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映画「少年の君」ネタバレ感想&解説 ブルーレイ購入確定!中国産青春サスペンスの傑作!

「少年の君」を観た。

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第93回アカデミー賞で国際長編映画賞にノミネートされた、中国産青春サスペンス。監督は「インファナル・アフェア」シリーズのエリック・ツァンの息子で、俳優としても監督としても高く評価されているデレク・ツァン。出演は中国では「13億人の妹」という愛称で親しまれるチョウ・ドンユィと、アイドルグループ「TFBOYS」のイー・ヤンチェンシーなど。中国では初登場から3週連続No.1を経て、最終的には約250億円の大ヒットを記録したらしい。さらに第39回香港電影金像奨で作品賞、監督賞、主演女優賞など8部門を受賞しており、世界中で評価されている作品だ。今回もネタバレありで感想を書きたい。


監督:デレク・ツァン

出演:チョウ・ドンユィ、イー・ヤンチェンシー、イン・ファン

日本公開:2021年

 

あらすじ

進学校に通う高校3年生の少女チェン・ニェンは、大学入試を控え殺伐とした校内で、ひたすら参考書に向かい息を潜めて日々をやり過ごしていた。しかし、同級生がいじめを苦に飛び降り自殺を遂げ、チェン・ニェンが新たないじめの標的になってしまう。彼女の学費のため犯罪まがいの商売をしている母親以外に身寄りはなく、頼る人もいない。そんなある日、下校途中の彼女は集団暴行を受けている少年を目撃し、その少年シャオベイをとっさに救う。優等生と不良という対極的な存在でありながらも、それぞれ孤独を抱える2人は次第に心を通わせていく。

 

感想&解説

日本では2021年7月の公開作品で、都内でもそろそろ劇場での上映が終わってしまうという事で、駆け込みで鑑賞。結論、本作は観ておいて本当に良かった。同級生からいじめを受けている孤独な優等生少女とストリートで生きる不良少年の青春映画という、”よくあるテーマ”の作品という先入観があったが、後半にサスペンス色が付加されている事と、全体の演出が上手くテンポ良い為、グイグイと惹きつけられる。また映画を観ている間、中国が抱える「受験戦争」の過熱ぶりやそれに伴う学校内のいじめ、貧困層の生活の困窮などの「社会問題」が透けてくる作りになっており、メッセージ性が強いうえに猛烈にこちらの思考を促してくる作風になっているのだ。ベルリン国際映画祭でワールドプレミアされる予定が、急遽取りやめになったという状況から「中国政府の検閲にひっかかったのではないか」という憶測もあるようだが、それも納得の内容だ。

主人公は母親と二人暮らしの内向的な少女ニェン。彼女は大学に合格して北京に行けば人生を切り開くことができると信じ、懸命に勉強して良い成績を収めていた。だが、ニェンの母親は違法な「フェイスパック」の販売をしており、さらに借金をしているため日々借金取りに怯えていた。全国統一試験まであと数ヶ月となったある日、ニェンと同じ高校の女子生徒が校舎のバルコニーから身を投げ、自殺するという事件が起こる。彼女はウェイ・ライを中心とする3人組の女子生徒から陰湿ないじめを受けていた。いじめの事実を知っていたニェンは彼女の死にショックを受け、他の生徒が事件現場をスマホで写真を撮る中、死体に自分のジャンパーを被せてあげたことからいじめの対象がニェンに移り、いやがらせが始まってしまう。さらにある日、ニェンは道でリンチを受けているシャオベイという少年と出会う。シャオベイはストリートで生きている不良で、最初は彼を警戒するニェンだったが、孤独な境遇からかいつしか多くの時間を過ごすようになる。


突然階段から突き飛ばされたりと、3人の女子生徒によるニェンへのいじめがエスカレートしたため、遂に警察に通報するニェン。その為にウェイ・ライたちは停学処分となるが、その事から更に恨みを買ってしまい、放課後にカッターナイフを持って待ち伏せされたニェンは、シャオベイに通学中のボディーガードを頼む。「お金はないけど、守ってほしい」と自分の身体を捧げる覚悟のニェンに、シャオベイは「ノートに1つ借りだと書いておけ」と言い、無償でボディーガードを引き受ける。その後、シャオベイが母親に関する辛い過去を語ったり、ニェンが「一緒に北京にいこう」と切り出したりしつつ、二人の距離はさらに縮まっていく。そしてシャオベイが守ってくれる事で、ニェンがいじめられる事はなくなっていく。


