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映画「サンダーボルツ*」ネタバレ考察&解説 描かれているキャラクターとストーリーからのメッセージがしっかりとリンクしている、ヒーロー映画として満足度の高い一作!

映画「サンダーボルツ*」を観た。 

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映画「ペーパータウン」「素敵な相棒 フランクじいさんとロボットヘルパー」やテレビシリーズ「BEEF ビーフ」などを手掛けてきたジェイク・シュライアーがメガホンを取り、これまでのマーベル・シネマティック・ユニバース作品で各キャラクターを演じてきたキャスト陣が結集したヒーローアクション。MCUシリーズの第34作品目だ。脚本は「ブラック・ウィドウ」「マイティ・ソー バトルロイヤル」などを担当してきたエリック・ピアソンが手掛けている。出演は「ミッドサマー」のフローレンス・ピュー、「アプレンティス ドナルド・トランプの創り方」でも高く評価されたセバスチャン・スタン、「レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで」のデビッド・ハーバー、「エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に」のワイアット・ラッセル、「慰めの報酬」でボンドガールを務めたオルガ・キュリレンコ、「レディ・プレイヤー1」のハナ・ジョン=カーメンなど。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:ジェイク・シュライアー
出演:フローレンス・ピュー、デビッド・ハーバー、セバスチャン・スタン、ワイアット・ラッセル、オルガ・キュリレンコ
日本公開:2025年

 

あらすじ

ある時、ニューヨークの街に突如として大きな黒い影が出現。瞬く間に市民を消し去っていく謎の敵により、世界は再び大きな脅威に直面するが、そんな人類の危機にも、数々の敵から世界を救ってきたヒーローチームの「アベンジャーズ」は姿を現さない。CIA長官のヴァレンティーナは、誰がこの脅威から世界を救うのかを問いかけるが、そこで立ち上がったのが、かつてヒーローたちと対立したことのあるバッキー・バーンズだった。バッキーは、エレーナ、ジョン・ウォーカー、レッド・ガーディアン、ゴースト、そしてタスクマスターという、全員が過去に悪事を犯したことのあるならず者たちに声をかけ、「サンダーボルツ*」というチームを結成する。そんな彼らの前に、バッキーの強力な武器でもある義手すらも簡単に打ち砕く、謎の敵が現れる。

 

 

感想&解説

ヴィラン終結してチームを作るという、いわばマーベル版「スーサイド・スクワッド」とも言える本作「サンダーボルツ*」は、過去のマーベル作品で登場したキャラクターが集結する作品なので、ある程度の”前提”が要求される映画だろう。とはいえ事前に観ておくべき作品は3本ほどなので、そこまで敷居は高くない。ただフローレンス・ピュー演じるエレーナやデビッド・ハーバー演じるレッド・ガーディアンは、「ブラック・ウィドウ」を観ていないとナターシャとの関係が分からない事と、オルガ・キュリレンコ演じるタスクマスターも”レッドルーム”の長だった悪役ドレイコフの娘なので、まず2021年のケイト・ショートランド監督「ブラック・ウィドウ」はマストだろう。それから”U.S.エージェント”ことジョン・ウォーカーは、MCUドラマシリーズ「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」で初登場したキャラクターだが、本作でも”キャップのニセモノ”とイジられていたように、彼が新たな政府公認のキャプテン・アメリカとなるも闇落ちしていくという背景は重要な要素だ。

そして”ゴースト”はなんと7年ぶりの登場で、「アントマン&ワスプ」で初登場したキャラクターだ。幽霊の如くあらゆる物質をすり抜ける量子フェージング能力を持つキャラだが、「アントマン&ワスプ」の中でもヴィランとして登場しつつも最終的には味方となる人物で、過去ではこの一作でしか登場していない。そして最後はご存じ”ウィンターソルジャー”ことバッキー・バーンズであり、MCU最新作の「キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド」でも政治家に立候補するという発言があったが、本作ではすでに政治家となっており、MCU重要キャラクターの風格を見せている。そして彼らの背後にいるのが、CIA捜査官のエヴェレット・ロスの元妻でもあり、彼の上司でもあるCIA長官ヴァレンティーナだ。「ブラック・ウィドウ」でもナターシャの墓参りに来たエレーナや、「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」のラストでもキャプテン・アメリカの権限と称号を剥奪されたジョン・ウォーカーに接触する場面が描かれていたが、ヴァレンティーナの登場は本作への伏線だったのかもしれない。

 

さてそんな「サンダーボルツ*」は、エレーナの独白シーンから幕を開ける。来る日も来る日もヴァレンティーナの指示に従い、ミッションをこなしていくだけの日々を”虚無”だと感じ、彼女は裏家業から足を洗おうとしている。そんなエレーナは最後のミッションとして、OXEの巨大保管庫から証拠を盗もうとする人物を待ち伏せして、目的を聞き出し始末しろと命じられる。ここからネタバレになるが、エレーナが保管庫の地下に入ると、なぜかジョン・ウォーカー/ゴースト/タスクマスターと鉢合わせしたことから戦闘が始まる。するとそこにボブ・レイノルズという気弱そうな青年が現れ、困惑する一同。そしてエレーナたちは保管庫に閉じ込められるが、それはヴァレンティーナが証拠隠滅のためにエレーナたち全員を焼却処分する策略だったのだ。ゴーストの銃弾によってタスクマスターは死んでしまうものの、この危機的な状況を力を合わせることでなんとか脱出した一行だったが、地上でボブがヴァレンティーナの部下たちに銃でハチの巣になったことで彼の力が覚醒する。ボブはセントリー実験の生き残りで、超人的な能力を持っていたのだ。そのまま宙を飛ぶが墜落して気を失ったボブは、ヴァレンティーナの部下に保護される。

