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映画「ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件」ネタバレ考察&解説 キャラクターの描き込み不足や終盤の失速ぶりは残念だが、トニー・レオンの怪演と80年代香港の雰囲気が堪能できる作品!

映画「ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件」を観た。

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監督/脚本を「インファナル・アフェア」3部作の脚本を手がけたフェリックス・チョンが務め、巨額の金融詐欺事件を描いたサスペンス。香港で興行ランキング5週連続1位、香港・中国本土の最終興行収入が130億円越えの大ヒットを記録、さらに第42回「香港電影金像奨」では12部門にノミネートされ、トニー・レオンの「主演男優賞」など6部門を受賞している。「インファナル・アフェア」シリーズ以来、トニー・レオンアンディ・ラウがおよそ20年ぶりに共演した事でも話題の作品で、それぞれ詐欺師と捜査官を演じているのも、「インファナル・アフェア」を想起させる。その他の出演者としては、「借金取りとマネージャー」シャーリーン・チョイ、「エレクション 黒社会」「エグザイル 絆」のサイモン・ヤム、「九龍猟奇殺人事件」のマイケル・ニンなど。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。


監督:フェリックス・チョン

出演:トニー・レオンアンディ・ラウ、シャーリーン・チョイ、サイモン・ヤム、マイケル・ニン

日本公開:2025年

 

あらすじ

イギリスによる植民地支配の終焉が近づいた1980年代の香港。海外でビジネスに失敗し、身ひとつで香港にやってきた野心家のチン・ヤッインは、悪質な違法取引を通じて香港に足場を築く。チンは80年代株式市場ブームの波に乗り、無一文から資産100億ドルの嘉文世紀グループを立ち上げ、一躍時代の寵児となる。そんなチンの陰謀に狙いを定めた汚職対策独立委員会(ICAC)のエリート捜査官ラウ・カイユンは、15年間の時間をかけ、粘り強くチンの捜査を進めていた。

   

感想&解説

トニー・レオンアンディ・ラウ共演作のアンドリュー・ラウアラン・マック監督による香港ノワールインファナル・アフェア3部作」は、潜入捜査官としてマフィアで活動する男と、逆にマフィアから警察に潜入している男の物語で、設定の面白さと共にそれぞれの葛藤と苦悩を描いた傑作シリーズだったと思う。「1」がもっともシンプルで面白かったが、「2」も前日譚としてキャラクターを深堀りした「ゴッドファーザー」スタイルが上手くいっていたし、一作目のその後を描いた「3」もかなりトリッキーな構成の作品ではあったものの、”完結編”として興味深い一本だったと思う。2006年にはマーティン・スコセッシ監督により「ディパーテッド」としてハリウッドリメイクされ、その年のアカデミー作品賞を受賞した事からも、”作品の強度”はお墨付きと言えるだろう。トニー・レオンアンディ・ラウそれぞれの出演作としても代表的なシリーズだと思う。

そんなトニー・レオンアンディ・ラウによる約20年ぶりの共演作が、本作「ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件」だ。1980年代の香港バブル経済時代を舞台にした巨額の金融詐欺事件を描いており、実際に当時の香港を騒がせた大手企業「佳寧集団」をめぐる汚職詐欺事件が本作のモデルになっている。映画としても香港・中国本土では興行的にも成功しており、総製作費は70億円らしいが、すでに興行収益は本国だけで130億円越えしているので十分に成功作と言えるだろう。さらに「インファナル・アフェア」での警察官と犯罪者役を今作では逆転させており、詐欺師役をトニー・レオン/捜査官役をアンディ・ラウが演じているのも、作り手からの意図を感じる。香港映画界でこの二人の共演というのはそれだけで大きな話題なのだろうし、このキャスティングは日本でもプロモーションの柱になっているからだ。


物語としては、イギリスによる植民地支配の終焉が近づく香港。まだ何者でもない建築家のチン・ヤッインは、借金まみれの人生から抜け出すために単身で英国植民地下の香港に入国する。だが無一文から悪質な不動産投機の違法取引で足場を築き、80年代の株式市場ブームの波に乗った彼は徐々に大きな財を築いていく。その頃、香港の汚職捜査機関ICACの捜査官ラウ・カイユンはチンに目をつけ、捜査を実行する。だがそんなラウの捜査も空しく、チン・ヤッインは巨額の資産を築いていき「嘉文世紀グループ」を立ち上げ、資産100億ドルを達成することで一躍時代の寵児となっていく。だがそんなチン・ヤッインにも中国への香港返還に伴う経済への不安から株価が大暴落した事によって、陥落の足音が近づいてきていた、という内容だ。

   


