴だけでは歯が立たず、さらに強力な霊媒師である真琴の姉、琴子が遂に動き始める。
感想&解説
中島哲也監督の作品は、どれも評価の賛否が分かれる気がする。なんというか、非常に派手なデコレーションに彩られた世界観の中で、現実から浮遊したようなキャラクターが会話し活劇しているという感じで、そこにリアルな実在感のようなものは薄い。だが、それ故のポップさや毒々しさが魅力で、エンターテイメント作品として一定の満足感は得られるという作風だろう。個人的には決して熱心なファンとは言えず、「告白」や「渇き。」などはあまり感心しなかったクチだ。では、本作「来る」はどうだったかと言えば、やはり「いつも通りの中島作品だった」という感想になってしまう。
正直、予告編を観た段階ではかなり期待度は高く、中島哲也の「本気ホラー」が観れるのかと楽しみにしていたのだが、蓋を開けてみればこれはホラーではなく、「ホラー風味」のエンタメ作品であったという感じだろう。まず前提、本作は怖くない。もちろん、血は大量に噴き出すし、人体欠損描写もある。だが、観客が恐怖を感じる演出になっておらず、ガラスの向こうから血の付いた手形がビシャーと跡を残すとか、部屋の中の物がガタガタ揺れるとか同じような見せ方が多く、そもそも何を怖がればいいのかが良く分からない映画になっている。「来る!」とか言いながら、部屋の物がガタガタしたと思ったら、次のショットでは腕が千切れていたり、身体が半分になっていたりするだけで、あまりに「引っ張り」と「タメ」が足りない。よって全然怖くないのである。
思うに、中島哲也監督はあまりホラー映画に興味がないのではないだろうか。子供が憑依されるシーンは「エクソシスト」そのままだし、真っ赤な血が大量にマンションから溢れるシーンは「シャイニング」からのインスパイアだろうが、それがどうにも焼き直し以上にはなっておらず、もっと怖いシーンを作ってやるという気概を感じないのだ。黒沢清監督「回路」や、三池崇史監督の「オーディション」のように、画面から監督の熱意が伝わって来ない。確かに、表面上は取り繕っていても一皮剥けば人間など悪意の塊だという表現は、完璧なイクメンを目指しているが本質的には家族を顧みないで、うわべだけが全ての秀樹や、そんな夫を早く死ねばいいのにと思っている妻の香奈、そして秀樹の親友を装っているが彼の妻を奪う事に執心する津田など、キャラクター設定の嫌さと役者の演技でなんとか伝わってくるが、それがホラー映画の面白さや怖さに直結してこないのだ。
ただラストシーンにおける、松たか子演じる祈祷師が一計を講じる、大規模なお祓い儀式が醸すバカバカしさと、岡田准一たちと「見えない何か」とのドタバタぶり、そしてシュール過ぎる「オムライスの歌」の流れは、ある意味で中島哲也の真骨頂であり、毒っ気のある演出として楽しめたのは間違いない。やはりこういう演出をさせると、この人は上手いのである。
高校生くらいのカップルが初めてのデートで観るホラー風味作品としては良いかなぁとも思ったが、意外と子供を巡るDVや中絶などの重いテーマも出てくるので推奨しづらいし、ホラー映画ファンには物足りない出来なので、結果としては中島哲也監督ファンにのみにしかオススメ出来ない作品となってしまっている。ただ、ストーリー展開の意外性はあるので、観ている間退屈はしないが。ホラー映画としての怖さを純粋に求めるなら、現在公開中の「ヘレディタリー/継承」が断然オススメだ。
採点:6.0(10点満点)
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