 

 

その後、レッド・ガーディアンとバッキー・バーンズと合流した一行。議員となったバッキーはヴァレンティーナの訴追裁判の証拠を追っており、エレーナたちを捕らえるが、ヴァレンティーナの秘書であるメルからボブのことを聞いたバッキーは4人を解放し、レッド・ガーディアンの先導で彼らはエレーナが子供の時に入っていたサッカーチーム「サンダーボルツ」を名乗ることになる。ヴァレンティーナのビルへ向かった一行を待っていたのは、”セントリー”と名乗るボブだったが、その圧倒的な強さの前に歯が立たず、サンダーボルツは一旦退散することになる。その後、ヴァレンティーナが用意していたキルスイッチによってボブは死亡するが、彼の虚無が彼自身を覆うことによって、漆黒のヴォイドに変貌してニューヨークの街を飲み込み始める。市民を必死に守るサンダーボルツだったが、エレーナはヴォイドの虚無世界の中に入り、ボブを説得しようとする。虚無世界では二人の哀しい過去の記憶が投影されエレーナはボブと共に窮地に陥るが、サンダーボルツのメンバーが現れて、ボブを抱きとめることで虚無世界から脱出し、ヴァレンティーナによって彼らは”ニューアベンジャーズ”として紹介されて、エンドクレジットとなる。

 

”ヒーロー映画”としては大満足の出来だったと思う。「スーサイド・スクワッド」というよりは、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」を思い出すような”はみ出し者たち”がヒーローになっていく物語で、特にストーリーのカタルシス度が高い。中盤まではコメディタッチであえて軽めに各キャラクターたちを描いておきながら、終盤のニューヨーク市民を助ける展開において、彼らの魅力が最大限になるような”ヤマ”の作り方は上手いし、この場面でしっかり心が掴まれる。落下してくる瓦礫に対して身体を張って市民を助ける姿にこそ、ヒーローの本懐だからだ。デビッド・ハーバー演じるレッド・ガーディアンは本作のコメディリリーフであり、豪快なキャラクター性もあって笑えるのだが、エレーナと親子関係を築くシーンではしっかりと父親としての顔も覗かせ、このギャップも良かった。本作でレッド・ガーディアンのファンは確実に増えると思う。

 

また悪役ヴォイドとの戦い方も”愛”によって救出するという展開で、今まで自分たちが孤独で蔑ろにされていたサンダーボルツだからこその着地は説得力がある。描かれているキャラクターと、ストーリーから表現されるメッセージがしっかりとリンクしているのである。誰しもが感じる”虚無感”や”孤独感”こそが本作の敵であり、誰かとそれをシェアしたり打ち明けたりすることで助けられるという明確なメッセージが、「サンダーボルツ」という作品のテーマにマッチしているのだ。まだ何者でもないボブとジョン・ウォーカー、ゴースト、エレーナが”おしくらまんじゅう”しながら筒状の通路を登っていくシーンが序盤にあり、ヒーローチーム(特にエレーナ)とボブの間の関係性を描いているからこそ、終盤の皆が彼を抱きしめる展開にも説得力が出る。”サンダーボルツ”という名称は、エレーナが子供の頃に所属していたサッカーチームの名前だという展開も、ふざけているようでエレーナへの愛情が伝わってくるエピソードになっていて巧い。ちなみにタイトルの「*(アスタリスク)」は監督いわく、「タイトル仮題」の意味として加えられたらしく、彼らが「ニュー・アベンジャーズ」となることの伏線だったのかもしれない。

 

ただそんな本作も不満点が3点ほどある。ひとつ目は”タスクマスター”の扱いだ。相手の動きや武装の使い方を完全にコピーできる能力をほとんど活かせないままに、ゴーストによって射殺されるという展開はあまりに雑な扱いで、なぜ登場させたのか疑問なくらいだ。2点目は、”セントリー”の超人的能力の発動がいきなりすぎる点で、コップを割ってから、彼が無敵になるまでの過程が急すぎて違和感を感じた点だ。これはもう少し説明があっても良かった。そして最後は全体を通して、盛り上がるアクションシークエンスがなかった点だ。前述のようにヴォイドとの戦い方は精神的な要素が強かった為、この映画ならではの印象的なアクション場面がなく、ここは大いに残念だったと思う。とはいえ本作はキャラクターとシナリオの魅力がかなり大きいので、個人的にはやや飽きがきていたMCUへの興味を再起させられたタイトルだったと思う。スルーしようかと思っていた「ファンタスティック4:ファースト・ステップ」も確実に観に行こうと思えたし、「アベンジャーズドゥームズデイ」への期待値も大いに上がった。キャプテン・アメリカと商標争いしているというギャグもあったが、むしろこのメンバーだけでの新作がまた観たい。

 

 

7.5点(10点満点)