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映画「ビーキーパー」ネタバレ考察&解説 単なる能天気アクションではない、ステイサム映画の力作!アクション映画の”悪役(ヴィラン)”は世相を反映する鏡!主人公(観客)にとって”成敗したい相手”とは誰だったのか?

「ビーキーパー」を観た。

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エンド・オブ・ウォッチ」「サボタージュ」「フューリー」などで骨太のアクション映画監督として名を成したが、その後の2016年度版「スーサイド・スクワッド」で大きくキャリアに傷を付けてしまったデヴィッド・エアー監督による、久しぶりの劇場公開作品。主演は「トランスポーター」「メカニック」「エクスペンダブルズ」「ワイルド・スピード」「MEG ザ・モンスター」など、出演作のほとんどがアクションジャンルという稀有な俳優ジェイソン・ステイサムで、本作「ビーキーパー」ももちろんその例に漏れない。その他の出演者は「センター・オブ・ジ・アース2 神秘の島」「ハンガー・ゲーム」のジョシュ・ハッチャーソン、「戦慄の絆」「ダイ・ハード3」などの名優ジェレミー・アイアンズ、「ブラックライト」のエミー・レイバー=ランプマン、「クリード」シリーズのフィリシア・ラシャドなど。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:デヴィッド・エアー
出演:ジェイソン・ステイサムジョシュ・ハッチャーソンジェレミー・アイアンズ、エミー・レイバー=ランプマン、フィリシア・ラシャド
日本公開:2024年

 

あらすじ

アメリカの片田舎で養蜂家(ビーキーパー)として隠遁生活を送る謎めいた男アダム・クレイ。ある日、彼の恩人である善良な老婦人がフィッシング詐欺に遭って全財産をだまし取られ、絶望のあまり自ら命を絶ってしまう。怒りに燃えるクレイは、社会の害悪を排除するべく立ちあがる。世界最強の秘密組織「ビーキーパー」に所属していた過去を持つ彼は、独自の情報網を駆使して詐欺グループのアジトを突き止め、単身乗り込んだ末にビルごと爆破。その後も怒とうの勢いで事件の黒幕に迫り、事態はFBIやCIA、傭兵部隊や元同業者まで入り乱れる激しい闘争へと発展していく。

 

 

感想&解説

2025年度一発目の作品として、デヴィッド・エアー監督/主演ジェイソン・ステイサムの「ビーキーパー」を鑑賞してきた訳だが、この二人のタッグ作品というのが新鮮ですでに面白い。まずデヴィッド・エアー監督は、2001年の「トレーニング デイ」「U-571」の脚本家を経て、キアヌ・リーブス主演「フェイク シティ ある男のルール」、ジェイク・ギレンホール主演「エンド・オブ・ウォッチ」、アーノルド・シュワルツェネッガー主演「サボタージュ」、ブラッド・ピット主演「フューリー」と非常に作家性の強いアクション映画を作る監督だったので、本作は彼の久しぶりの劇場公開作として楽しみにしていた。むしろ2016年に公開されたが、そのあまりの低評価ぶりに監督としてのキャリアを棒に振った「スーサイド・スクワッド」というアメコミ映画だけが異端だった訳で、デヴィッド・エアージェイソン・ステイサムのタッグ作は個人的に期待値が高かったのである。

一方でジェイソン・ステイサムといえば、とにかくどんな作品に出演しても”無敵キャラ”として敵をバタバタと無双し、まったく危なげなくミッションをクリアしてしまう主人公ばかりを演じている俳優だが、完全に本作もそのキャラクター設定を踏襲していて、正直あまり代わり映えはしなかったのだが、それにしても50歳越えとは思えない身体能力とアクションのキレは健在で、本作の魅力のひとつにはなっていると思う。今回は養蜂家(ビーキーパー)として暮らす元特殊工作員という、訳の分からない設定でありながらもジェイソン歴代作品の中でも屈指の強さで、とにかく巨大な敵を追い詰めていく。本作は世界中で大ヒットしながら高評価を得ているそうだが、個人的にはそれにもちゃんとした理由があると思う。この「ビーキーパー」は単なる能天気なだけのアクション映画ではないのだ。

 

まず映画冒頭、主人公アダム・クレイは養蜂家として生活しており、彼に納屋を貸してくれている老婦人エロイーズは、クレイに対して唯一優しく接してくれるかけがえのない隣人だった事が描かれる。だがそんなエロイーズのPCに警告文が現れたことによって、彼女は怪しげな会社のコールセンターに電話してしまい、結果的に慈善事業の資金などを含む全財産200万ドル以上をフィッシング詐欺によって失ってしまう。そしてそれを苦にしたエロイーズは自殺。娘でFBI捜査官のヴェローナは悲しみ犯人を追うが、クレイはあっと言う間にユナイテッドデータグループ(UDG)という犯罪会社を見つけ出し、そこに乗り込むことによってビルを大爆発させてしまうのだが、ここまでの展開の早いこと早いこと。今回のステイサムは、このフィッシング詐欺組織と戦うことになるのかと思いきや、ここからの”ストーリーの飛躍”が本作でもっとも面白いポイントだろう。

