「フォードvsフェラーリ」を観た。
「3時10分、決断のとき」のジェームズ・マンゴールド監督が放つ、1966年のル・マン24時間レースをめぐる実話を映画化した伝記ドラマ作品。主演はマット・デイモンとクリスチャン・ベイルという贅沢なキャスティングである。ジェームズ・マンゴールドの非常に手堅い演出が光る傑作であった。今回もネタバレありで。
監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:マット・デイモン、クリスチャン・ベイル、ジョン・バーンサル
日本公開:2020年
あらすじ
カーレース界でフェラーリが圧倒的な力を持っていた1966年、エンジニアのキャロル・シェルビー(マット・デイモン)はフォード・モーター社からル・マンでの勝利を命じられる。敵を圧倒する新車開発に励む彼は、型破りなイギリス人レーサー、ケン・マイルズ(クリスチャン・ベイル)に目をつける。時間も資金も限られた中、二人はフェラーリに勝利するため力を合わせて試練を乗り越えていく。
感想&解説
個人的には、カーレースには全く興味がない為、観るまでは楽しめるかどうかが微妙な気持ちだったが、結論、車に興味がない人でも充分に満足できる、素晴らしい作品だった。「ロッキー」がボクシングに興味がなくても楽しめるのに似ていて、映画のテーマがル・マン24時間耐久レースというだけで、本当に制作者たちが描きたいのは(陳腐な表現なのは重々承知のうえだが)、結局は「人間」なのだと思う。
一度はドライバーとしての夢を絶たれたマット・デイモン演じるキャロル・シェルビーが、天才ドライバーであるクリスチャン・ベイル演じるケン・マイルズと、時に反目しあいながらも固い友情で結ばれ、フォード陣営としてル・マンで優勝する事を目指すストーリーなのだが、正直タイトル通りに「フォード」と「フェラーリ」が、会社のプライドをかけて戦うという展開の映画ではない。フォード社の中で行われる社内政治と戦う二人という側面が大変に強く、いわゆる自動車の開発力やドライバーのリクルーティングといった、自動車業界の裏側的な要素を期待すると、肩透かしを食うだろう。
まず、ジョシュ・ルーカス演じるフォード副社長がケン・マイルズを目の敵にして、ことごとく行く手を遮るのがベタな展開だが腹が立つ。これは、この作品を通してキャロル・シェルビーとケン・マイルズという、自らの仕事に情熱とプライドを持った、カッコいい男たちに完全に感情移入させられているからこその気持ちだろう。それから、もう一人忘れられないのは、ケン・マイルズの奥さんであるモリー・マイルズだ。演じるのは、元モデルのカトリーナ・バルフ。とにかく、このキャラクターが素晴らしい。完全に人生のパートナーとして、夫に寄り添い激励し、時には甘えさせて、苦難を一緒に歩んでいく。特に自分が出場出来なかったル・マンのレースを、深夜の職場でこっそりラジオで聴いているケンに夜食を持って現れるシーンは、あまりにロマンチックなシーンでウットリしてしまった。
全編にわたる、カーレースシーンの迫力はCGに極力頼らない実写の迫力に溢れていて、過去の名作レースアクションと比べても、頭ひとつ抜き出てた出来だと思う。特に雨の中での攻防戦は、本当に目の前でレースを観ているように手に汗握る。ル・マンという耐久戦ならではのチームワークや頭脳戦も描かれていて面白いし、終盤のケンがチームメイトに対して取る利他的な行動にも、彼の成長が描かれていて素直に感動させられる。とにかく映画としての演出レベルが高いので、ほとんど間伸びするシーンがないのだ。ジェームズ・マンゴールド監督の手腕には感服である。
友情物語としても優れたクオリティを見せる本作は、第92回アカデミー作品賞にもノミネートされているが、それも納得の名作であった。今年は競合が強すぎるため、恐らく作品賞受賞はないだろうが、それでもこの映画の価値は変わらない。このマット・デイモンとクリスチャン・ベイルの共演作は、古き良きエンターテインメント作品の風格を持った、稀に見る傑作だったと思う。
採点:8.0(10点満点)