だが、シャオベイが婦女暴行の容疑者探しの面通しのために、仲間たち数人と警察に連れていかれたタイミングで、ニェンはウェイ・ライたちからまたひどい暴力を受けることになってしまう。髪の毛を切られ服を脱がされ動画を撮られたニェンは、失意のもとに家に戻る。警察から戻ってそれを見たシャオベイは、復讐のために立ち上がるがそれをニェンはなんとか押さえる。そして二人は揃って頭を丸める。ニェンとシャオベイの心はひとつになっていた。そして時間は過ぎ、続く雨の中、ついに全国統一試験が始まる。そしてここからネタバレになるが、連日の雨で土砂崩れが起き、その現場からウェイ・ライの遺体が見つかるという事件が起こるのだ。


ここで映画は大きな展開を見せて、サスペンスへと大きく舵を切っていく。「ニェンとシャオベイのどちらがウェイ・ライを殺したのか?」ということがポイントになってくるのだが、ここからの主人公二人のやり取りには魂が揺さぶられる。シャオベイの深い愛と最後にニェンが遂に取る行動、そして警察の取調室でシャオベイと対峙し、二人がまったく言葉を交わすことなく微笑み合う場面は、カットの切り替えしと役者の演技によって強いエモーションを生み出しており、映画だからこそ感じる感動を生んでいる。このシーンが観れただけでも、この映画を観て良かったと思えたほどだ。そして、彼らを追う刑事の行動が報われた瞬間でもあり、観客もこの着地で良かったと心の底から思える名ラストだった。刑事の「眠いので眠ってきます」というセリフも上手い伏線になっており、脚本も見事だ。


ニェンを演じたチョウ・ドンユィは29歳らしいが、まるで高校生にしか見えない。もちろん童顔のせいもあるが、思春期独特の不安定さが上手く表現できているからだろうし、この役柄のために、頭をほぼ坊主にするなど女優として体を張っているのも素晴らしい。あえて表情を殺したような淡々とした演技の中で、突然感情が溢れたように涙を流す姿は、演技を越えた特別な才能を強く感じる。本作の成功には、このチョウ・ドンユィが大きく貢献しているのは間違いないだろう。また相手を演じたイー・ヤンチェンシーは、若干20歳のアイドルグループのメンバーらしいが彼も初映画主演作とは思えない演技で、この難しい野性味あふれる汚れ役を完璧にコントロールしていた。やはり広い中国のエンタメ界で勝ち上がってくるには、相当の才能が必要なのだろうと、この二人を見ていると感じてしまう。


循環構造のようにラストシーンは、大人になり教師となったニェンが生徒たちの前で、英語を教えている冒頭の場面に戻ってくる。過去を表現する「was」と「used to be」の違いを説明している教師のニェンは、例文を繰り返しながら授業中にうつむき続けている少女に注目している。最初にこのシーンを観たときには、なぜこの教師は彼女を観ているのか?が解らなかった観客も、ここでは”全く同じシーンにも関わらず”それが痛いほど理解できる。そして教師としてニェンが生徒に寄りそう姿を見て、「過去」から「未来」へ人はこうやって成長していけば良いのだと勇気と感動をもらえるのだ。デレク・ツァン監督は青春期が持つ残酷さと暴力性を延々と描くことで、上映時間を通して登場人物と観客に大きなストレスを与え続けるが、最後の最後で”希望”という大きなカタルシスを与えてくる。この快感を得るために、僕はブルーレイで必ずもう一度この作品を観る事になるだろう。


90年代「恋する惑星」「天使の涙」あたりのウォン・カーウァイ作品のような、懐かしい青春映画のタッチもありつつ、現代作品の表現力とテンポ感覚で描き切った135分は、きっと特別な体験になるだろう。「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」のビー・ガン監督や「薄氷の殺人」「鵞鳥湖の夜」のディアオ・イーナン監督などに並び、デレク・ツァン監督もこれからの中国映画界を引っ張る存在になっていくと思う。劇場公開はそろそろ終わってしまうが、本作「少年の君」は映画ファンであればぜひ観てほしい一作だ。描かれているテーマは重いがおそらく老若男女問わず、鑑賞後の満足度は高い作品になっていると思う。今からソフト化が待ち遠しい。

8.5点(10点満点)