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映画「ベテラン2 凶悪犯罪捜査班」ネタバレ考察&解説 本作に影響を与えた可能性のある70年代の作品は?前作のような”勧善懲悪”ではなく、多様性を含んだテーマの続編!

 映画「ベテラン2 凶悪犯罪捜査班」を観た。 

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「ベルリンファイル」「密輸 1970」「モガディシュ 脱出までの14日間」など、韓国映画界の中でも圧倒的に高いクオリティの作品を出し続けているリュ・スンワン監督による刑事アクションで、2015年に韓国で大ヒットを記録した「ベテラン」の9年ぶりシリーズ第2弾。前作に続いてベテラン刑事ソドチョル役を、「新しき世界」「国際市場で逢いましょう」などのファン・ジョンミンが務めている。その他の出演は「ソウルの春」のチョン・ヘイン、「オールド・ボーイ」のオ・ダルス、「三姉妹」のチャン・ユンジュ、「デッドエンドの思い出」のアン・ボヒョンなど。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:リュ・スンワン
出演:ファン・ジョンミン、チョン・ヘイン、オ・ダルス、チャン・ユンジュ、アン・ボヒョン
日本公開:2025年

 

あらすじ

法では裁かれない悪人を標的にした連続殺人事件が発生。不条理な司法制度に不満を抱えていた世論は、犯人のことを善と悪を裁く伝説の生き物「ヘチ」と呼び、正義のヒーローとしてもてはやすようになる。熱血ベテラン刑事ソ・ドチョルと凶悪犯罪捜査班、さらにドチョルに心酔する新人刑事パク・ソヌも捜査に加わり、事件は解決に近づくかに見えた。しかし犯人は刑事たちをあざ笑うかのように、次の標的を名指しする予告をインターネット上に公開する。

 

 

感想&解説

リュ・スンワン監督作品にハズレ無しである。生き残るための3つの取引」「ベルリンファイル」「モガディシュ 脱出までの14日間」「密輸 1970」と快作を連発し、どれも途方もなく面白い。特に社会的なメッセージと娯楽性がマッチした作風がリュ・スンワン監督の特徴でもあり、どれも大人が楽しめる作品ばかりだ。そんなリュ・スンワン監督作の中でも、特に娯楽性/大衆性に振り切った作品が、2015年日本公開の「ベテラン」だろう。大韓航空のナッツ・リターン事件の直後に公開されたこともあり、財閥二世の横暴を正義感の強い刑事が成敗するというストーリーが受けて、韓国で大ヒットした作品だが、主演のファン・ジョンミンにとっても代表作となった一本で、今観てもかなり面白い。

特に登場キャラクターが魅力的で、ファン・ジョンミン演じるドチョルのベテラン刑事っぷりから、彼の上司であるオ・チーム長との掛け合い、紅一点でありコメディリリーフのミス・ボン、そして悪役である財閥御曹司のチョ・テオの極悪ぶりや、出世のためには全てを投げ出すチェ常務の描き方など、キャラクターが立っている。そして社会派のテーマを扱いながらも、随所にユーモアあふれる掛け合いとクオリティの高いアクションシーンが展開され、最後にはスカッと映画館を出てこられる勧善懲悪なストーリーが魅力の作品だった気がする。しかも今の視点で観ると、小さな役で「新感染 ファイナル・エクスプレス」でブレイクする前のマ・ドンソクが出演していたりと、とにかくエンタメ性には事欠かない作品だった。

 

そして、その「ベテラン」の9年ぶりの続編となるのが、この「ベテラン 凶悪犯罪捜査班」だ。監督はもちろんリュ・スンワンが続投しており、メインキャストもほとんど踏襲しているので、前作ファンも十分に楽しめるだろう。そしてこの続編は前作未見の方でも内容的には問題ないが、やはり観ておいた方が確実に楽しめる。前作で登場していたキャラクターがかなり登場して重要な役割を担うからだ。前作ではシンジン財閥に雇われた悪党だったチョン・マンシク演じるチョン・ソグは、本作で妊娠中の女性を殺した罪で逮捕されるが、故意ではないと判断されたことで懲役3年で出所し”ヘチ”に狙われる役だったし、”正義部長”の名で動画配信する男は、前作ではドチョルに協力して財閥の悪事を世間に広めた記者として登場していた。

