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映画「ロングレッグス」ネタバレ考察&解説 作り手が影響を受けたであろうサブカル要素が満載!”遊び心の少ない”スリラーホラー!

映画「ロングレッグス」を観た。 

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2024年の独立系映画の全米興収NO.1、過去10年における独立系ホラーの全米最高興収と本国では華々しい評価と共に、「この10年でいちばん怖い映画」というコピーで、ハードルを上げまくっているサスペンススリラー「ロングレッグス」がようやく日本公開になった。監督/脚本は「呪われし家に咲く一輪の花」のオズグッド・パーキンスで、次回作のスティーブン・キング原作「The Monkey」も本国では大ヒットしている事もあり、今もっとも注目されている監督の一人だろう。出演は「ドリーム・シナリオ」「マッシブ・タレント」のニコラス・ケイジ、「イット・フォローズ」「インデペンデンス・デイ リサージェンス」のマイカ・モンロー、「ディープ・インパクト」のブレア・アンダーウッド、「88ミニッツ」「フォー・ルームス」のアリシア・ウィット、「ツイスターズ」「レッド・ワン」のキーナン・シプカなど。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:オズグッド・パーキンス
出演:ニコラス・ケイジマイカ・モンロー、ブレア・アンダーウッド、アリシア・ウィット、キーナン・シプカ
日本公開:2025年

 

あらすじ

1990年代のオレゴン州。FBIの新人捜査官リー・ハーカーは、上司から未解決連続殺人事件の捜査を任される。10の事件に共通しているのは、父親が娘を含んだ家族を殺害した末に自殺していること。そしてすべての犯行現場には、暗号を使って記された「ロングレッグス」という署名入りの手紙が残されていた。謎めいた手がかりをもとに、少しずつ事件の真相に近づいていくリーだったが、そこには大きな運命の転換が待ち構えていた。

 

 

感想&解説

2024年の独立系映画の全米興収NO.1、過去10年における独立系ホラーの全米最高興収、VARIETY誌による「2024年ベストホラー第一位」、そして海外メディアのFLICKERING MYTHによる「この10年でいちばん怖い映画」というコピーなど、本国での華々しい評価が聞こえてくるたびに期待値が上がりまくっていた本作。まさかのジョナサン・デミ監督によるアカデミー受賞作である「羊たちの沈黙」と比較するレビューもあったりと、ホラー映画としては久しぶりの大注目作だった気がする。しかも予告では、デヴィッド・フィンチャー監督による傑作「ゾディアック」を思わせるような暗号文や、「セブン」のような猟奇犯罪サスペンスの雰囲気もあり、これは大好きな作品だと期待値MAXで劇場に駆け付けた。

舞台は1990年代のアメリカ・オレゴン州。FBIの女性捜査官リー・ハーカーは卓越した捜査への直感を上司のカーターに買われて、ここ30年間で10の家族が殺された未解決事件の捜査に抜擢される。これらの事件に共通しているのは、どの事件も父親が家族を皆殺しにしてから最後に自殺していること、家族には9歳の娘がいて彼女たちの誕生日は14日であること、事件は娘の誕生日を境に6日間前後に起きていることだった。これだけなら”一家心中”の事件なのだが、常に事件現場には"ロングレッグス"からの暗号付きの手紙が残されていることから、リーはこの”ロングレッグス”の後を追う事になる。そしてリーには情緒が不安定な母親ルースがいるのと、暗号文をすぐに解読できてしまう能力が備わっていた。ここからネタバレになるが、過去の被害者であるカメラ家の唯一の生存者キャリーの家から不思議な人形を見つけ、さらに過去にはリーの家にもロングレッグスが訪れていたことが判明し、母親ルースはロングレッグスと面識があることを知る。そしてルースの家に彼の写真が残されていたことからロングレッグスを逮捕することに成功する。

 

だが何故か彼は、リーに対して個人的に固執していた。取調室にて共犯説を疑うリーは彼に自供させようとするが、あっさりと自決されてしまい事件は暗礁に乗り上げる。そしてロングレッグスと繋がりのあった母親ルースの元にリーは同僚と共に向かうが、ルースはショットガンで同僚を射殺する。彼女はロングレッグスの手に落ちていたのだ。ロングレッグスは悪魔崇拝者で、悪魔の魂を宿した”玉”を入れた人形を作っていたが、この人形が贈られるのは9歳の娘がいる一家であること、そしてこの人形は娘とそっくりな姿に作られていて、その呪いにより父親が家族を殺していたことがルースの言葉によって語られる。ルースは娘リーの命と引き換えに、狙った家族に人形を届けるという役割を担い、ロングレッグスの犯行に手を貸していたのだ。この残酷な真実を知ってしまったリーは、上司であるカーターの家族が狙われていることを知り駆けつけるが、そこにいた母ルースの凶行を止めるため自らの手で母親を殺すことを決意するという物語だ。