とにかくトニー・レオンが魅力的な映画だ。ここからネタバレになるが、本作の彼は完全な悪役だがインサイダー取引き、違法リベート、恐喝、賄賂、遂には殺人といった悪事の数々によってのし上がっていくキャラクターを嬉々として演じており、そんな彼の周りにはハゲタカのように金融ビジネスマンが群がってくる。証券取引所では手書きで株価がホワイトボードに記入され、自社株の金額が吊り上がっていくことに数字が書き換えられていくのだが、なぜかそれを観ている観客のテンションも上がっていく。このチン・ヤッインというキャラは、マーティン・スコセッシ監督の「ウルフ・オブ・ウォールストリート」における株式ブローカー”ジョーダン・ベルフォート”を思い出させるが、それが極に達するのが、「CAN'T TAKE MY EYES OFF YOU(君の瞳に恋してる)」をBGMに、証券取引所で胴上げされるように持ち上げられる、”最盛期”の場面だろう。ここで使われているのは、ボーイズ・タウン・ギャングが1981年に発表したアレンジバージョンで、この80年代香港の浮かれ切った雰囲気がこの選曲によってよく表現されている。会議室にダンサーが乱入する場面なども含めて、彼の登場シーンにはバカバカしいほどの”躁感”があるのだ。


一方で、アンディ・ラウ演じるのはICACの捜査官ラウ・カイユンで、家庭を大事にするファミリーマンでありつつ、社会の秩序を守ろうとする堅実な男を演じている。仕事のせいでまったく自宅に帰ってこないラウ・カイユンに奥さんは不服だが、それになんとか折り合いをつけようと食事に誘うシーンなどは泣けるし、そんな家族が殺し屋によって命の危険に晒されることで、ラウの闘志に火が付く展開は共感できる。ただ冒頭で描かれるが、1970年代以前の香港では警察官の汚職が蔓延しており、ICACはそれを取り締まる組織なので警察と対立しているという設定は思ったほど活きてこないし、中盤にチン・ヤッインに賄賂で買収されそうになり心が動くシーンが一か所だけあったが、この場面以外のアンディ・ラウ演じる”ラウ・カイユン”はキャラクターがブレずに、常に真っ当な捜査官なのでやや面白みに欠ける。トニー・レオンが演じたキャラクターに対して、圧倒的に地味で映画のライバルとして釣り合っていないのだ。


他にもチン・ヤッインがあれほど金があるにも関わらず、最終的に”何がやりたい人物”なのか?が良く分からず、ラストの法廷劇もかなり足早で風呂敷を畳みにくるので、”尻すぼみ感”は強い。更にチン・ヤッインが裁判官すら買収していて手が出せないという”一枚上手”感の方を強く演出しているので、15年もの歳月チンを追い続けたラウが遂に勝ったという最後のカタルシスも薄い。海外に逃亡しているが、チンの報復を恐れるあまり香港に帰ることを拒否していた証言者をどうやって口説いたのか?のシーンもオミットされているし、結末的に彼は逮捕されるのだが結局は殺人に関与していた証拠がないため、3年の実刑判決に留まる事もあり、トニー・レオン役の印象だけが強い作品になっている気がする。実話ベースとはいえ、この着地はもっと映画的に飛躍させても良かったのではないだろうか。またシャーリーン・チョイ演じる”チュン・カーマン”という女性も、ヤム・チュンに強く愛されているが、本心ではチン・ヤッインに惹かれ続けているという表現も最後まで中途半端で活きてこない。ほとんど唯一の女性キャラの割には、描き込みが足りておらず映像化のケレンが足りないという印象だ。


そしてエンドクレジットで再びかかるのは、「CAN'T TAKE MY EYES OFF YOU(君の瞳に恋してる)」だ。「あまりにも素敵すぎる君から/目が離せない/一度触れたなら天にも昇る気持ち/君を抱きしめたい(中略)/愛している/できることならば/ここに来て/孤独な夜を暖めて/嘘じゃない/どうか僕を信じて」と歌うこの曲は本来ラブソングだが、映画を観終わって聞くと、まるでこの映画の中で”圧倒的なヴィラン”であるチン・ヤッインを演じたトニー・レオンに向けた曲のように感じる。有力者のパーティーで渡した自分の名刺が何枚も床に捨てられていてそれらを拾うシーンから、巨万の富を得て遂には逮捕されるまで、一貫してチン・ヤッインの生きざまを描いた本作。80年代の⾹港の衣装を含めた世界観を再現する試みも素晴らしいし、全体的には面白い映画だが、終盤で失速したのが惜しいと感じた。

   

6.5点(10点満点)