 

 

さらに親に心を開かない思春期の息子ウジンも前作に登場していたが、まだまだ小学生の小さな子供で、ベッドに寝ているウジンのおでこにキスをするドチョルの姿からは親心が伝わってきたが、だからこそ本作の展開には胸が締め付けられる。しかも「男の子はケンカしながら成長するんだ」というセリフもドチョルは前作で確かに言っており、本作では不器用な親父として生きてきた責任を突きつけられるのだ。このあたりのキャラクターの変化を楽しむには、やはり前作は観ておいた方が良いかもしれない。冒頭のシーンで、女性刑事ボン・ユンジュがマダムたちの賭博場に潜入捜査する場面から始まるが、これも前作冒頭の中古車詐欺グループへの潜入捜査を思い出させるし、使われているBGMも前作がBlondieの 「Heart Of Glass」に対して、今回はBaccaraの「誘惑のブギー」と1970年代の女性ボーカルダンスクラシックで統一しているのも、明らかに意図的だろう。

 

そしてこのBGMが示すとおり、今作の賭博場オープニングシークエンスは前作のコメディ路線の延長にあり、かなり笑わせてくる。いわゆるスラップスティックコメディのノリで、このドタバタを安心して観ていられるのだ。ところが今回の続編は、この序盤が終わった段階でかなり”トーン”を変えてくる。この後の性暴力を行ったとされる大学教授の処刑シーンからは終始、かなりシリアスなトーンで最後まで物語が紡がれていくのだ。そしてこれは本作が描くテーマが前作の解りやすい”勧善懲悪”ではなく、多層性を含んだ展開だからだろう。ここからネタバレになるが、今回は人によって価値観の違う、”それぞれの正義”のぶつかり合いを描いた作品で、”犯罪者を殺すことは果たして犯罪なのか?”を観る者に問うてくる物語なのだ。

 

今回の悪役であるソヌは犯罪者を成敗し、世間から喝采を浴びるヒーローの側面を持ちながら、残虐な殺人者でもある。ソヌの正体は新人刑事パク・ソヌなのだが、この展開はテッド・ポスト監督、クリント・イーストウッド主演の1973年公開「ダーティハリー2」からの影響を感じる。「ダーティハリー2」で被害者になるのは、法の目を逃れてのし上がった大物悪党ばかりで、この事件の犯人は、法に代わって悪党を討つ正義の”死刑執行人”を気取った警察官だったというストーリーだ。”正義のためなら警官は悪党を撃ち殺していい”という主張を感じた、「ダーティハリー」1作目に対してのアンチテーゼのような作品だが、本作「ベテラン2」にもそれに通じるテーマを感じる。「殺人に良い殺人も悪い殺人もない」という劇中のドチョルのセリフがあるが、動画配信やSNSによって勢いを助長する”私刑”の危険性を見事に描いているからだ。

 

そしてその反対に、例え犯罪者の命であっても軽い命など無いという事を描いたのが、終盤の”心臓マッサージ”のシーンなのだろう。あのシーンにおいて劇中の死んでいった被害者たちの光景をフラッシュバックで描くことにより、目の前のパク・ソヌを同じ目に遭わせてはいけないというドチョルの強い信念を感じる。ドチョルは彼を実の息子のように思っていただろうからだ。そしてその後、実の息子と妻と共にラーメンをすするラストシーンによって、ドチョルの家族に平穏が訪れたことがスマートに描かれて、本作は幕となる。このシーンにおいても目線の置き方やセリフの喋り方だけで、ドチョルの息子への愛情を強く感じる名シーンだった。パク・ソヌを演じたチョン・ヘインも格闘アクションも素晴らしく、アクションシーンのレベルも軒並み高い。前作よりもやや複雑なテーマの作品だったが、ファン・ジョンミンを筆頭に役者陣の熱演も含めて、本当に面白かった本作。ラストの展開でどうやら3作目もありそうなので、次は9年も待たせずに公開してほしい。

 

 

8.5点(10点満点)