 

 

正直、「やや期待値が高すぎた」という感想だろうか。もちろんサスペンススリラーとしては楽しめたし、ストーリーのツイストもある。決してつまらない作品ではないが、やや”生真面目すぎる”、”遊びが少ない”といった印象だ。しっかりと前半からの伏線とキャラクター設定を回収していき、最後には”あるべき姿”に収まっていく。”ロングレッグス”という猟奇殺人者を描いている割には、マイカ・モンロー演じる主人公リー・ハーカーの近くだけで全てが完結してしまい、世界観が広がっていかない。不自然に上司のカーターの家族を紹介される場面が序盤にあるが、これもラストで被害者として回収されるためだけに用意された場面だったし、序盤から頻発する母親との電話や会話も”共犯者”というキーワードが出た段階で先が読めてしまう。タイトルロールを演じるニコラス・ケイジも”いつも通り”熱演しているが、ニコラス・ケイジが演じていることがむしろ逆効果で”正体不明”という感じが薄く、背筋が凍るようなキャラクターにはなっていない気がするのだ。

 

そして本作は多くのサブカルチャーの集積で成り立っているような作品だと思う。まず冒頭から、1971年に発表されたT・レックス「ゲット・イット・オン」の歌詞が引用され、ロングレッグスの部屋には、同じくT・レックスが1972年にリリースした「ザ・スライダー」のジャケットが映り込む。T・レックスのボーカリストであるマーク・ボランが「俺は悪魔に魂を売ったから、30歳までは生きられないだろう」と話していたエピソードは有名で、実際に彼は30歳の誕生日の2週間前に自動車事故によって死んでいる。また同じく部屋に飾られているのは、ルー・リードによる名盤「トランスフォーマー」であり、これも1972年リリースのアルバムだ。本作においてこの1970年初頭というのは重要な年として設定されているようだが、おそらくチャールズ・マンソンの存在が大きいのだろう。マンソンは1971年にシャロン・テート殺人の容疑で有罪判決を受け、1972年に死刑が確定している(その後、死刑制度の廃止により終身刑減刑)。警察署では1990年代では大統領任期中のビル・クリントンの写真がデカデカと飾られていたが、過去の表現は画角が突然4:3になったりと、過去と現在(1990年代)を行ったり来たりする作風なのも特徴だ。

 

またロングレッグスが「クック―」とカッコウの鳴きマネをするシーンが特徴的だが、これはミロス・フォアマン監督「カッコーの巣の上で」からの引用ではないだろうか。「カッコーの巣の上で」は精神病を患う人の集まる精神病院を舞台にしていたが、”cuckoo”は”crazy”を表すスラングの意味もあるので、ロングレッグスの鳴きマネはそこから来ているのだろう。また「羊たちの沈黙」との比較は、レクター博士クラリス捜査官に固執する姿が本作に重なるからだと思うし、犯人が途中であっさり捕まる展開は「セブン」そのもの、さらに遠隔地から犯人が呪いをかける設定は、黒沢清監督の「CURE」だ。また本作はいわゆる”悪魔崇拝もの”であり、古くは定番の「エクソシスト」や「エンゼル・ハート」「オーメン」といった、キリスト教の神に対しての”悪魔”を絶対悪とする宗教観の国とは、恐怖の受け取り方が大きく変わる映画だと思う。そしてその中でもロングレッグスの作った人形はなぜ父親を洗脳できるのか?、主人公のリーはなぜ暗号解読の特殊な能力を持ってるのか?などに明確な回答はない。このあたりもリアル路線のサイコサスペンスを期待していると、やや肩透かしを食うかもしれない。

 

ロングレッグスが残した暗号である「stood upon the sand of the sea(海の砂の上に立っていた)」は、ヨハネの黙示録の一節であり、戦乱や飢饉、大地震などありとあらゆる禍と世界の終末が書かれた書だが、本作のロングレッグスも禍々しい存在だという事なのだと思う。本作の監督であるオズ・パーキンスは、アルフレッド・ヒッチコック監督によるサスペンス・ホラーの名作「サイコ」の主演俳優アンソニー・パーキンスの息子とのことで、映画業界の中ではサラブレッドなのだろうが、とにかく監督の好きな映画作品や影響を受けたサブカル/アートを全部入れ込んだような作品だ。テーマやキャラクターは既視感が強く、かつジャンプスケアの多用は気になる。正直サスペンススリラーとしては、期待値よりもこじんまりとした作品だったと思う。オズ・パーキンス監督の次回作であるスティーブン・キング原作、ジェームズ・ワン製作の「The Monkey」日本公開を楽しみに待ちたい。

 

 

6.0点(10点満点)