「ミッドウェイ」を観た。
「インデペンデンス・デイ」シリーズのローランド・エメリッヒ監督が、太平洋戦争における「ミッドウェイ海戦」をテーマに、日米実力派キャストで描いた戦争アクション。出演はパトリック・ウィルソン、エド・スクレイン、ウッディ・ハレルソン、デニス・クエイド、アーロン・エッカート、ルーク・エヴァンス、豊川悦司、浅野忠信、國村隼などで、この豪華キャストも本作の大きな魅力だろう。中国資本も入り大規模な予算をかけながらも、メジャースタジオの制作ではなくインディ体制で制作されたという本作。さて、出来はどうであったか?今回もネタバレありで感想を書いていきたい。
監督:ローランド・エメリッヒ
出演:パトリック・ウィルソン、ウッディ・ハレルソン、豊川悦司、浅野忠信
日本公開:2020年
あらすじ
1941年12月7日、日本軍は戦争の早期終結を狙う連合艦隊司令官・山本五十六の命により、真珠湾のアメリカ艦隊に攻撃を仕掛ける。大打撃を受けたアメリカ海軍は、兵士の士気高揚に長けたチェスター・ニミッツを新たな太平洋艦隊司令長官に任命。日米の攻防が激化する中、本土攻撃の脅威に焦る日本軍は、大戦力を投入した次なる戦いを計画する。真珠湾の反省から情報戦に注力するアメリカ軍は、その目的地をハワイ諸島北西のミッドウェイ島と分析し、全戦力を集中した逆襲に勝負をかける。そしてついに、空中・海上・海中のすべてが戦場となる3日間の壮絶な戦いが幕を開ける。
パンフレットについて
価格820円、表1表4込みで全36p構成。
横型オールカラー。紙質・装丁が良く、更にスチールカットも多いため、全体的にクオリティが高い。さらにキャスト&監督インタビュー、映画評論家の小林真里氏の作品レビュー、大学教授の油井大三郎氏や笠原十九司氏、戦史研究科の白石光氏による「ミッドウェイ海戦」の解説、プロダクションノートなどが掲載されており、パンフレットとしては申し分ないほど、読み応えがある。
感想&解説
ローランド・エメリッヒ監督の新作と聞くと、どうしても観る前から身構えてしまう。それは過去作の「GODZILLA」「デイ・アフター・トゥモロー」「紀元前1万年」「2012」と、その大多数が駄作の連続だったからだ。そして、その決定版が前作2016年「インディペンデンス・デイ:リサージェンス」だろう。この作品の壊滅的な出来からもはっきりしたのだが、このドイツ人監督の映画には今までまるで良い印象がないのである。やはり過去における彼の最高傑作は、良くも悪くも1996年の「インディペンデンス・デイ」なのではないだろうか。派手なVFXの連続でいわゆる「超大作感」はあるのだが、ドラマ演出が無さ過ぎてほとんどキャラクターに感情移入ができない為、映画後半は眠くて仕方が無くなるのが特徴だ。
では、本作「ミッドウェイ」はどうだったかと言えば、ローランド・エメリッヒの過去作の中では1位2位を争う出来だったと思う。若干、後半は冗長だなと感じる部分もあったが、少なくても眠くはならなかった。まず良い部分としては、これはエメリッヒ作品のトレードマークともいえるVFXシーンの数々である。特に冒頭における、日本軍の真珠湾攻撃シーンのクオリティには素直に感動した。炎や煙のエフェクト、パイロット視点の映像による臨場感、機関銃や爆撃の炸裂音など、現代の映画映像の技術がふんだんに楽しめて、これには単純に目を見張る。本作はなるべく大きなスクリーンで鑑賞した方がこの価値は伝わるだろう。特にソフト化された後にタブレットやスマホで観るくらいなら、この映画は逆に観なくても良いと思う。それくらい、このVFX映像にはこの作品の価値が凝縮されている。
次に日本軍側への”ある程度”フェアな視点も良い。もちろん、アメリカ側に比べて日本側の市井の人々の描き込みは圧倒的に少ないし、後半の日本軍側がアメリカ兵に行う残虐行為の描き方など完全にフェアとはもちろん言えないが、限られた上映時間の中で日本軍人としての気骨や生き様を描き、単純な悪役として登場させていないのは本作の良点だと思う。これは日本人キャストの演技が素晴らしかったという事も言える。同じく真珠湾攻撃を描いた、2001年のマイケル・ベイ監督「パール・ハーバー」という愚作における日本軍の描き方から見れば、近年のグローバリズム化に伴った素晴らしい進歩だと言えるだろう。ただその「フェア」という観点だけで観れば、2006年クリント・イーストウッド監督「硫黄島からの手紙」と「父親たちの星条旗」の二作がほぼ完璧な作品だった事は、ここに追記しておきたい。
だが、逆に本作の良かったところは以上の二点だけだとも言える。まずもっともマズイのは、娯楽映画としてぜんぜん面白くないところだ。これは端的に演出と脚本のせいだろう。まずエメリッヒ作品の特徴ともいえるのだが、各キャラクターの内面が全く伝わってこない。葛藤したり悩んだり決断したりといった、いわゆる戦争映画として必要な描写が圧倒的に足りないので、キャラクターの行動を応援したり悲しんだりという感情が、観ていてまったく沸かないのである。また、例えば真珠湾攻撃で打撃を受けたアメリカ側が反撃の為に、爆撃機に爆弾を積んで東京を攻撃するシーン。距離が長い為、東京まで辿り着けるかわからないし、そのまま中国側に避難できるかわからないというせっかく緊迫感が出そうな場面だが、あっという間に東京にたどり着いて爆撃している上に、すぐに中国側にパラシュートで到着したシーンになってしまう。いわゆる盛り上げる「タメ」の演出がなく、事実を「淡々と置いていく」だけの画面が続くのである。
変わり者の天才技術者が日本側の暗号を解読して、日本軍の次の目的地が「ミッドウェイ」だと判明するシーンや、東京爆撃を許した山本五十六の葛藤、飛ぶことに恐怖する親友パイロットをラストの海戦の前に説くシーンなど、映画的に盛り上がりそうな場面はたくさんあるのに、これらが軒並み本当につまらない。これはやはりエメリッヒの興味の本質が「派手なVFX画面を観せること」だけにあるからではないだろうか。その間の会話シーンはあくまでストーリーを進める為だけの「繋ぎ」だと思っているのでは?と思うくらい、戦闘シーン以外には全く魅力がないのである。
また中国に不時着したアーロン・エッカート演じるアメリカ航空軍の軍人が、中国軍ゲリラに捕まるが、日本を爆撃してきたと伝えると即和解し握手するというシーンがあるのだが、これがただでさえ性急な展開なのに、あまつさえ英語が話せる中国人教師にライターをプレゼントするとすぐに仲良くなるという、非常に違和感のあるシーンがある。これは、どうしても中国の出資先を意識している「日和った感」が拭えない場面で失笑が漏れる。これらは確実になくても成立するシーンだからだ。
ローランド・エメリッヒ監督作品として、過去のディザスタームービーのノウハウを活かしたVFXを駆使した画面には強い魅力を感じたし、日米豪華役者陣の演技も良かったのだが、結論としてそれ以外の部分は今までの「エメリッヒ印」が拭えなかったという、やや残念な印象の本作。とはいえ、これだけ大作感のある作品は今の公開作品の中では少ないので、本作「ミッドウェイ」は演出には期待し過ぎず、この「大味感」を分かって楽しむのが良いと思う。
採点:5.5点(10点満点)