 

 

ここからネタバレになるが、このUDGをまとめていたミッキーという男には更に大ボスのデレクという社長がおり、このデレクはジェレミー・アイアンズ演じる、元CIA長官のウォレスという警備主任がいることが分かってくる。そしてクレイはこのデレクのやっている犯罪会社を潰し、デレク自体も殺す為に動き出す。クレイは元政府の秘密組織”ビーキーパー”の凄腕工作員だったのだ。クレイが動き出したことで焦ったウォレスは、デレクの”母親”に助けを求めることを指示する。そしてデレクの母親とは、なんとアメリカ大統領だったのだ。放蕩息子であるデレクは、ダンフォースエンタープライズというデータマイニングを警備する会社のCEOであり、関連会社UDGと共に詐欺を働くことで、母親である大統領の政治資金を調達していたことが分かるというストーリーだ。バカな一人息子が殺し屋の逆鱗に触れて、周りの大人たちが恐怖に慄くというこの展開は「ジョンウィック」1作目を思い出させる。

 

フィッシング詐欺から世話になった一般市民の復讐を果たした主人公が、最後は現役大統領の息子の悪事まで辿り着く物語なのだが、上映時間105分の展開としては、あまりに荒唐無稽だと言えるだろう。ただ本作の最大の魅力はまさに”ここ”にあると思う。アクション映画にとって”悪役(ヴィラン)”は絶対に必要な存在であると同時に、世相を反映する鏡であり、いわば観客にとって”成敗したい相手”なのだ。それは時代によって共産主義の敵国だったり、中東のテロリストだったり、自国の麻薬組織だったりするのだろうが、ヒーローである主人公と敵対する相手を直接的に「アメリカ大統領(その息子)」にしたアクション映画というのは、今の時代性を強く反映していると感じる。デレクの詐欺会社にいる中間管理職がFBIに踏み込まれた時、「(ここに)ビン・ラディンはいないぜ」というセリフを吐くが、まさに今作の敵は単なるテロリストではなく、”アメリカの国家権力”そのものなのだ。広がり続ける経済格差、留まる事を知らない物価高、信用できない政治家たち。今、特にアメリカの観客にとって憎むべき敵は明確なのである。

 

「群れを守るのが、養蜂家だ」と言いながら、元々”ビーキーパー”という特殊工作のチームの属しながら、自分も養蜂家として生計を立てているという無茶な設定の主人公だが、このアダム・クレイという男の行動原理は、”悪を懲らしめる”という一点のみだ。善悪だけが彼の判断基準であり、シンプルに正義を遂行する主人公は観ていて気持ちが良い。ラストはFBIのヴェローナがクレイが射程圏内に入っているにも関わらず、彼を見逃すという展開になるのだが、これも彼女の”善意”が”職業意識”を上回ったということだと理解した。本作は戦う相手こそ国家権力と強大なのだが、主人公たちはシンプルに勧善懲悪で行動しているが故に、最後には大統領の部屋に乗り込み、しっかりと決着をつける。この展開も小気味良いのだ。彼にとっての”蜂”とは、一般市民であり弱き者の比喩であり、逆に女王蜂は大統領で強き者の比喩だ。そして今回のステイサムは群れを守る”ビーキーパー”として終始怒り、圧倒的な強さで”強きをくじく”のである。これが喝采せずにいられようか。

 

本作のFBIやCIAは無能で、彼らはクレイの後をひたすら追っかけるだけだ。法の名のもとに任務を遂行しようとするヴェローナも結局はクレイの行動を否定できないし、元CIA長官ジェレミー・アイアンズもカッコいい見せ場などない。これも意図的だろう。今回のステイサムは銃を携帯せずに身の回りのものを使って戦闘していくのだが、ガトリング砲で狙われようが、直前まで頭に銃を突きつけられていようが、結局は圧勝してしまう。だが本作はただジェイソン・ステイサムが暴れ回って、架空のモンスターや犯罪組織と戦うだけの作品ではない。フィッシング詐欺に遭い、全財産を奪われたことによって自殺した老女の敵を討つために最後には巨大な国家権力に立ち向かい、完全なる正義によってそれを倒す物語であり、バカな一人息子の頭を撃ち抜かれた大統領の姿に、最後は観客が溜飲を下げる映画だ。そして90年代アメリカ映画の「インディペンデンス・デイ」のビル・プルマンや、「エアフォース・ワン」のハリソン・フォードが演じていた”大統領像”とは大きくかけ離れてしまった事を痛感するのである。無茶苦茶なストーリー展開だが、個人的には正月から痛快な気分で劇場から出られたという意味で、オススメしたい一作だ。

 

 

7.5点(10点満点)